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アスカの元へ
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エドワルド王子は急にホワイトブライアンに股がると、
「すまないが、狩らないといけない獲物を思い出したので先に行く」と言い残して駆け出した。
残されたリディア嬢含む令嬢達は「えー!」と驚いたが、気づいた頃にはエドワルド王子の乗ったホワイトブライアンははるか遠くを駆けていた。
令嬢達も馬に乗って王子の後を追いかけたが、もちろんホワイトブライアンとの差は開く一方である。とうとう王子の姿は見えなくなった。
ペルーラは爆走するホワイトブライアンから振り落とされないように首に必死にしがみついていた。
「ひえー。は、速い。お、落ちそうだよ」
「いたたた。痛いから爪を立てるなよ」
「ご、ごめん。だけどもう少しスピード落としてよ」
「王子の命令だから全速力で行く」
「一体どこに向かってるんだよ」
「さあ、屋敷の方だから、もしかしたら例のお嬢さんの所かもな」
「そりゃあいいや」
ペルーラの顔が明るくなった。
「ブライアン、お前は王子をアスカと会わせたくないんだろ。なのにアスカのところに向かっていいのか?」
「ああ、わしはアスカ嬢は気に食わんよ。キャロル嬢の方がよっぽどいい。だけど王子の命令は絶対だ」
「へぇー。そりゃあ僕としては好都合だ」
「王子は思い立ったらまっすぐだからなあ。アスカ嬢にあまりいれこまなければいいけど……」
ホワイトブライアンは草原をぐんぐん加速して屋敷に向かっていった。
王子はアスカと二人っきりになったとして何を話していいのか悩んでいた。
アスカ殿にとっては二人で会うことは迷惑な事かも知れない。
『 愛してる』『必ず迎えに来る』などと以前言ってしまった事が急に恥ずかしくなってきた。なぜなら、アスカ殿は自分の事をなんとも思っていないかもしれない。だとしたら俺はただの自惚れ野郎である。
実際、アスカ殿はジャルジャンの寝室に毎晩通っているそうではないか。ジャルジャンに気がなければそんなことはすまい。だとしたら、俺はとんだピエロである。アスカからの「城まで来て欲しい」と書かれていた手紙も、俺に会いたいのではなく、俺を諦めさせるために呼んだのかもしれない。
王子の心は揺れていた。
いつもの自信満々の王子ではなかった。
ただ、もう全速力で走り出した手前引き返す訳にはいかなかった。それは王子のプライドが許さなかった。だめで元々だ。当たって砕けるしかない。
王子は屋敷の庭に到着した。
ここからは馬の歩をゆっくりと進めた。
アスカに会うためにはどうすればいいだろう。部屋に直接行ってもいいものだろうか。そんな事を考えていた。
アスカはサーラと一緒に噴水の前のベンチに座って文字の分からない本を眺めていた。そして、生き物のスケッチが圧倒的に多い事に気づいた。多くの種類の生き物のスケッチだけではない。生き物の内蔵などのスケッチが細かく描かれていた。王子を待っていることを忘れて夢中になってページをめくっていた。そこには一種の美術的なものを感じていた。
「王子様が現れましたよ」そう言うサーラの声に気づいて顔を上げると白馬に乗った王子が正面にいた。王子はまだこちらに気づいていないようだ。
「まあ、素敵」とサーラがため息をついた。アスカは急に緊張して心臓がバクバクし始めた。
ペルーラが馬から降りてこちらに駆けてくる。
「ペルーラ、ありがとう」
「いや、実は僕は何もしてないよ」とペルーラが言っている時に、王子がアスカのことに気づいた。
その時、ぱっと明るくなった王子の表情を見てアスカはなぜか安心した。
王子はすかさずアスカの方に馬を進め、馬からサッと降りるとアスカの前にひざまずいた。
「一緒にどこかに行きませんか」と王子が手を拭って差し出した。
「え、ええ」とアスカは自然に手をとった。
その時の王子の表情がとても嬉しそうにみえた。
アスカはその顔を見ているだけで幸せな気分になった。
「ささ、早くしなければ邪魔者が現れるかもしれません。この白馬にお乗り下さい」と王子は急かした。
アスカは馬具にしがみつき必死に乗ろうとするが上手く乗れない。
すると王子が笑いながら言った。
「ははは。アスカ殿は馬に乗ったことがないのですか?」
「はい」
「なんと! 本当ですか? 珍しいお方だ」
そう言うと王子は馬具に足を引っ掛け馬に飛び乗った。
「さあ、手を貸して。それから足を私の足の上に乗せてください」
アスカは言われた通り手を伸ばして王子の手を掴み、足を差し出された王子の足の甲にのせた。
王子がアスカを引き寄せると、アスカの体は一気に馬上に乗った。アスカは怖くて思わず王子にしがみついてしまった。
王子にこれ程近づいたのは初めてだった。
恥ずかしさのあまり、体が燃えるように熱くなった。
王子も顔を真っ赤にしている。
アスカは王子に体を支えられて、何とか体勢を立て直して前を向いた。
王子が手網を握る手が両サイドからアスカに触れる。
二人ともぎこちないが、何とかバランスをとった。
「どちらに行きましょう」
「あちらの山の方へ。そこに教会があります」
「分かりました。向かいましょう」
「サーラ。行ってきます」
「いってらっしゃい。あまり遅くならないで」とサーラが手を振るのを後ろにホワイトブライアンが歩き始めた。ペルーラもいつの間にかアスカの前に座っていた。
「すまないが、狩らないといけない獲物を思い出したので先に行く」と言い残して駆け出した。
残されたリディア嬢含む令嬢達は「えー!」と驚いたが、気づいた頃にはエドワルド王子の乗ったホワイトブライアンははるか遠くを駆けていた。
令嬢達も馬に乗って王子の後を追いかけたが、もちろんホワイトブライアンとの差は開く一方である。とうとう王子の姿は見えなくなった。
ペルーラは爆走するホワイトブライアンから振り落とされないように首に必死にしがみついていた。
「ひえー。は、速い。お、落ちそうだよ」
「いたたた。痛いから爪を立てるなよ」
「ご、ごめん。だけどもう少しスピード落としてよ」
「王子の命令だから全速力で行く」
「一体どこに向かってるんだよ」
「さあ、屋敷の方だから、もしかしたら例のお嬢さんの所かもな」
「そりゃあいいや」
ペルーラの顔が明るくなった。
「ブライアン、お前は王子をアスカと会わせたくないんだろ。なのにアスカのところに向かっていいのか?」
「ああ、わしはアスカ嬢は気に食わんよ。キャロル嬢の方がよっぽどいい。だけど王子の命令は絶対だ」
「へぇー。そりゃあ僕としては好都合だ」
「王子は思い立ったらまっすぐだからなあ。アスカ嬢にあまりいれこまなければいいけど……」
ホワイトブライアンは草原をぐんぐん加速して屋敷に向かっていった。
王子はアスカと二人っきりになったとして何を話していいのか悩んでいた。
アスカ殿にとっては二人で会うことは迷惑な事かも知れない。
『 愛してる』『必ず迎えに来る』などと以前言ってしまった事が急に恥ずかしくなってきた。なぜなら、アスカ殿は自分の事をなんとも思っていないかもしれない。だとしたら俺はただの自惚れ野郎である。
実際、アスカ殿はジャルジャンの寝室に毎晩通っているそうではないか。ジャルジャンに気がなければそんなことはすまい。だとしたら、俺はとんだピエロである。アスカからの「城まで来て欲しい」と書かれていた手紙も、俺に会いたいのではなく、俺を諦めさせるために呼んだのかもしれない。
王子の心は揺れていた。
いつもの自信満々の王子ではなかった。
ただ、もう全速力で走り出した手前引き返す訳にはいかなかった。それは王子のプライドが許さなかった。だめで元々だ。当たって砕けるしかない。
王子は屋敷の庭に到着した。
ここからは馬の歩をゆっくりと進めた。
アスカに会うためにはどうすればいいだろう。部屋に直接行ってもいいものだろうか。そんな事を考えていた。
アスカはサーラと一緒に噴水の前のベンチに座って文字の分からない本を眺めていた。そして、生き物のスケッチが圧倒的に多い事に気づいた。多くの種類の生き物のスケッチだけではない。生き物の内蔵などのスケッチが細かく描かれていた。王子を待っていることを忘れて夢中になってページをめくっていた。そこには一種の美術的なものを感じていた。
「王子様が現れましたよ」そう言うサーラの声に気づいて顔を上げると白馬に乗った王子が正面にいた。王子はまだこちらに気づいていないようだ。
「まあ、素敵」とサーラがため息をついた。アスカは急に緊張して心臓がバクバクし始めた。
ペルーラが馬から降りてこちらに駆けてくる。
「ペルーラ、ありがとう」
「いや、実は僕は何もしてないよ」とペルーラが言っている時に、王子がアスカのことに気づいた。
その時、ぱっと明るくなった王子の表情を見てアスカはなぜか安心した。
王子はすかさずアスカの方に馬を進め、馬からサッと降りるとアスカの前にひざまずいた。
「一緒にどこかに行きませんか」と王子が手を拭って差し出した。
「え、ええ」とアスカは自然に手をとった。
その時の王子の表情がとても嬉しそうにみえた。
アスカはその顔を見ているだけで幸せな気分になった。
「ささ、早くしなければ邪魔者が現れるかもしれません。この白馬にお乗り下さい」と王子は急かした。
アスカは馬具にしがみつき必死に乗ろうとするが上手く乗れない。
すると王子が笑いながら言った。
「ははは。アスカ殿は馬に乗ったことがないのですか?」
「はい」
「なんと! 本当ですか? 珍しいお方だ」
そう言うと王子は馬具に足を引っ掛け馬に飛び乗った。
「さあ、手を貸して。それから足を私の足の上に乗せてください」
アスカは言われた通り手を伸ばして王子の手を掴み、足を差し出された王子の足の甲にのせた。
王子がアスカを引き寄せると、アスカの体は一気に馬上に乗った。アスカは怖くて思わず王子にしがみついてしまった。
王子にこれ程近づいたのは初めてだった。
恥ずかしさのあまり、体が燃えるように熱くなった。
王子も顔を真っ赤にしている。
アスカは王子に体を支えられて、何とか体勢を立て直して前を向いた。
王子が手網を握る手が両サイドからアスカに触れる。
二人ともぎこちないが、何とかバランスをとった。
「どちらに行きましょう」
「あちらの山の方へ。そこに教会があります」
「分かりました。向かいましょう」
「サーラ。行ってきます」
「いってらっしゃい。あまり遅くならないで」とサーラが手を振るのを後ろにホワイトブライアンが歩き始めた。ペルーラもいつの間にかアスカの前に座っていた。
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