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狩り二
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王子達と令嬢達は山腹の広い草原へとやってきた。紅葉が始まっていて赤い落ち葉が舞っている。ここならば、弓の腕を存分に試すことが出来る。
そこに運悪く一匹のうさぎが現れた。王子は弓をかまえてそのうさぎの方を狙った。
王子の手から矢が放たれた。
うさぎは飛んでくる矢に気づいて逃げ出した。
矢はうさぎを超えて向こう側に飛んでいく。
うさぎは猛ダッシュで逃げていった。
「惜しい! もう少しでしたわ」とリディアが悔しがった。
「いや、仕留めたはずだ」
狩猟犬が放たれた矢の方向に駆けつけ獲物を加えて戻ってきた。狩猟犬はキツネをくわえていた。
王子はキツネのしっぽを掴んで令嬢達の方に投げた。キツネの胸の辺りに矢が見事に突き刺さっており、血が流れていた。
「おおー」と歓声が上がった。
「さすが王子。うさぎではなく、キツネを狙っていたのですか?」とリディア嬢が聞く。
「この狐がうさぎを狙って油断していたのでね。それにキツネは肉も多いし、燻製にすると意外に美味い」
「まあ、それではこのキツネは燻製にいたしましょう」そう言ってリディアは獲物を付き人に持たせた。
王子達は次の獲物を探して馬を走らせ始めた。
「なあ、ホワイトブライアン。なあ」とペルーラはホワイトブライアンに語りかけていた。
「うるさい。先程からお主はなぜそこに乗っておる」とホワイトブライアンがついに答えた。
「ホワイトブライアン、やはりお前はただの馬ではないようだにゃ」
「左様、私はただの馬では無い。世界一速い精霊の宿る馬だ」
「だったらお願いがあるんだけど」
「なんじゃ」
「王子をアスカのところに連れて行って欲しい」
「アスカとはあの黒髪のお嬢さんか」
「そう。王子も会いたがってるはずにゃんだ」
「それは断る」
「なぜ?」
「あの娘にはオーラがない。王子にはふさわしくない。とくに黒髪が気に食わん」
「そんな。見た目で判断しないでよ」
「お前も黒いから気に食わん。この世で一番美しい色は白だ」
「色で判断する?」
「色は大事だと思うぞ。王子も白が好きだ。それと王子には幼なじみのキャロルお嬢さんがいる。わしはキャロル嬢が王子の妃にふさわしいと思うておる」
「そ、そんなあ。頼むよぉ」
「ふん!」
と言ってホワイトブライアンは鼻息を荒くしてペルーラを無視した。
ペルーラはがっかりした。ホワイトブライアンに頼んで王子をアスカの所に連れて行ってもらおうと計画していたのだ。正味ペルーラにはこの他に案はなく困ってしまった。アスカとの約束が守れない。アスカをこのまま待ちぼうけさせてしまう。
狩りの一行は 大木の下で休憩をした。
リディア嬢とその取り巻き達が王子を囲み、一見ほのぼのとした感じに見える。しかし、王子は内心つまらなかった。
狩りだというのにリディア嬢は着飾っていてとてもじゃないが険しい山の中に入る格好ではない。草原をうろちょろするのが関の山だ。王子は狩りをするならもっと本格的にガッツリと険しい山の中に入っていった方が楽しめるタイプなのだ。それをこのリディア嬢に気兼ねして狩りの真似事をするのが途方もなくつまらなかった。
「王子は狩りも上手なのですね」
「それほどでも」
「弓の腕はどうやって鍛えたんですの」
「子供の頃から山に入って遊んでいたもので自然と覚えました」
「あら、そうですの。たくましいですわね」そう言ってリディア嬢が王子を見つめた。
王子は露出の多いドレスで着飾ったリディアを見て、もう少し目的に合った服装で来てくれたらなあと苦々しく思った。一方、リディアの方は美しい自分をアピールするために自信のある部分をできるだけ露出した洋服を身にまとい、一番気に入ったアクセサリーをつけているのである。
王子とリディア嬢の目的は全く違うので噛み合うわけが無い。
確かにリディア嬢は自信を持つだけ美しかった。ここに集う令嬢達の中でも飛び抜けて美しいと誰もが認める。そして、その仕草も気品に満ち溢れしなやかであった。令嬢達もリディア嬢の美しさと気品に圧倒されて従うしか無かった。ただ、今の王子にはそれが鼻についた。
アスカ殿はどうだろう。あの控えめな態度と甘えない態度。異国に来て作法も分からないまま不安だろうに健気に対応しようとする姿。アスカ殿を守ってあげたい。しかし、アスカ殿は俺の事をどう思っているのだろう。一方的に「愛している」と伝え、迎えに来るから待っていてくれと言ったもののそんなものは待っていないかもしれない。嫌われているんじゃないか。俺はなんて自信過剰なやつなんだ。それに全くアスカ殿を守れてないじゃないか。
アスカ殿は今一体何しているんだろう。
アスカ殿がここに居ないということはアスカ殿は屋敷にいるということか。俺の事を嫌ってしまったのだろうか。
王子はふと思った。
アスカ殿の所に行きたい。
アスカと話がしたい。
そこに運悪く一匹のうさぎが現れた。王子は弓をかまえてそのうさぎの方を狙った。
王子の手から矢が放たれた。
うさぎは飛んでくる矢に気づいて逃げ出した。
矢はうさぎを超えて向こう側に飛んでいく。
うさぎは猛ダッシュで逃げていった。
「惜しい! もう少しでしたわ」とリディアが悔しがった。
「いや、仕留めたはずだ」
狩猟犬が放たれた矢の方向に駆けつけ獲物を加えて戻ってきた。狩猟犬はキツネをくわえていた。
王子はキツネのしっぽを掴んで令嬢達の方に投げた。キツネの胸の辺りに矢が見事に突き刺さっており、血が流れていた。
「おおー」と歓声が上がった。
「さすが王子。うさぎではなく、キツネを狙っていたのですか?」とリディア嬢が聞く。
「この狐がうさぎを狙って油断していたのでね。それにキツネは肉も多いし、燻製にすると意外に美味い」
「まあ、それではこのキツネは燻製にいたしましょう」そう言ってリディアは獲物を付き人に持たせた。
王子達は次の獲物を探して馬を走らせ始めた。
「なあ、ホワイトブライアン。なあ」とペルーラはホワイトブライアンに語りかけていた。
「うるさい。先程からお主はなぜそこに乗っておる」とホワイトブライアンがついに答えた。
「ホワイトブライアン、やはりお前はただの馬ではないようだにゃ」
「左様、私はただの馬では無い。世界一速い精霊の宿る馬だ」
「だったらお願いがあるんだけど」
「なんじゃ」
「王子をアスカのところに連れて行って欲しい」
「アスカとはあの黒髪のお嬢さんか」
「そう。王子も会いたがってるはずにゃんだ」
「それは断る」
「なぜ?」
「あの娘にはオーラがない。王子にはふさわしくない。とくに黒髪が気に食わん」
「そんな。見た目で判断しないでよ」
「お前も黒いから気に食わん。この世で一番美しい色は白だ」
「色で判断する?」
「色は大事だと思うぞ。王子も白が好きだ。それと王子には幼なじみのキャロルお嬢さんがいる。わしはキャロル嬢が王子の妃にふさわしいと思うておる」
「そ、そんなあ。頼むよぉ」
「ふん!」
と言ってホワイトブライアンは鼻息を荒くしてペルーラを無視した。
ペルーラはがっかりした。ホワイトブライアンに頼んで王子をアスカの所に連れて行ってもらおうと計画していたのだ。正味ペルーラにはこの他に案はなく困ってしまった。アスカとの約束が守れない。アスカをこのまま待ちぼうけさせてしまう。
狩りの一行は 大木の下で休憩をした。
リディア嬢とその取り巻き達が王子を囲み、一見ほのぼのとした感じに見える。しかし、王子は内心つまらなかった。
狩りだというのにリディア嬢は着飾っていてとてもじゃないが険しい山の中に入る格好ではない。草原をうろちょろするのが関の山だ。王子は狩りをするならもっと本格的にガッツリと険しい山の中に入っていった方が楽しめるタイプなのだ。それをこのリディア嬢に気兼ねして狩りの真似事をするのが途方もなくつまらなかった。
「王子は狩りも上手なのですね」
「それほどでも」
「弓の腕はどうやって鍛えたんですの」
「子供の頃から山に入って遊んでいたもので自然と覚えました」
「あら、そうですの。たくましいですわね」そう言ってリディア嬢が王子を見つめた。
王子は露出の多いドレスで着飾ったリディアを見て、もう少し目的に合った服装で来てくれたらなあと苦々しく思った。一方、リディアの方は美しい自分をアピールするために自信のある部分をできるだけ露出した洋服を身にまとい、一番気に入ったアクセサリーをつけているのである。
王子とリディア嬢の目的は全く違うので噛み合うわけが無い。
確かにリディア嬢は自信を持つだけ美しかった。ここに集う令嬢達の中でも飛び抜けて美しいと誰もが認める。そして、その仕草も気品に満ち溢れしなやかであった。令嬢達もリディア嬢の美しさと気品に圧倒されて従うしか無かった。ただ、今の王子にはそれが鼻についた。
アスカ殿はどうだろう。あの控えめな態度と甘えない態度。異国に来て作法も分からないまま不安だろうに健気に対応しようとする姿。アスカ殿を守ってあげたい。しかし、アスカ殿は俺の事をどう思っているのだろう。一方的に「愛している」と伝え、迎えに来るから待っていてくれと言ったもののそんなものは待っていないかもしれない。嫌われているんじゃないか。俺はなんて自信過剰なやつなんだ。それに全くアスカ殿を守れてないじゃないか。
アスカ殿は今一体何しているんだろう。
アスカ殿がここに居ないということはアスカ殿は屋敷にいるということか。俺の事を嫌ってしまったのだろうか。
王子はふと思った。
アスカ殿の所に行きたい。
アスカと話がしたい。
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