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王子と再会
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アスカはエドワルド王子に手紙を書いてからというもの、できるだけ噴水の近くのベンチで本を読みながら過ごした。ここなら屋敷の門が目の前なので、王子が駆けつけて来た時に一番に会うことが出来る。王子が来てくれるのか期待と不安が入り交じっていた。
ペルーラはこの屋敷に住む猫達と仲良くなって楽しそうに過ごしていた。今も数匹の猫達を従えて庭を走り回っている。中でもペルーラのお気に入りはシャム猫だと分かる。シャム猫の体型はペルーラにとてもよく似ていてすらっと細く白地の毛に、顔や手足の先、それとしっぽが黒っぽい。時折お互いの毛繕いをしている。それを他の猫達が邪魔をして喧嘩になっている。どうやらペルーラはこの屋敷の猫界でモテてるようだ。
噴水が大きく水を拭きあげたので、アスカが月の時計を見ると四時ちょうどを示していた。落ち葉が少し舞っている。秋も深まって来ているので肌寒いし暗くなってきている。そろそろ部屋に戻ろうかと思ったとき、屋敷の門が開いた。そちらに目を向けるとちょうど夕日が差し込んできて眩しかった。そこには一匹の馬とそれにまたがる人が立っていて、長い影を作っていた。逆光が眩しくてそれをエドワルド王子とはまだ確認できないが、アスカはそのシルエットから王子である事を確信した。胸の鼓動が高まり速くなった。
馬は一歩ずつアスカの方にゆっくり近づき逆光を遮った。その白い見事な馬体はホワイトブライアンに違いない。アスカが馬上を見上げるとエドワルド王子が微笑んでいた。アスカの胸は締め付けられるように苦しくなった。王子がまた来てくれたのだ。しかも、額に汗をかいている。ホワイトブライアンの息も荒く、馬体は汗でびっしょりとなり湯気が立ち込めていた。そうとう急いで駆けつけたに違いない。
― やはりこの人はわたしの好みドストライクだ
王子はすぐさま馬上から飛び降りるとアスカの前にひざまずいて言った。
「アスカ殿、お会いしたかった」
「わたしもです」そうアスカが言おうとした時には「きゃー」という黄色い歓声があがっていた。
エドワルド王子の周りにはみるみるうちに人だかりができた。庭やその周辺にいた三十人ばかりの令嬢が王子目当てにアスカを押しのけて集まってきたのだ。
(王子はわたしに会いに来たのにー)
アスカは心の中でむなしくつぶやいた。
王子とアスカの間は人混みによって遮られてしまった。まるで町で現れたアイドルにファンが群がっているような光景である。しばらくざわついていたが、そこにジャルジャンが現れた。
さすがに令嬢達も静かになった。
「エドワルド王子、ようこそ。我が屋敷へ」とジャルジャンが丁重に挨拶する。
「お招き頂き誠にありがとうございます」
「ささ、お部屋にご案内いたそう。馬はそちらのものに預けてこちらについて来られよ」
「アスカ殿と話が……」と王子が言いかけるが、
「アスカちゃんとは後ほどディナーの時にでもゆっくりと話せばいいの」そう言うと王子をさっさと連れ去っていった。数人の令嬢達が後を追って行った。
(なによ! わたしがどれだけ王子の事を待ってたか知ってるくせに! )
アスカはジャルジャンが王子を連れて行った事が気にくわなかったが、ディナーの時にゆっくり話せば良いと考え気持ちを切り替えた。
アスカは部屋に帰ってドレスを選んでメイクアップをしてディナーに備えた。メイドのサーラに手伝ってもらって髪をアップにした。
鏡の前に立ったアスカを見てサーラは「とても美しいですわ」と言ってくれた。
しかし、アスカには自信が持てなかった。少しでも王子に気に入られたいと思い、王子に美しいと思われたい。本当にこの黄色いドレスが似合っているのか、口紅の色は派手すぎないか、香水の匂いはきつすぎないか、気にすれば気にするほど迷いが生じた。胸が小さいのはしょうがないからできるだけのオシャレはしよう。そうしている間に時が過ぎ、あっという間にディナーの時間が来た。
アスカのドキドキは止まらなかった。
本当にこれから王子に会って嫌われてしまわないだろうか。それだけが不安でディナーの席に向かった。
王子に一言「うつくしい」と言って貰えればそれだけで安心できるのだが……。
ペルーラはこの屋敷に住む猫達と仲良くなって楽しそうに過ごしていた。今も数匹の猫達を従えて庭を走り回っている。中でもペルーラのお気に入りはシャム猫だと分かる。シャム猫の体型はペルーラにとてもよく似ていてすらっと細く白地の毛に、顔や手足の先、それとしっぽが黒っぽい。時折お互いの毛繕いをしている。それを他の猫達が邪魔をして喧嘩になっている。どうやらペルーラはこの屋敷の猫界でモテてるようだ。
噴水が大きく水を拭きあげたので、アスカが月の時計を見ると四時ちょうどを示していた。落ち葉が少し舞っている。秋も深まって来ているので肌寒いし暗くなってきている。そろそろ部屋に戻ろうかと思ったとき、屋敷の門が開いた。そちらに目を向けるとちょうど夕日が差し込んできて眩しかった。そこには一匹の馬とそれにまたがる人が立っていて、長い影を作っていた。逆光が眩しくてそれをエドワルド王子とはまだ確認できないが、アスカはそのシルエットから王子である事を確信した。胸の鼓動が高まり速くなった。
馬は一歩ずつアスカの方にゆっくり近づき逆光を遮った。その白い見事な馬体はホワイトブライアンに違いない。アスカが馬上を見上げるとエドワルド王子が微笑んでいた。アスカの胸は締め付けられるように苦しくなった。王子がまた来てくれたのだ。しかも、額に汗をかいている。ホワイトブライアンの息も荒く、馬体は汗でびっしょりとなり湯気が立ち込めていた。そうとう急いで駆けつけたに違いない。
― やはりこの人はわたしの好みドストライクだ
王子はすぐさま馬上から飛び降りるとアスカの前にひざまずいて言った。
「アスカ殿、お会いしたかった」
「わたしもです」そうアスカが言おうとした時には「きゃー」という黄色い歓声があがっていた。
エドワルド王子の周りにはみるみるうちに人だかりができた。庭やその周辺にいた三十人ばかりの令嬢が王子目当てにアスカを押しのけて集まってきたのだ。
(王子はわたしに会いに来たのにー)
アスカは心の中でむなしくつぶやいた。
王子とアスカの間は人混みによって遮られてしまった。まるで町で現れたアイドルにファンが群がっているような光景である。しばらくざわついていたが、そこにジャルジャンが現れた。
さすがに令嬢達も静かになった。
「エドワルド王子、ようこそ。我が屋敷へ」とジャルジャンが丁重に挨拶する。
「お招き頂き誠にありがとうございます」
「ささ、お部屋にご案内いたそう。馬はそちらのものに預けてこちらについて来られよ」
「アスカ殿と話が……」と王子が言いかけるが、
「アスカちゃんとは後ほどディナーの時にでもゆっくりと話せばいいの」そう言うと王子をさっさと連れ去っていった。数人の令嬢達が後を追って行った。
(なによ! わたしがどれだけ王子の事を待ってたか知ってるくせに! )
アスカはジャルジャンが王子を連れて行った事が気にくわなかったが、ディナーの時にゆっくり話せば良いと考え気持ちを切り替えた。
アスカは部屋に帰ってドレスを選んでメイクアップをしてディナーに備えた。メイドのサーラに手伝ってもらって髪をアップにした。
鏡の前に立ったアスカを見てサーラは「とても美しいですわ」と言ってくれた。
しかし、アスカには自信が持てなかった。少しでも王子に気に入られたいと思い、王子に美しいと思われたい。本当にこの黄色いドレスが似合っているのか、口紅の色は派手すぎないか、香水の匂いはきつすぎないか、気にすれば気にするほど迷いが生じた。胸が小さいのはしょうがないからできるだけのオシャレはしよう。そうしている間に時が過ぎ、あっという間にディナーの時間が来た。
アスカのドキドキは止まらなかった。
本当にこれから王子に会って嫌われてしまわないだろうか。それだけが不安でディナーの席に向かった。
王子に一言「うつくしい」と言って貰えればそれだけで安心できるのだが……。
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