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エドワルド王子へ手紙
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それからアスカは毎晩十時から十二時の間はジャルジャンの寝室に行って話をすることになった。アスカはジャルジャンがEDと分かった時から性的に襲われる心配がなく気軽な気持ちで話すことができるようになった。アスカにとってジャルジャンは男性でも女性でもなくその中間の存在(中性とでも呼ぶべきか)と話している感覚であった。
それにジャルジャンは昼間は結構仕事で忙しく、アスカと話をする時間は殆ど無かった。
ジャルジャンはもしアスカが有益な情報を提供して利益をもたらせば、王子に早く会わせてもいいと約束した。
そこで、アスカはジャルジャンに車や電車、飛行機などの乗り物の事について話した。しかし、まるで信じなかった。
次にスマホやパソコン、インターネットの事について話したが、この場合はそもそもの概念が伝わらなかった。
困ったアスカはもっと簡単な仕組みの自転車や電話やテレビ、ラジオ、電球などの話をした。ジャルジャンは今度は理解したが、そんなこと出来るはずないと鼻で笑っていた。
アスカはいつの間にかムキになって元あった世界の便利なものについて説明していたが、ジャルジャンにとってアスカの喋ることはSF小説の類に感じられていたに違いない。
しかし、ジャルジャンの質問に答える形でアスカが話していると『エネルギー』という言葉にとても強い関心を持った。『石油エネルギー』や『電気エネルギー』がある事を伝えるとより具体的な質問をされた。
そんなある晩、ジャルジャンがアスカに言った。
「エドワルド王子に会いたい?」
「もちろんです」
「王子をこの屋敷に招待してもいいわよ」
「本当?」
「ただし、王子が独りでこの屋敷に来るならばね」
「それは来てくれると思うけど……」
「じゃあエドワルド王子に単独で来るように手紙を出しなさい。王子さえ良ければいくらでもここで暮らしてもいいわよ」
「書く! 書く!」
アスカは王子とこの屋敷で過ごせるなんて夢のようだと思った。
「ただし、この屋敷はエドワルド王子にとっては敵対するルーカス王国の領土内よ。王子にとってはここで暮らすのはそれなりのリスクがあるわ。果たして来てくれるかしら」
「リスクって?」
「例えばルーカス王国のデシャン国王にバレればこの屋敷に乗り込まれて捕らえられても文句は言えないわ。それでもエドワルド王子はこの屋敷に来るかしら」
「もし捕らえられたらどうなるの?」
「さあ。それは分からないわ。たぶん、王子という身分だから命を取られることはないと思う。けど莫大な保証金を請求されると思う」
「……」 アスカは悩んだ。果たして王子に手紙を書くべきなのか、書かない方がいいのか。王子にリスクを背負わせるのは気が進まない。
「『愛』があればきっと王子は来てくれるはずよね。ふふふふふ。それとも来ないかしら?」
「それは来てくれると思うわ」
アスカは王子が『愛している』と言った言葉を思い出していた。
「だったらそれを証明してみなさい」
確かに王子の愛を確かめてみたい気はする。しかし、ジャルジャンのペースにのせられている気がした。
アスカは部屋に帰るとペルーラに相談した。
「それはやめといた方がいいよ」ペルーラは即答した。
「だよね」
「だって、あと九十日ほど我慢すれば晴れてエスタ王国に行けるわけだし」
「それもそうよね」
「そうそう。ジャルジャンは何考えてるか分からないから用心した方がいいよ」
「分かった。やめとく」
そう言ってアスカはその日は寝た。
しかし、毎晩のようにジャルジャンはアスカに手紙を書くように勧めた。その度にアスカの心は揺らいだ。
「王子の『愛』を試してみたら?」
(それは試してみたいけど……)
「『愛』というものが本当にあるのか知りたいの」
(それはわたしもよ)
「王子はアスカちゃんの事を愛してくれてるかしら」
(それは分からない)
「王子に会いたくないの?」
(それはものすごく会いたい)
アスカはジャルジャンに言われる事で王子に会いたい気持ちが日に日に積もってきた。
「王子が来てくれるかどうかだけ確認してすぐに帰って貰えばいいじゃない。そうすればリスクもそんなにないでしょ」
(それもそうね)
アスカはとうとうエドワルド王子に手紙を書くことにした。ペルーラは反対したが、アスカは王子の気持ちを確認したい気持ちが勝っていた。
エドワルド王子が来てくれたらそれだけで十分。すぐに帰ってもらおう。王子を長くは危険な目にはあわせられないわ。王子の気持ちが確認出来れば残りの日々を自信を持って過ごせる。ただそれだけよ。
アスカはジャルジャンの屋敷に来てくれるように王子へ手紙を書いて送った。
それにジャルジャンは昼間は結構仕事で忙しく、アスカと話をする時間は殆ど無かった。
ジャルジャンはもしアスカが有益な情報を提供して利益をもたらせば、王子に早く会わせてもいいと約束した。
そこで、アスカはジャルジャンに車や電車、飛行機などの乗り物の事について話した。しかし、まるで信じなかった。
次にスマホやパソコン、インターネットの事について話したが、この場合はそもそもの概念が伝わらなかった。
困ったアスカはもっと簡単な仕組みの自転車や電話やテレビ、ラジオ、電球などの話をした。ジャルジャンは今度は理解したが、そんなこと出来るはずないと鼻で笑っていた。
アスカはいつの間にかムキになって元あった世界の便利なものについて説明していたが、ジャルジャンにとってアスカの喋ることはSF小説の類に感じられていたに違いない。
しかし、ジャルジャンの質問に答える形でアスカが話していると『エネルギー』という言葉にとても強い関心を持った。『石油エネルギー』や『電気エネルギー』がある事を伝えるとより具体的な質問をされた。
そんなある晩、ジャルジャンがアスカに言った。
「エドワルド王子に会いたい?」
「もちろんです」
「王子をこの屋敷に招待してもいいわよ」
「本当?」
「ただし、王子が独りでこの屋敷に来るならばね」
「それは来てくれると思うけど……」
「じゃあエドワルド王子に単独で来るように手紙を出しなさい。王子さえ良ければいくらでもここで暮らしてもいいわよ」
「書く! 書く!」
アスカは王子とこの屋敷で過ごせるなんて夢のようだと思った。
「ただし、この屋敷はエドワルド王子にとっては敵対するルーカス王国の領土内よ。王子にとってはここで暮らすのはそれなりのリスクがあるわ。果たして来てくれるかしら」
「リスクって?」
「例えばルーカス王国のデシャン国王にバレればこの屋敷に乗り込まれて捕らえられても文句は言えないわ。それでもエドワルド王子はこの屋敷に来るかしら」
「もし捕らえられたらどうなるの?」
「さあ。それは分からないわ。たぶん、王子という身分だから命を取られることはないと思う。けど莫大な保証金を請求されると思う」
「……」 アスカは悩んだ。果たして王子に手紙を書くべきなのか、書かない方がいいのか。王子にリスクを背負わせるのは気が進まない。
「『愛』があればきっと王子は来てくれるはずよね。ふふふふふ。それとも来ないかしら?」
「それは来てくれると思うわ」
アスカは王子が『愛している』と言った言葉を思い出していた。
「だったらそれを証明してみなさい」
確かに王子の愛を確かめてみたい気はする。しかし、ジャルジャンのペースにのせられている気がした。
アスカは部屋に帰るとペルーラに相談した。
「それはやめといた方がいいよ」ペルーラは即答した。
「だよね」
「だって、あと九十日ほど我慢すれば晴れてエスタ王国に行けるわけだし」
「それもそうよね」
「そうそう。ジャルジャンは何考えてるか分からないから用心した方がいいよ」
「分かった。やめとく」
そう言ってアスカはその日は寝た。
しかし、毎晩のようにジャルジャンはアスカに手紙を書くように勧めた。その度にアスカの心は揺らいだ。
「王子の『愛』を試してみたら?」
(それは試してみたいけど……)
「『愛』というものが本当にあるのか知りたいの」
(それはわたしもよ)
「王子はアスカちゃんの事を愛してくれてるかしら」
(それは分からない)
「王子に会いたくないの?」
(それはものすごく会いたい)
アスカはジャルジャンに言われる事で王子に会いたい気持ちが日に日に積もってきた。
「王子が来てくれるかどうかだけ確認してすぐに帰って貰えばいいじゃない。そうすればリスクもそんなにないでしょ」
(それもそうね)
アスカはとうとうエドワルド王子に手紙を書くことにした。ペルーラは反対したが、アスカは王子の気持ちを確認したい気持ちが勝っていた。
エドワルド王子が来てくれたらそれだけで十分。すぐに帰ってもらおう。王子を長くは危険な目にはあわせられないわ。王子の気持ちが確認出来れば残りの日々を自信を持って過ごせる。ただそれだけよ。
アスカはジャルジャンの屋敷に来てくれるように王子へ手紙を書いて送った。
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