婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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ED

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 アスカの目からはいつの間にか涙が溢れ出ていた。ジャルジャンは本来はその愛を受けるべき存在から抱きしめられるどころか、殴られて深い傷を負って生きてきたのだ。
 それがどれだけ辛く、悲しく、悲惨なことだったか想像を絶する。自分の存在を否定されながら生きてきたようなものだ。

 ただ、ジャルジャンは一人でここまで登りつめてきた男だ。わたしなんかよりもとてつもなく強い。わたしなどが同情するような存在ではないのかもしれない。

 アスカは涙を拭って部屋にあったタオルを使ってジャルジャンの手当をした。

「いっつっっ」

「無茶するから」

「そんなナイフ持って来るからでしょ」

「身を守るためよ」

「私は女の子を襲ったりしないよ」

「そんな格好でよく言うわ」

ジャルジャンは一糸まとわぬ裸体である。

「これはその、体の傷を見せるためなわけで襲うためじゃないから」

「分かったから服を着てよ。なんでわたしに傷を見せるかなあ。しかも真っ裸で。目のやり場に困るじゃない。あなたがわたしを襲う気がないのは何となく分かったから」

「やっぱりわかる?」

「え? 何が?」

「私がイレクタイル・ディスファンクションだということを」

「イレクタイル・ディスファンクション?」

「そう。EDと略される病気よ」

「……つまりその、あれがあれなわけですか?」

「そうよ。あれがあれなんで女の子を襲うことなんて出来ないから。子孫も残せない」

「そうなんだ……。やはり精神的な問題で?」そう言いながらアスカは思わずジャルジャンの股間を見てしまった。暗くてはっきり見える訳では無いが、ジャルジャンの精神的な闇はだいぶ深い。やはり幼い頃に受けた虐待が原因なのだろうか。

 ジャルジャンはその視線に気づくと恥ずかしくなったのか、ガウンを羽織りながら言った。
「私の傷とEDの事は誰にも言っちゃだめよ。内緒だから。他の人にはほとんど見せたことないんだから」

「そんな事わたしから人に言わないわよ。言えるわけないじゃない」

 そう言いながら、アスカはジャルジャンの傷付いた手を優しく両手で包み込んだ。

― ジャルジャンはお金で令嬢を買い漁るいやらしい奴かと思っていたけどそうではなかったんだ。

「私はありのままを晒したんだから、今度はあなたの番よ」

「いやよ」

「なんでよ」

「嫌に決まってるじゃない。なんでわたしが脱がなきゃならないのよ」

「?」

「?」

「ははははは。何言ってるの。勘違いしないで脱げとは言ってないでしょ」

「脱がなくていいの?」

「当たり前よ。あなたの暮らしていた国について聞きたいのよ」

「なんだ。脱がなくていいのか」

「脱ぎたきゃ脱いでもいいけど」

「ふん。お断りします」

「あなたの暮らしてた国はこことは異なるでしょ。その国について教えて欲しい」

 「それを聞いてどうするつもり?」

「参考にする」

「こことは違いすぎてて参考にならないと思う」

「違いすぎる? ますますお金の匂いがするわね」そう言ってジャルジャンは鼻をヒクつかせた。

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