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ジャルジャンの命令
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翌朝、アスカは朝早くからサーラに起こされた。
寝ぼけ眼で窓の外に目をやると晴れ渡っていた。
窓を開けるとそこにはルーカスの街並みが一望できた。
遠くには海が見える。大きな帆船がゆっくりと行き交っていた。
朝食の際に執事のフランソワから一日の予定を聞かされたが、ジャルジャンと屋敷の中を見学して回るらしい。ジャルジャンと行動を共にするなんて憂鬱だった。
― あの男、いやらしい事を要求してくるかと思っていたら、昨日はそんな素振りは全くなかった。技術とお金儲けの方が興味があるらしい。でも、油断は出来ない。
アスカは近くで毛繕いをしているペルーラに話しかけた。
「ペルーラほジャルジャンのことどう思った?」
「おネエ風な喋り方と金ピカのファッションセンスはいただけないけど、意外と紳士的だよね」
「そうよね。もっとえげつないこと要求されるかと思ってたけど……」
「まあ、もう少し警戒して様子を見る必要があるにゃん」
「そうね。どうやってこんな莫大な資産を手に入れてるのかも分からないし」
「そうそう、悪いことして金儲けしてるかもしれない」
「簡単には信用しない方がいいわね」
「そうするにゃん。僕もできるだけジャルジャンの事について調べる事にするよ」そう言ってペルーラは舌で肩の毛を舐めた。
「おはよう! 私のハニーガール! 愛してるわ」
アスカ達が庭に出るとジャルジャンが赤い薔薇の花束を持って現れた。相変わらず金ピカの衣装に身をまとっている。
「はいこれ。私からの愛のしるしよ」と言ってアスカに薔薇の花束を渡す。とても綺麗な形をした薔薇である。アスカは悪い気はしなかった。
「私、自ら選んで摘んできたのよ。綺麗でしょ~」
「で、でもこんなにたくさん持って歩けない」
「あー、大丈夫。サーラに渡して部屋に飾っておいてもらいましょう」そう言ってジャルジャンが指を鳴らすとメイドがすぐに現れた。
「さ、さ、これをサーラに渡しておいて」
「はい。ご主人様」そう言ってメイドは薔薇の花束を持って去っていった。
アスカはジャルジャンのペースにのせられていた。
「さあ、行くわよ」と言ってジャルジャンはツカツカと速足で歩き始めた。アスカとペルーラとフランソワが後について行く。
ジャルジャンは次々と屋敷の中を案内して行った。そこには、研究施設、図書室、劇場、スポーツジム、武道場、グランド、温泉、植物園、動物園などさまざまな設備があった。
そして、意外なことにジャルジャンはここに住んでいる人達からすごく人気があるようだった。どこに行っても人々が集まってきて話しかけてくる。強制的ではなさそうだった。
「どう? 気に入った?」
「すごく広いし、立派。大学みたい。いやそれ以上だわ」アスカは設備の凄さに圧倒されていた。
「ここにあるものは全て自由に使っていいわよ」
「ありがとう」アスカは素直に礼を言った。
「じゃ、わたしは昼は仕事で忙しいから、これで失礼するわ。何かあったらフランソワとサーラになんでも言いつけなさい。またディナーで会いましょ」そう言い残すとジャルジャンは慌ただしく去っていった。
それから数日間、アスカは昼間は屋敷内を自由に散策し、毎晩ジャルジャンとディナーを共にした。エドワルド王子の元に行ける日を指折り数えているが、なかなか日は進まない。そして、ジャルジャンは夕食の度に黒髪の人々の国について質問してきた。しかし、アスカは元の世界のことに関して詳しくは喋らなかった。元の世界の知識は自分の切り札のような気もしたし、それを喋る事で、この世界のバランスを壊してしまう気がしたからである。しかし、そんな頑なな態度のアスカにジャルジャンはだんだんイラついてきた。
「このままでは埒が明かないわ。アスカちゃん。今日からあなたは私と寝室を共にしなさい」
― ついに来たわ!
「そんなの嫌です」
「だってあなたは何も話そうとしないじゃない。もっと打ち解ける必要があるわ」
「そんな必要ありません」
「私にはその必要があるの。毎晩十時に私の部屋に来なさい。これは命令よ」
ジャルジャンはそう言うとさっさと食堂を出て行った。何かしらの決意の表情が見てとれた。
アスカは密かにステーキ用のナイフを袖の中に忍ばせた。いざとなればこのナイフで……。
寝ぼけ眼で窓の外に目をやると晴れ渡っていた。
窓を開けるとそこにはルーカスの街並みが一望できた。
遠くには海が見える。大きな帆船がゆっくりと行き交っていた。
朝食の際に執事のフランソワから一日の予定を聞かされたが、ジャルジャンと屋敷の中を見学して回るらしい。ジャルジャンと行動を共にするなんて憂鬱だった。
― あの男、いやらしい事を要求してくるかと思っていたら、昨日はそんな素振りは全くなかった。技術とお金儲けの方が興味があるらしい。でも、油断は出来ない。
アスカは近くで毛繕いをしているペルーラに話しかけた。
「ペルーラほジャルジャンのことどう思った?」
「おネエ風な喋り方と金ピカのファッションセンスはいただけないけど、意外と紳士的だよね」
「そうよね。もっとえげつないこと要求されるかと思ってたけど……」
「まあ、もう少し警戒して様子を見る必要があるにゃん」
「そうね。どうやってこんな莫大な資産を手に入れてるのかも分からないし」
「そうそう、悪いことして金儲けしてるかもしれない」
「簡単には信用しない方がいいわね」
「そうするにゃん。僕もできるだけジャルジャンの事について調べる事にするよ」そう言ってペルーラは舌で肩の毛を舐めた。
「おはよう! 私のハニーガール! 愛してるわ」
アスカ達が庭に出るとジャルジャンが赤い薔薇の花束を持って現れた。相変わらず金ピカの衣装に身をまとっている。
「はいこれ。私からの愛のしるしよ」と言ってアスカに薔薇の花束を渡す。とても綺麗な形をした薔薇である。アスカは悪い気はしなかった。
「私、自ら選んで摘んできたのよ。綺麗でしょ~」
「で、でもこんなにたくさん持って歩けない」
「あー、大丈夫。サーラに渡して部屋に飾っておいてもらいましょう」そう言ってジャルジャンが指を鳴らすとメイドがすぐに現れた。
「さ、さ、これをサーラに渡しておいて」
「はい。ご主人様」そう言ってメイドは薔薇の花束を持って去っていった。
アスカはジャルジャンのペースにのせられていた。
「さあ、行くわよ」と言ってジャルジャンはツカツカと速足で歩き始めた。アスカとペルーラとフランソワが後について行く。
ジャルジャンは次々と屋敷の中を案内して行った。そこには、研究施設、図書室、劇場、スポーツジム、武道場、グランド、温泉、植物園、動物園などさまざまな設備があった。
そして、意外なことにジャルジャンはここに住んでいる人達からすごく人気があるようだった。どこに行っても人々が集まってきて話しかけてくる。強制的ではなさそうだった。
「どう? 気に入った?」
「すごく広いし、立派。大学みたい。いやそれ以上だわ」アスカは設備の凄さに圧倒されていた。
「ここにあるものは全て自由に使っていいわよ」
「ありがとう」アスカは素直に礼を言った。
「じゃ、わたしは昼は仕事で忙しいから、これで失礼するわ。何かあったらフランソワとサーラになんでも言いつけなさい。またディナーで会いましょ」そう言い残すとジャルジャンは慌ただしく去っていった。
それから数日間、アスカは昼間は屋敷内を自由に散策し、毎晩ジャルジャンとディナーを共にした。エドワルド王子の元に行ける日を指折り数えているが、なかなか日は進まない。そして、ジャルジャンは夕食の度に黒髪の人々の国について質問してきた。しかし、アスカは元の世界のことに関して詳しくは喋らなかった。元の世界の知識は自分の切り札のような気もしたし、それを喋る事で、この世界のバランスを壊してしまう気がしたからである。しかし、そんな頑なな態度のアスカにジャルジャンはだんだんイラついてきた。
「このままでは埒が明かないわ。アスカちゃん。今日からあなたは私と寝室を共にしなさい」
― ついに来たわ!
「そんなの嫌です」
「だってあなたは何も話そうとしないじゃない。もっと打ち解ける必要があるわ」
「そんな必要ありません」
「私にはその必要があるの。毎晩十時に私の部屋に来なさい。これは命令よ」
ジャルジャンはそう言うとさっさと食堂を出て行った。何かしらの決意の表情が見てとれた。
アスカは密かにステーキ用のナイフを袖の中に忍ばせた。いざとなればこのナイフで……。
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