24 / 71
黒髪の人々の国
しおりを挟む
「いいわよ」とジャルジャンは即答した。
― え? いいの? あっさり?
「その代わり、私と今すぐ婚姻を結びなさい。そして、百日後にはここに必ず戻って来なさい」
ジャルジャンは笑いながら言っている。まるで、アスカの返答を見透かしているようだ。
「……それはイヤ。あなたとは結婚したくない」
「いやにはっきり言うのね。そんなに私が嫌い?」
「……」アスカは返答に困った。
「まあいいわ。私もあなたに相当な大金を払っているからね。その分は楽しませてもらうわ」
なぜかジャルジャンは先程からおネエ風な口調である。
「わたしにそんな大金をかけて何の意味があるの? 私をどうするつもり?」
「あらあら。あなたは自分の価値がわかっていないみたいね。その黒髪に黒い瞳、黄色い肌はこの辺りではレア血統よ。しかも、かなりの純血。誰もがその血を望むわ」
「レア血統? 純血?」
「そう。あなたはこの世界の事をあまりよく分かっていないようね。教えてあげるわ。
大昔にこの辺りにも黒髪で黄色の肌を持った人々の国があったの。
黒髪の人々は内気で争いを好まず、臆病で他の種族との交流をあまりしなかった。
ただ、知的で素晴らしい技術をたくさん持っていたので経済的には潤っていたのよ。すごく繁栄していた。
それを快く思っていなかった人種差別主義者の国王デーブによって迫害され、東に追いやられたの。
そして、黒髪の人々は争いを避け、たくさんの大型船で大海の向こうに逃げようとした。しかし、とてつもなく大きな嵐に見舞われた。そして、多くの黒髪の人々が遭難して亡くなったの。
奇跡的に生き残った僅かな黒髪の人々の血はとても重宝されたわ。
何故なら、その血を受け継いだものは新しい技術をバンバン発明する能力に長けていたから。
しかし、年々その血は薄くなり今ではほぼ見かけなくなった。
そこにいきなりあなたのような黒髪の純血が現れたのよ。
これは我々にとっては驚くべきことよ。
途絶えたと思われていた黒髪の人々が生き残っているって事だもの。
アスカちゃん。あなたはいったいどこから来たの?」
「わたしは……ニホンに住んでいた」
「ニホン? 聞いたことも無い国ね。そこにはあなたのような黒髪の人はたくさんいる?」
「もちろん、たくさんいるわ」
「やはり黒髪の人々は生き残っているのね。ふふふふ。楽しみだわ」
ジャルジャンは不敵な笑みを浮かべた。
アスカはジャルジャンの話を聞いていてこの世界は自分の住んでいた世界と違うのではないかと思った。もしかしたら日本なんて存在しない世界にいるのかもしれない。聞いたことの無い国の名前ばかりだし、文明も遅れているようだ。時間も空間も異なる世界にいるのだろうか。
「あなたの事は調べさせてもらったわ。エスタ王国の森の中にいたそうね。どうやって来たの?」
「それが分からないの。気がついたら森の中だった……」
「記憶喪失? もしくは新しい移動技術? まあいいわ。あなたのいた国はとんでもない技術を持っているようね。あなたが森で見つかった時に着ていたものを調べたら見たことの無い布が使われていたわ」
そう言ってジャルジャンはアスカの昔つけていたブラジャーを取り出した。
「やめてー」アスカは思わず叫んだ。
自分の下着をこんな所で晒されるなんて、恥ずかしすぎる。
「あら、恥ずかしかったかしら。ごめんなさい」そう言ってジャルジャンは執事のフランソワに手渡した。
― なんていう屈辱。
アスカは顔を真っ赤にして怒った。
「あなたの嫌がることをしたかった訳じゃないの。ただ確認したかったのよ。これは間違いなくあなたのものね」
「……そうよ」
「あの布を詳しく調べたところ、自然界には存在しないものが使われていることが分かったわ」
― それは化学繊維が使われてるんだもの。自然界に存在しないのは当たり前じゃない。
「この布についてなにかご存知かしら」
「……」アスカは黙っていた。
「あらあら。黙っていてもいいことは無いわよ。わたしはあなた自身よりもむしろ、先進技術の方に興味があるの」
「それを知ってどうするつもり」
「新しい技術は生活を豊かにするわ。富も手に入る。私はそれを使って世界を平和にするの」
「世界平和?」
「そうよ。貧乏はダメよ。お金があればみんな幸せになれるのよ。この屋敷に住んでいる人たちをみた? みんな幸せそうでしょう。私の支配する領域が広がれば、世界はもっと平和になるはずよ」
― アスカはジャルジャンの言うことが本当かどうか分からなかった。ただ、ジャルジャンの言っていることは間違っていないような気がする。
「私に協力してちょうだい」
「……」アスカはまだ返事が出来なかった。
「まあ、まだ信頼されていないのもしょうがないわ。明日から私についてらっしゃい。色々と面白いものを見せてあげるわ。ふふふふ」
そう言ってジャルジャンは席を立ちあがった。
「あ、そう言えばあなたの黒猫だけど、飼ってもいいわよ。あの部屋は好きに使ってちょうだい。ここにいる間はあなたに不自由はさせないわ。その代わり逃げ出したらただじゃ置かないわよ」ジャルジャンの目が鋭く光った。
― え? いいの? あっさり?
「その代わり、私と今すぐ婚姻を結びなさい。そして、百日後にはここに必ず戻って来なさい」
ジャルジャンは笑いながら言っている。まるで、アスカの返答を見透かしているようだ。
「……それはイヤ。あなたとは結婚したくない」
「いやにはっきり言うのね。そんなに私が嫌い?」
「……」アスカは返答に困った。
「まあいいわ。私もあなたに相当な大金を払っているからね。その分は楽しませてもらうわ」
なぜかジャルジャンは先程からおネエ風な口調である。
「わたしにそんな大金をかけて何の意味があるの? 私をどうするつもり?」
「あらあら。あなたは自分の価値がわかっていないみたいね。その黒髪に黒い瞳、黄色い肌はこの辺りではレア血統よ。しかも、かなりの純血。誰もがその血を望むわ」
「レア血統? 純血?」
「そう。あなたはこの世界の事をあまりよく分かっていないようね。教えてあげるわ。
大昔にこの辺りにも黒髪で黄色の肌を持った人々の国があったの。
黒髪の人々は内気で争いを好まず、臆病で他の種族との交流をあまりしなかった。
ただ、知的で素晴らしい技術をたくさん持っていたので経済的には潤っていたのよ。すごく繁栄していた。
それを快く思っていなかった人種差別主義者の国王デーブによって迫害され、東に追いやられたの。
そして、黒髪の人々は争いを避け、たくさんの大型船で大海の向こうに逃げようとした。しかし、とてつもなく大きな嵐に見舞われた。そして、多くの黒髪の人々が遭難して亡くなったの。
奇跡的に生き残った僅かな黒髪の人々の血はとても重宝されたわ。
何故なら、その血を受け継いだものは新しい技術をバンバン発明する能力に長けていたから。
しかし、年々その血は薄くなり今ではほぼ見かけなくなった。
そこにいきなりあなたのような黒髪の純血が現れたのよ。
これは我々にとっては驚くべきことよ。
途絶えたと思われていた黒髪の人々が生き残っているって事だもの。
アスカちゃん。あなたはいったいどこから来たの?」
「わたしは……ニホンに住んでいた」
「ニホン? 聞いたことも無い国ね。そこにはあなたのような黒髪の人はたくさんいる?」
「もちろん、たくさんいるわ」
「やはり黒髪の人々は生き残っているのね。ふふふふ。楽しみだわ」
ジャルジャンは不敵な笑みを浮かべた。
アスカはジャルジャンの話を聞いていてこの世界は自分の住んでいた世界と違うのではないかと思った。もしかしたら日本なんて存在しない世界にいるのかもしれない。聞いたことの無い国の名前ばかりだし、文明も遅れているようだ。時間も空間も異なる世界にいるのだろうか。
「あなたの事は調べさせてもらったわ。エスタ王国の森の中にいたそうね。どうやって来たの?」
「それが分からないの。気がついたら森の中だった……」
「記憶喪失? もしくは新しい移動技術? まあいいわ。あなたのいた国はとんでもない技術を持っているようね。あなたが森で見つかった時に着ていたものを調べたら見たことの無い布が使われていたわ」
そう言ってジャルジャンはアスカの昔つけていたブラジャーを取り出した。
「やめてー」アスカは思わず叫んだ。
自分の下着をこんな所で晒されるなんて、恥ずかしすぎる。
「あら、恥ずかしかったかしら。ごめんなさい」そう言ってジャルジャンは執事のフランソワに手渡した。
― なんていう屈辱。
アスカは顔を真っ赤にして怒った。
「あなたの嫌がることをしたかった訳じゃないの。ただ確認したかったのよ。これは間違いなくあなたのものね」
「……そうよ」
「あの布を詳しく調べたところ、自然界には存在しないものが使われていることが分かったわ」
― それは化学繊維が使われてるんだもの。自然界に存在しないのは当たり前じゃない。
「この布についてなにかご存知かしら」
「……」アスカは黙っていた。
「あらあら。黙っていてもいいことは無いわよ。わたしはあなた自身よりもむしろ、先進技術の方に興味があるの」
「それを知ってどうするつもり」
「新しい技術は生活を豊かにするわ。富も手に入る。私はそれを使って世界を平和にするの」
「世界平和?」
「そうよ。貧乏はダメよ。お金があればみんな幸せになれるのよ。この屋敷に住んでいる人たちをみた? みんな幸せそうでしょう。私の支配する領域が広がれば、世界はもっと平和になるはずよ」
― アスカはジャルジャンの言うことが本当かどうか分からなかった。ただ、ジャルジャンの言っていることは間違っていないような気がする。
「私に協力してちょうだい」
「……」アスカはまだ返事が出来なかった。
「まあ、まだ信頼されていないのもしょうがないわ。明日から私についてらっしゃい。色々と面白いものを見せてあげるわ。ふふふふ」
そう言ってジャルジャンは席を立ちあがった。
「あ、そう言えばあなたの黒猫だけど、飼ってもいいわよ。あの部屋は好きに使ってちょうだい。ここにいる間はあなたに不自由はさせないわ。その代わり逃げ出したらただじゃ置かないわよ」ジャルジャンの目が鋭く光った。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる