婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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黒髪の人々の国

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「いいわよ」とジャルジャンは即答した。

― え? いいの? あっさり?

「その代わり、私と今すぐ婚姻を結びなさい。そして、百日後にはここに必ず戻って来なさい」

 ジャルジャンは笑いながら言っている。まるで、アスカの返答を見透かしているようだ。

「……それはイヤ。あなたとは結婚したくない」

「いやにはっきり言うのね。そんなに私が嫌い?」

「……」アスカは返答に困った。

「まあいいわ。私もあなたに相当な大金を払っているからね。その分は楽しませてもらうわ」
 なぜかジャルジャンは先程からおネエ風な口調である。

「わたしにそんな大金をかけて何の意味があるの? 私をどうするつもり?」

「あらあら。あなたは自分の価値がわかっていないみたいね。その黒髪に黒い瞳、黄色い肌はこの辺りではレア血統よ。しかも、かなりの純血。誰もがその血を望むわ」

「レア血統? 純血?」

「そう。あなたはこの世界の事をあまりよく分かっていないようね。教えてあげるわ。

 大昔にこの辺りにも黒髪で黄色の肌を持った人々の国があったの。

 黒髪の人々は内気で争いを好まず、臆病で他の種族との交流をあまりしなかった。
 
 ただ、知的で素晴らしい技術をたくさん持っていたので経済的には潤っていたのよ。すごく繁栄していた。

 それを快く思っていなかった人種差別主義者の国王デーブによって迫害され、東に追いやられたの。

 そして、黒髪の人々は争いを避け、たくさんの大型船で大海の向こうに逃げようとした。しかし、とてつもなく大きな嵐に見舞われた。そして、多くの黒髪の人々が遭難して亡くなったの。

奇跡的に生き残った僅かな黒髪の人々の血はとても重宝されたわ。

何故なら、その血を受け継いだものは新しい技術をバンバン発明する能力に長けていたから。

 しかし、年々その血は薄くなり今ではほぼ見かけなくなった。

そこにいきなりあなたのような黒髪の純血が現れたのよ。

これは我々にとっては驚くべきことよ。

途絶えたと思われていた黒髪の人々が生き残っているって事だもの。

アスカちゃん。あなたはいったいどこから来たの?」

「わたしは……ニホンに住んでいた」

「ニホン? 聞いたことも無い国ね。そこにはあなたのような黒髪の人はたくさんいる?」

「もちろん、たくさんいるわ」

「やはり黒髪の人々は生き残っているのね。ふふふふ。楽しみだわ」

 ジャルジャンは不敵な笑みを浮かべた。

 アスカはジャルジャンの話を聞いていてこの世界は自分の住んでいた世界と違うのではないかと思った。もしかしたら日本なんて存在しない世界にいるのかもしれない。聞いたことの無い国の名前ばかりだし、文明も遅れているようだ。時間も空間も異なる世界にいるのだろうか。

「あなたの事は調べさせてもらったわ。エスタ王国の森の中にいたそうね。どうやって来たの?」

「それが分からないの。気がついたら森の中だった……」

「記憶喪失? もしくは新しい移動技術? まあいいわ。あなたのいた国はとんでもない技術を持っているようね。あなたが森で見つかった時に着ていたものを調べたら見たことの無い布が使われていたわ」

そう言ってジャルジャンはアスカの昔つけていたブラジャーを取り出した。

「やめてー」アスカは思わず叫んだ。

自分の下着をこんな所で晒されるなんて、恥ずかしすぎる。

「あら、恥ずかしかったかしら。ごめんなさい」そう言ってジャルジャンは執事のフランソワに手渡した。

― なんていう屈辱。

アスカは顔を真っ赤にして怒った。

「あなたの嫌がることをしたかった訳じゃないの。ただ確認したかったのよ。これは間違いなくあなたのものね」

「……そうよ」

「あの布を詳しく調べたところ、自然界には存在しないものが使われていることが分かったわ」

― それは化学繊維が使われてるんだもの。自然界に存在しないのは当たり前じゃない。

「この布についてなにかご存知かしら」

「……」アスカは黙っていた。

「あらあら。黙っていてもいいことは無いわよ。わたしはあなた自身よりもむしろ、先進技術の方に興味があるの」

「それを知ってどうするつもり」

「新しい技術は生活を豊かにするわ。富も手に入る。私はそれを使って世界を平和にするの」

「世界平和?」

「そうよ。貧乏はダメよ。お金があればみんな幸せになれるのよ。この屋敷に住んでいる人たちをみた? みんな幸せそうでしょう。私の支配する領域が広がれば、世界はもっと平和になるはずよ」

― アスカはジャルジャンの言うことが本当かどうか分からなかった。ただ、ジャルジャンの言っていることは間違っていないような気がする。

「私に協力してちょうだい」

「……」アスカはまだ返事が出来なかった。

「まあ、まだ信頼されていないのもしょうがないわ。明日から私についてらっしゃい。色々と面白いものを見せてあげるわ。ふふふふ」

そう言ってジャルジャンは席を立ちあがった。

「あ、そう言えばあなたの黒猫だけど、飼ってもいいわよ。あの部屋は好きに使ってちょうだい。ここにいる間はあなたに不自由はさせないわ。その代わり逃げ出したらただじゃ置かないわよ」ジャルジャンの目が鋭く光った。
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