婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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ジャルジャンの屋敷

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 ジャルジャンの屋敷は山の中腹にあり、周りを塀で囲まれていた。立派な門の中に馬車が入ると、そこはとてつもなく広い石畳の庭になっていた。ランプがいくつも灯されており、夜なのに明るい。中央には大きな噴水があり水が流れている。それを囲むようにヨーロッパ風の建物が数棟建っており、まるで大学のキャンパスのようだ。辺りは山に囲まれていて自然が豊かである。空気が澄んでいて排気ガスやチリの臭いが全くしない。人の姿がちらほら見られ、会話が聞こえてくる。みんなここでは穏やかに暮らしているようだ。

― 想像していたのとは違う。知的というか文化的と言うかそんな雰囲気が漂っている。

「お待ちしておりました。アスカ様。馬車よりお降り下さい」

 そう言って黒い礼服のような衣装を着た男性がアスカを出迎えた。

「初めまして。私はこの屋敷の執事フランソワでございます」

「初めまして。わたしはアスカです。よろしくお願いします」馬車から降りるとアスカはお辞儀した。

「これよりお部屋までご案内いたします。荷物はございませんか?」

「荷物は特にありません……」

とペルーラが馬車から姿を現した。

「にゃーん」とアスカの足元にすり寄ってくる。半透明でなくなっている。みんなの前に姿を現したようだ。

「あ、この子はペルーラです。飼っても大丈夫ですか?」

「まあ、可愛らしいですね。ペットですか。ジャルジャン様は生き物は大好きですので歓迎されると思います。すぐにお伺いしておきましょう」

「よろしくお願いします」

「ささ、どうぞこちらへ」

 アスカはフランソワの案内に従って歩いた。

 アスカは敷地内で一番大きな建物の三階の部屋に案内された。まるで一流ホテルの部屋のように豪華で広い。

「今日からこのお部屋をご自由にお使いください。必要なものがあればこちら、メイドのサーラにお言いつけください」

「サーラです。よろしくお願いします」
 ぽっちゃりしたメイド姿の少女がいつの間にかいて、お辞儀していた。大きめの胸が衣装のデザインで強調されている。クルクルの金髪にリボンが着いていて笑顔が可愛らしい。

「アスカです。よろしくお願いします」

「アスカ様のような素敵な方にお使い出来て嬉しいです」

「え、あ、はい」

― いえ、あなたの方が遥かに素敵でしょ。そんなセリフを言われても困るんだけど……。

「それではゆっくりおくつろぎください。一時間後位に食事の準備が整いましたらお呼びいたします」そう言ってフランソワは出て行った。

 サーラが部屋の中を案内してくれた。部屋にはソファ、ベッド、シャワールーム、衣装ルームなど生活に必要なものは全て揃っていた。大きな窓からは屋敷の庭を一望できる。今は暗くて景色はよく分からないが、遠くに灯りがちらほら見える。きっとあそこに町があるのだろう。空にはめまいがするほどの星の数である。

― なんて素敵な部屋なんだろう。こんな部屋で生活できるなんて夢のよう。アスカはソファでくつろぎながらペルーラをもふもふした。



 少しうとうとしかけた頃にドアがノックされ、執事のフランソワが呼びに来た。案内された場所は広い食堂で長細いテーブルが中央にでーんと置いてあり、椅子が並べられていた。五十人位は一緒に食事が出来るであろう。世話係のメイドが数人配置されている。その上座にジャルジャンが座っていた。

「アスカちゃーん。こっちこっち」そう手を振って馴れ馴れしく呼んでいる。競売場の時の態度と全然違う。アスカはジャルジャンの近くの料理が用意されている席に座った。

「ささ、疲れたでしょ~。お飲み物は何にする?ワインもあるしシャンパンもあるし好きな物を飲んでね」

「白ワインをお願いします」

「かしこまりました」そう言ってメイドがよく冷えた白ワインをアスカのグラスについだ。

「かんぱーい」

そう言うジャルジャンとグラスを合わせた。ワインを一口飲むとフルーティーな味わいが口に広がった。さっぱりしていて飲みやすい。

「お腹すいたでしょ遠慮せずに食べてね」

 アスカはお腹が空いていたので遠慮せずに食べた。というか、先程席に座った時からスープの香りが漂っていてすぐにでも食べだしたい気持ちを抑えていた。

― うま~い。

今まで食べたことの無い旨みのあるコンソメスープだった。そうなると空腹が刺激されて夢中で食べ続けた。

「アスカちゃん、とてもいい食べっぷりね」
 ジャルジャンの声に顔を上げると、周りのみんなが注目してみていた。

― きゃ~。恥ずかしい。乙女ががっつく姿を見られてしまったわ。

アスカはいったん食べるのをやめた。

「いいのいいの。そういうところも素敵だわ。この屋敷では自由にくつろいでね。欲しいものは遠慮せずになんでも言ってね。用意するわ」

アスカはジャルジャンの目を見た。
くりくりっと見開かれた青い目はなんでも見透かしたようにアスカをみている。
意外に無邪気で可愛らしい。
吸い込まれそうな感覚になったが、気を取り直して言った。

「わたしはエドワルド王子の元に行きたい」

 アスカは自分の意思をジャルジャンにハッキリと伝えた。これは馬車の中から言おう決めていた事だ。
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