婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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アスカの境遇

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 アスカは不安な気持ちで揺られる馬車の中にいた。明日はどうなるか分からない日々を過ごしている。今日ようやく王子に救出されるかと期待していたのにジャルジャンの元に行くことになってしまった。いったい、ジャルジャンはどんな男なのだろう。あの派手な成金趣味の衣装や令嬢を買い漁っている姿を見ると全く好感が持てない。きっといやらしい男に違いない。

 それに比べてエドワルド王子は……。

ああああああああぁぁぁ

 確かに王子は真っ直ぐな青い瞳でわたしを見て、

「あなたを愛しています」と言った。

 あの言葉を思い出すと何杯でもご飯がおかわりできる。

 まるで、イケメンアイドルがドラマや映画の中でヒロインに向けて吐くセリフである。

 たとえ勘違いであったとしてもわたしに向けて発せられたのである。

脳内であのシーンが何度も再生され

 ぽわ~ん

としてしまう。

 しかも、王子は何度もわたしの事を救おうと立ち向かって来てくれた。

 ついつい本当の愛を感じてしまう。

 あの強い王子が目に涙を浮かべて悲しんで落ち込んでいる姿は

萌え

だわ。

じゅるり

アスカは思わず出てくるよだれをすすった。

何とかしてあげなくては……

百日後、何としとも王子の元に行かなければいけない。

それが例え勘違いの愛であったとしても、王子を悲しませたくない。

 エドワルド王子にはそう思わせる誠実さとひたむきさがあった。

 それにこの時計をさりげなく返してくれるところなんて自然な気遣いができる人よね。あの行動は根が良くないと出来ないわ。わたしの好みのタイプだわ。

じゅるりとふたたびよだれがでてきた。


「アスカ、さっきから何をニヤついてるにゃん」

 その声にハッとして足元を見るとペルーラがこちらをみている。

「べ、別にー」
アスカはペルーラに見られていたと思うと恥ずかしくなって赤くなった。

「どうせご馳走の事でも考えてたんでしょ」

た、確かにご馳走と言えばご馳走であるが、
「そんな事ないわよ」と答えておく。

 ペルーラはアスカの膝の上に飛び乗ってきた。ペルーラの首をモフモフする。

「アスカはジャルジャンのところに行くのが不安ではないの?」

「そりゃ不安よ。あんな成金趣味のいやらしい男だもの。どんなにお金を持っているかしれないけど、わたしはお金にはなびかないわ」

「アスカはジャルジャンが落札した百二十万ゴールドの価値がわかってる?」

「そう、それ聞こうと思ってたんだけど、一ゴールドって日本円でいくら?」

「アスカの住んでた世界で言えば一ゴールド約一万円だにゃん」

「ふーん。そっか」アスカは値が大き過ぎて直ぐには計算出来ない。

「だから、百二十万ゴールドは百二十億円にゃん」

「ぶっ! 百二十億円!?」アスカは思わず目を丸くした。

「そうにゃん」

「なんでそんな大金をわたしに?」

「それだけの価値がアスカにあるって事さ」

「どんだけ~。てか、ジャルジャンはどんだけ金持ちなの。てか、王子もわたしに百十億円も出そうとしたって事?」

「イエス」

「なんて事よ! そりゃ王子も引かざるをえないわ。それにミカラムは半分の六十万ゴールドも手に入れたの?」

「イエス」

 アスカはいまいち自分の置かれている立場が理解できない。そんな大金をわたしに出す意味がわからない。この世界は何かが狂ってるわ。

「これからわたしはどうなるの?」

「それは僕にも分からない。君の選択次第で大きく運命が変わる。六十万ゴールド貰ってジャルジャンと結婚するか、百日間ジャルジャンと過ごした後王子の元に戻るか」

「その百日間てどうなるの?」

「それはジャルジャン次第だよ。百日間は彼の言う事は絶対だ。逆らえばどうなるか分からない。売春宿に連れていかれても文句は言えない。何せ百二十万ゴールドも払っているからね。ただし、それは百日間まで。その後は自由になれる。ジャルジャンと婚姻を結ばなければ六十万ゴールドは貰えないけどね」

「ジャルジャンに百日間いやらしい事をされる可能性もあるって事?」

「そう」

「いざとなれば首を掻っ切って死ぬしかないわ」

「そんな怖い事言わないで。そんな事したら王子が悲しむよ。僕も悲しいし」

 アスカはこの先どうするか考えた。

 馬車は深い山の中に向かっていく。辺りはすっかり暗くなっている。

 馬車はジャルジャンの大きな屋敷の前で止まった。
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