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王子との会話
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「それでは、アスカ・オノ・グンスイ殿の落札者はジャルジャン殿に決定いたします!」
司会者がそう告げると、スタジアムがこれまでの中で一番の歓声に包まれた。
アスカはショックで暗い穴の中にクルクルと回転しながら落ちていくような感覚に見舞われた。
「王子……」
戸惑いと不安と脱力と色々な感情が押し寄せてきて呆然とした。
ジャルジャンが王子の肩を叩きながら言う。
「エドワルド王子、残念だったな。しかし、世の中には愛だけではどうにもならないこともある。アスカ殿もそのうち俺になびくさ。彼女の事は諦めるんだな」
「くっ!」王子にとってアスカは古文書の言い伝えによって妃になるべきお人である。しかしそれ以上に、今日ドレスを身にまとい着飾ったアスカを改めて見て、王子には一目惚れに近い感情が湧いている事に気づいた。不思議なオーラというか目に見えぬ力というかそういった類のものをアスカから感じていた。だからこそ、相当な無理をした。下手をすれば国家が危うくなるほどであった。しかし、王子は今、気持ちや努力ではどうにもならない自体に直面している。しかも、自分はアスカへの愛を強く感じているが、アスカが自分をどう思っているのかは全く分かっていない。この状況では絶望と諦めしか無かった。王子は今までまっすぐに意志を貫いて生きてきた。しかし、今人生の中で最も大きな挫折を味わっていた。ただ、最後に自分の気持ちだけはアスカ殿に伝えたい。
「ジャルジャン殿、最後にアスカ殿と話をさせてくれ」
「それが人にものを頼む時の態度かね。しかもアスカ殿は今や俺の最も大事な花嫁候補なのだよ」とジャルジャンは口元を不敵にゆがめた。
― いちいちムカつくヤツめ!
王子は悔しい気持ちをこらえてジャルジャンの足元に膝まづいて頭を下げた。
「ジャルジャン殿、どうかアスカ殿と話をする機会をお与えください。よろしくお願いします」
「そこまで言うなら許可しよう。ただし、一分だけだ」
「ありがとうございます」王子はアスカの前へ進み出た。アスカの前にひざまずき、手を取った。アスカは憧れの王子に手を触れられて電流が走るような衝撃を感じた。
「アスカ殿、またも約束を果たせず、救い出せずにすみません。しかし、私はあなたを愛しています」そう言って真っ直ぐに青い目で見つめられるとアスカは胸をズキューンと撃ち抜かれるような感覚がした。
「都合のいい話ですが、もし、百日経ってもジャルジャンと婚姻を結ばなかった時はぜひ私の元へお越しください。それまでお待ちしております。何があろうともあなたを想う心は変わりません。もう私にはそれしか打つ手がありません」王子はそう言ってアスカの両手を固く握りしめた。
アスカはしゃがみこんで王子と目線を合わせた。王子の目には涙が浮かんでいた。男としてのプライドを失った男の目である。右の眉毛の上には先日負った怪我の後がまだ生々しく残っている。
「王子、なぜ私のためにそこまでしてくれるのですか?」
「あなたは私の妃になるべきお人なのです」
「それは何かのお間違いではないのですか?」
「この時計が証拠です。そうだ。この時計をお返しします」そう言って王子は月の時計をアスカに手渡した。
「この時計は……」
「そこまでだ。一分を超えた」とジャルジャンが告げる。
アスカと王子の短い会話は終了して、二人は引き裂かれた。
こうしてポスティング大会が終了した。
アスカとペルーラは馬車に乗せられてジャルジャンの屋敷に連れられた。
司会者がそう告げると、スタジアムがこれまでの中で一番の歓声に包まれた。
アスカはショックで暗い穴の中にクルクルと回転しながら落ちていくような感覚に見舞われた。
「王子……」
戸惑いと不安と脱力と色々な感情が押し寄せてきて呆然とした。
ジャルジャンが王子の肩を叩きながら言う。
「エドワルド王子、残念だったな。しかし、世の中には愛だけではどうにもならないこともある。アスカ殿もそのうち俺になびくさ。彼女の事は諦めるんだな」
「くっ!」王子にとってアスカは古文書の言い伝えによって妃になるべきお人である。しかしそれ以上に、今日ドレスを身にまとい着飾ったアスカを改めて見て、王子には一目惚れに近い感情が湧いている事に気づいた。不思議なオーラというか目に見えぬ力というかそういった類のものをアスカから感じていた。だからこそ、相当な無理をした。下手をすれば国家が危うくなるほどであった。しかし、王子は今、気持ちや努力ではどうにもならない自体に直面している。しかも、自分はアスカへの愛を強く感じているが、アスカが自分をどう思っているのかは全く分かっていない。この状況では絶望と諦めしか無かった。王子は今までまっすぐに意志を貫いて生きてきた。しかし、今人生の中で最も大きな挫折を味わっていた。ただ、最後に自分の気持ちだけはアスカ殿に伝えたい。
「ジャルジャン殿、最後にアスカ殿と話をさせてくれ」
「それが人にものを頼む時の態度かね。しかもアスカ殿は今や俺の最も大事な花嫁候補なのだよ」とジャルジャンは口元を不敵にゆがめた。
― いちいちムカつくヤツめ!
王子は悔しい気持ちをこらえてジャルジャンの足元に膝まづいて頭を下げた。
「ジャルジャン殿、どうかアスカ殿と話をする機会をお与えください。よろしくお願いします」
「そこまで言うなら許可しよう。ただし、一分だけだ」
「ありがとうございます」王子はアスカの前へ進み出た。アスカの前にひざまずき、手を取った。アスカは憧れの王子に手を触れられて電流が走るような衝撃を感じた。
「アスカ殿、またも約束を果たせず、救い出せずにすみません。しかし、私はあなたを愛しています」そう言って真っ直ぐに青い目で見つめられるとアスカは胸をズキューンと撃ち抜かれるような感覚がした。
「都合のいい話ですが、もし、百日経ってもジャルジャンと婚姻を結ばなかった時はぜひ私の元へお越しください。それまでお待ちしております。何があろうともあなたを想う心は変わりません。もう私にはそれしか打つ手がありません」王子はそう言ってアスカの両手を固く握りしめた。
アスカはしゃがみこんで王子と目線を合わせた。王子の目には涙が浮かんでいた。男としてのプライドを失った男の目である。右の眉毛の上には先日負った怪我の後がまだ生々しく残っている。
「王子、なぜ私のためにそこまでしてくれるのですか?」
「あなたは私の妃になるべきお人なのです」
「それは何かのお間違いではないのですか?」
「この時計が証拠です。そうだ。この時計をお返しします」そう言って王子は月の時計をアスカに手渡した。
「この時計は……」
「そこまでだ。一分を超えた」とジャルジャンが告げる。
アスカと王子の短い会話は終了して、二人は引き裂かれた。
こうしてポスティング大会が終了した。
アスカとペルーラは馬車に乗せられてジャルジャンの屋敷に連れられた。
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