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手を挙げて前に出てきたのは十数名。
その中にはもちろんエドワルド王子も含まれていた。
王子は華やかな白い王族の衣装を着て姿勢よく立っていた。金色のボタンとステッチがワンポイントとなって輝いている。エドワルド王子が観衆に手を振ると「キャー」という黄色い歓声が上がった。観衆の一部は明らかにエドワルド王子を見にきている。アスカはエドワルド王子の整った顔に青い目から放たれる爽やかな笑顔を見ているとたいそうモテるに違いないと思った。
そのエドワルド王子がアスカに向けて手を振ってきた。
アスカの胸はキュンとなった。
ああ、やっぱりわたしはこの王子に恋をしているのかもしれない。顔はどストライクで好みだし、運動神経も良い。あの胸板や腕、サラサラの金髪に触れてみたいと思った。そして何より、わたしの事を想ってここまで追いかけてきてくれている。わたしに向けられて振られる手がそれを示している。
アスカは小さく手を振り返した。するとブーイングが起こった。
「何よ!」 とアスカは思った。王子が手を振ってくれてるんだから、応えたっていいじゃない。アスカの中で王子から自分に向けてくれる態度は心の支えとなっていた。王子がわたしの事をもしずっと思ってくれるなら、わたしはこの知らない世界でも幸せに暮らしていけるとアスカは思った。
入札に参加した中でも一際目立つ人物はルーカス王国の国王デシャンであった。
この国ではもちろん誰もが知るデシャン国王自ら入札に名乗りを上げるということで観客は今日一番のヒートアップをみせた。
入札人数が多いということで、人数が減るまでは金額を司会者が自動的に釣り上げた。
「一万ゴールド!」という掛け声には全員が手を挙げた。
司会者は二万、三万、と景気よく金額を上げていく。まるで、早朝の魚市場にいるような活気が生まれた。
「十万ゴールド!」という声にもまだ半数近くの者が入札に残った。
「どんどん上げていきますよー」
「ウォーーー」という大観衆と共に価格は上がっていった。
アスカはエドワルド王子が手を上げて残る度に胸がキュンとなり、ほっとした。そして、入札価格がそれ以上は上がらないように願った。
しかし、あっという間に本日の最高値の二十万ゴールドまで上がった。さすがにそうなると退席してしまうものがほとんどであった。
残ったのは、デシャン国王とエドワルド王子とほか数名である。
「これからが本番にゃん」とペルーラが言う。
「まだ上がるの?」
「たぶん。デシャン国王がいるからね。負けるのはプライドが許さないよ」
ここからは、各自が入札価格を指定する通常の方式に戻った。
「三十万ゴールド!」とデシャン国王が一気に値を上げた。
「四十万ゴールド!」とすぐさまエドワルド王子がさらに大きく値を上げる。意地でも落札するという決意の鋭い目をしている。
アスカにはゴールドの価値が分からないが、そうとう高い金額であるだろうと想像できる。そして、王子の積み上げる札束はアスカの目にはバラの花束のように思えた。
「ムムムムム」とデシャン国王が苦しい顔をしていたが、「四十一万ゴールド」と叫んだ。
アスカにとってエドワルド王子の入札金が薔薇の花束ならば、デシャン国王の入札金は毒蛇のように思われた。デシャン国王の元に行かねばならなくなるなんて、毒蛇に噛まれたようなものだ。死に等しい苦痛である。
「四十二万ゴールド」と王子が応えた。
アスカはこのまま終わることを祈った。
デシャン国王には既に三人の側室がいた。言わば、アスカは四番目の側室候補である。四番目の側室をそれなりの金額で迎えるということは、正室やその他の側室に対してもそれなりの施しをしなければならない。さすがのデシャン国王も四番目の側室にそこまで張り合う訳には行かなかった。ついにデシャン国王の手が止まった。
エドワルド王子が勝ったかに思われたその時、
「五十万ゴールド!」という声があがった。
そこに目を向けると不敵な笑みを浮かべる紳士が立っていた。
その中にはもちろんエドワルド王子も含まれていた。
王子は華やかな白い王族の衣装を着て姿勢よく立っていた。金色のボタンとステッチがワンポイントとなって輝いている。エドワルド王子が観衆に手を振ると「キャー」という黄色い歓声が上がった。観衆の一部は明らかにエドワルド王子を見にきている。アスカはエドワルド王子の整った顔に青い目から放たれる爽やかな笑顔を見ているとたいそうモテるに違いないと思った。
そのエドワルド王子がアスカに向けて手を振ってきた。
アスカの胸はキュンとなった。
ああ、やっぱりわたしはこの王子に恋をしているのかもしれない。顔はどストライクで好みだし、運動神経も良い。あの胸板や腕、サラサラの金髪に触れてみたいと思った。そして何より、わたしの事を想ってここまで追いかけてきてくれている。わたしに向けられて振られる手がそれを示している。
アスカは小さく手を振り返した。するとブーイングが起こった。
「何よ!」 とアスカは思った。王子が手を振ってくれてるんだから、応えたっていいじゃない。アスカの中で王子から自分に向けてくれる態度は心の支えとなっていた。王子がわたしの事をもしずっと思ってくれるなら、わたしはこの知らない世界でも幸せに暮らしていけるとアスカは思った。
入札に参加した中でも一際目立つ人物はルーカス王国の国王デシャンであった。
この国ではもちろん誰もが知るデシャン国王自ら入札に名乗りを上げるということで観客は今日一番のヒートアップをみせた。
入札人数が多いということで、人数が減るまでは金額を司会者が自動的に釣り上げた。
「一万ゴールド!」という掛け声には全員が手を挙げた。
司会者は二万、三万、と景気よく金額を上げていく。まるで、早朝の魚市場にいるような活気が生まれた。
「十万ゴールド!」という声にもまだ半数近くの者が入札に残った。
「どんどん上げていきますよー」
「ウォーーー」という大観衆と共に価格は上がっていった。
アスカはエドワルド王子が手を上げて残る度に胸がキュンとなり、ほっとした。そして、入札価格がそれ以上は上がらないように願った。
しかし、あっという間に本日の最高値の二十万ゴールドまで上がった。さすがにそうなると退席してしまうものがほとんどであった。
残ったのは、デシャン国王とエドワルド王子とほか数名である。
「これからが本番にゃん」とペルーラが言う。
「まだ上がるの?」
「たぶん。デシャン国王がいるからね。負けるのはプライドが許さないよ」
ここからは、各自が入札価格を指定する通常の方式に戻った。
「三十万ゴールド!」とデシャン国王が一気に値を上げた。
「四十万ゴールド!」とすぐさまエドワルド王子がさらに大きく値を上げる。意地でも落札するという決意の鋭い目をしている。
アスカにはゴールドの価値が分からないが、そうとう高い金額であるだろうと想像できる。そして、王子の積み上げる札束はアスカの目にはバラの花束のように思えた。
「ムムムムム」とデシャン国王が苦しい顔をしていたが、「四十一万ゴールド」と叫んだ。
アスカにとってエドワルド王子の入札金が薔薇の花束ならば、デシャン国王の入札金は毒蛇のように思われた。デシャン国王の元に行かねばならなくなるなんて、毒蛇に噛まれたようなものだ。死に等しい苦痛である。
「四十二万ゴールド」と王子が応えた。
アスカはこのまま終わることを祈った。
デシャン国王には既に三人の側室がいた。言わば、アスカは四番目の側室候補である。四番目の側室をそれなりの金額で迎えるということは、正室やその他の側室に対してもそれなりの施しをしなければならない。さすがのデシャン国王も四番目の側室にそこまで張り合う訳には行かなかった。ついにデシャン国王の手が止まった。
エドワルド王子が勝ったかに思われたその時、
「五十万ゴールド!」という声があがった。
そこに目を向けると不敵な笑みを浮かべる紳士が立っていた。
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