14 / 71
古文書
しおりを挟む
エドワルド王子は城に帰るとすぐさまエスタ王国の国王アンリの元に向かった。
コンコン
「入れ!」
ガチャリとエドワルド王子が王室のドアを開けると、相変わらずダンディなアンリ国王があごひげを触りながら立っていた。
「エドワルド王子か。どうしたその怪我は?」
「不意打ちに不覚をとってしまいました。大したことはありません」
「弟のシルバンにでもやられたか」
「シルバンごときにやられるはずがありません。それよりも父上、ついに月の腕時計が見つかりました」
エドワルド王子が月の腕時計を差し出すと、国王は手に取り慎重に眺めた。
「これは本物か」
「間違いないと思います」
「セバスチャン、すぐさまイル博士を呼べ。確認してもらおう」
「分かりました」執事のセバスチャンがすぐさまイル博士を呼びに行く。
「で、その持ち主は?」
「古文書に記されていた通り長髪の女で、東の国の血筋にあたるものでした。名前はアスカ殿と申します。しかしながらミカラムという盗賊に連れ去られてしまいました」
「なに? あの悪名高き盗賊のミカラムか。すぐに兵を上げて、そのアスカ殿を連れ戻して来い」
「それが、すぐに追いましたが、不覚にもアスカ殿を人質にされ、ルーカス王国へ逃げられてしまいました」
「その時にその傷を負ってしまったというわけか。情けない」
「申し訳ありません。しかしまだ望みはあります。ミカラムは一週間後にアスカ殿をルーカス王国で競売にかけるそうです」
「そうか。大金を手にしようという魂胆だな。何としかして連れ戻さねばならぬな」
そこへ、イル博士が古文書を持って現れた。年は70歳くらいで、しわが深く、丸い眼鏡をかけており何でも知っていそうである。
「イル博士、これが本物か調べてくれ」
イル博士は月の時計をアンリ国王から受け取ると驚いた。
「こ、これはまさしく、月の腕時計。しかも動いておる。信じられん」
博士は古文書から、月の時計が描かれているページを開いた。そこには月の腕時計が色々な角度から模写された絵が数ページに渡って描かれている。博士は目を近づけて注意深く月の時計と比べた。
「ご覧なされ。この古文書の絵と全く同じものじゃ」
「おおー、という事はまさしく本物! という事はその持ち主であるアスカ殿というお嬢様が我が国の王子の妃になる方であるか」とアンリ国王が目を見開きながら言った。
なぜなら、この古文書には、
『 月の時計を持つ長き髪の女、東より現る。
その女を王子の妃にすべし。
すなわち国栄える』
という予言が書かれている。アスカはこの予言にピッタリと当てはまる。
「ヌヌ……」
しかし、イル博士は少し困った顔をしている。
「どうした。違うというのか」
「は、はい。そうと思われます。が……」
「何じゃ。煮え切らん返事じゃのう」
「い、いえ。王子の妃は慎重に決めるべき事かと思いまして……。その人物を確認する必要があるかと……」
「それもそうじゃ。まずはここにお連れしないとなるまい。国の総力を上げて連れ戻すぞ」
その頃、アスカはミカエルの盗賊と田舎のレストランにいた。小さな家庭的なレストランである。二十人あまりの盗賊が入っているので貸し切り状態である。
そこで出てきたメイン料理は、ブイヤベースであった。新鮮な魚介類と野菜がふんだんに使われており、旨みが半端ない。アスカは久々にまともな食事ということでたらふく食べた。味のよく染み込んだ野菜のスープにフランスパンがとてもよく合う。料理の素材自体がやたらと美味い。アスカはこういう状況だと言うのに美味しい料理に極上の幸福感を感じていた。
盗賊どもは大金を手にして上機嫌でワインをがぶ飲みして宴会騒ぎである。うるさいが、自分に危害を加えるつもりはなさそうなのでだいぶ慣れてきて、怖くはなくなってきた。
落ち着いて考えてみると、町中に来たというのに、テレビもスマホも車も見かけない。そもそも、電気や機械などの文明の利器を使っている気配がない。相当な発展途上国に連れてこられたのか、それとも長い夢の中にいるのか。
しかし、このリアルな感じは到底夢の中とは考えられない。そういえば、猫のペルーラは喋っていたし。果たして自分は今どこにいるのだろうか。
アスカはとても混乱していた。
とにかく、王子に助けてもらうまで耐えよう。そうすればペルーラにも会える。それだけが今の唯一の希望であった。
コンコン
「入れ!」
ガチャリとエドワルド王子が王室のドアを開けると、相変わらずダンディなアンリ国王があごひげを触りながら立っていた。
「エドワルド王子か。どうしたその怪我は?」
「不意打ちに不覚をとってしまいました。大したことはありません」
「弟のシルバンにでもやられたか」
「シルバンごときにやられるはずがありません。それよりも父上、ついに月の腕時計が見つかりました」
エドワルド王子が月の腕時計を差し出すと、国王は手に取り慎重に眺めた。
「これは本物か」
「間違いないと思います」
「セバスチャン、すぐさまイル博士を呼べ。確認してもらおう」
「分かりました」執事のセバスチャンがすぐさまイル博士を呼びに行く。
「で、その持ち主は?」
「古文書に記されていた通り長髪の女で、東の国の血筋にあたるものでした。名前はアスカ殿と申します。しかしながらミカラムという盗賊に連れ去られてしまいました」
「なに? あの悪名高き盗賊のミカラムか。すぐに兵を上げて、そのアスカ殿を連れ戻して来い」
「それが、すぐに追いましたが、不覚にもアスカ殿を人質にされ、ルーカス王国へ逃げられてしまいました」
「その時にその傷を負ってしまったというわけか。情けない」
「申し訳ありません。しかしまだ望みはあります。ミカラムは一週間後にアスカ殿をルーカス王国で競売にかけるそうです」
「そうか。大金を手にしようという魂胆だな。何としかして連れ戻さねばならぬな」
そこへ、イル博士が古文書を持って現れた。年は70歳くらいで、しわが深く、丸い眼鏡をかけており何でも知っていそうである。
「イル博士、これが本物か調べてくれ」
イル博士は月の時計をアンリ国王から受け取ると驚いた。
「こ、これはまさしく、月の腕時計。しかも動いておる。信じられん」
博士は古文書から、月の時計が描かれているページを開いた。そこには月の腕時計が色々な角度から模写された絵が数ページに渡って描かれている。博士は目を近づけて注意深く月の時計と比べた。
「ご覧なされ。この古文書の絵と全く同じものじゃ」
「おおー、という事はまさしく本物! という事はその持ち主であるアスカ殿というお嬢様が我が国の王子の妃になる方であるか」とアンリ国王が目を見開きながら言った。
なぜなら、この古文書には、
『 月の時計を持つ長き髪の女、東より現る。
その女を王子の妃にすべし。
すなわち国栄える』
という予言が書かれている。アスカはこの予言にピッタリと当てはまる。
「ヌヌ……」
しかし、イル博士は少し困った顔をしている。
「どうした。違うというのか」
「は、はい。そうと思われます。が……」
「何じゃ。煮え切らん返事じゃのう」
「い、いえ。王子の妃は慎重に決めるべき事かと思いまして……。その人物を確認する必要があるかと……」
「それもそうじゃ。まずはここにお連れしないとなるまい。国の総力を上げて連れ戻すぞ」
その頃、アスカはミカエルの盗賊と田舎のレストランにいた。小さな家庭的なレストランである。二十人あまりの盗賊が入っているので貸し切り状態である。
そこで出てきたメイン料理は、ブイヤベースであった。新鮮な魚介類と野菜がふんだんに使われており、旨みが半端ない。アスカは久々にまともな食事ということでたらふく食べた。味のよく染み込んだ野菜のスープにフランスパンがとてもよく合う。料理の素材自体がやたらと美味い。アスカはこういう状況だと言うのに美味しい料理に極上の幸福感を感じていた。
盗賊どもは大金を手にして上機嫌でワインをがぶ飲みして宴会騒ぎである。うるさいが、自分に危害を加えるつもりはなさそうなのでだいぶ慣れてきて、怖くはなくなってきた。
落ち着いて考えてみると、町中に来たというのに、テレビもスマホも車も見かけない。そもそも、電気や機械などの文明の利器を使っている気配がない。相当な発展途上国に連れてこられたのか、それとも長い夢の中にいるのか。
しかし、このリアルな感じは到底夢の中とは考えられない。そういえば、猫のペルーラは喋っていたし。果たして自分は今どこにいるのだろうか。
アスカはとても混乱していた。
とにかく、王子に助けてもらうまで耐えよう。そうすればペルーラにも会える。それだけが今の唯一の希望であった。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる