婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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古文書

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 エドワルド王子は城に帰るとすぐさまエスタ王国の国王アンリの元に向かった。

コンコン

「入れ!」

ガチャリとエドワルド王子が王室のドアを開けると、相変わらずダンディなアンリ国王があごひげを触りながら立っていた。

「エドワルド王子か。どうしたその怪我は?」

「不意打ちに不覚をとってしまいました。大したことはありません」

「弟のシルバンにでもやられたか」

「シルバンごときにやられるはずがありません。それよりも父上、ついに月の腕時計が見つかりました」

エドワルド王子が月の腕時計を差し出すと、国王は手に取り慎重に眺めた。

「これは本物か」

「間違いないと思います」

「セバスチャン、すぐさまイル博士を呼べ。確認してもらおう」

「分かりました」執事のセバスチャンがすぐさまイル博士を呼びに行く。

「で、その持ち主は?」

「古文書に記されていた通り長髪の女で、東の国の血筋にあたるものでした。名前はアスカ殿と申します。しかしながらミカラムという盗賊に連れ去られてしまいました」

「なに? あの悪名高き盗賊のミカラムか。すぐに兵を上げて、そのアスカ殿を連れ戻して来い」

「それが、すぐに追いましたが、不覚にもアスカ殿を人質にされ、ルーカス王国へ逃げられてしまいました」

「その時にその傷を負ってしまったというわけか。情けない」

「申し訳ありません。しかしまだ望みはあります。ミカラムは一週間後にアスカ殿をルーカス王国で競売にかけるそうです」

「そうか。大金を手にしようという魂胆だな。何としかして連れ戻さねばならぬな」


そこへ、イル博士が古文書を持って現れた。年は70歳くらいで、しわが深く、丸い眼鏡をかけており何でも知っていそうである。

「イル博士、これが本物か調べてくれ」

イル博士は月の時計をアンリ国王から受け取ると驚いた。

「こ、これはまさしく、月の腕時計。しかも動いておる。信じられん」

博士は古文書から、月の時計が描かれているページを開いた。そこには月の腕時計が色々な角度から模写された絵が数ページに渡って描かれている。博士は目を近づけて注意深く月の時計と比べた。

「ご覧なされ。この古文書の絵と全く同じものじゃ」

「おおー、という事はまさしく本物! という事はその持ち主であるアスカ殿というお嬢様が我が国の王子の妃になる方であるか」とアンリ国王が目を見開きながら言った。

なぜなら、この古文書には、

『 月の時計を持つ長き髪の女、東より現る。

その女を王子の妃にすべし。

すなわち国栄える』

という予言が書かれている。アスカはこの予言にピッタリと当てはまる。

「ヌヌ……」
しかし、イル博士は少し困った顔をしている。

「どうした。違うというのか」

「は、はい。そうと思われます。が……」

「何じゃ。煮え切らん返事じゃのう」

「い、いえ。王子の妃は慎重に決めるべき事かと思いまして……。その人物を確認する必要があるかと……」

「それもそうじゃ。まずはここにお連れしないとなるまい。国の総力を上げて連れ戻すぞ」






 その頃、アスカはミカエルの盗賊と田舎のレストランにいた。小さな家庭的なレストランである。二十人あまりの盗賊が入っているので貸し切り状態である。

 そこで出てきたメイン料理は、ブイヤベースであった。新鮮な魚介類と野菜がふんだんに使われており、旨みが半端ない。アスカは久々にまともな食事ということでたらふく食べた。味のよく染み込んだ野菜のスープにフランスパンがとてもよく合う。料理の素材自体がやたらと美味い。アスカはこういう状況だと言うのに美味しい料理に極上の幸福感を感じていた。

 盗賊どもは大金を手にして上機嫌でワインをがぶ飲みして宴会騒ぎである。うるさいが、自分に危害を加えるつもりはなさそうなのでだいぶ慣れてきて、怖くはなくなってきた。

 落ち着いて考えてみると、町中に来たというのに、テレビもスマホも車も見かけない。そもそも、電気や機械などの文明の利器を使っている気配がない。相当な発展途上国に連れてこられたのか、それとも長い夢の中にいるのか。

しかし、このリアルな感じは到底夢の中とは考えられない。そういえば、猫のペルーラは喋っていたし。果たして自分は今どこにいるのだろうか。

アスカはとても混乱していた。

とにかく、王子に助けてもらうまで耐えよう。そうすればペルーラにも会える。それだけが今の唯一の希望であった。
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