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エレナとの取り引き
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ミカラムが振り返ると馬に乗ったエレナがいた。
「なぜお前がここに。ルーカス王国へ逃げろと言っただろ」
「あなたが死ぬつもりだと思って引き返してきたの」
「お前さえ逃げのびてくれれば俺の命などかまわぬものを」
「そうだと思ったわ。ミカラム、あなたが命をかけることは無いわ。こちらには切り札がある」
そう言ってエレナはアスカを引き起こして抱きかかえ、喉元に短剣を突きつけた。アスカは両手を縛られて身動きが取れなくなっている。
「アスカ殿! その手を離せ!」エドワルド王子が叫びながら前に出てくる。
「おっと、動かないで。それ以上近づくとこの女の命はないよ」
「くっ!」王子は身動きができない。
「脅しじゃないわよ。私達は命がけよ」
「ならばミカラムの命と引き換えにしよう」
「あなた達に都合のいいそんな条件が今更飲めるわけないじゃない。私達もこれだけのリスクをおかしてきたんだから、タダじゃ渡せないわ」
「金が欲しいというわけか一体いくら出せばいい」
「それは今は分からない」
「どういう事だ」
「一週間後、ルーカス王国でこの女を競売にかける。その時にこの女の価値を決めましょう。フフフフ」
「それまでアスカ殿をどうするつもりだ」
「私達が預かっておくわ」
「なにおー! そんな事許せるはずがない。一刻も早くアスカ殿を解放しろ! そんな奴隷としての扱いを受けるようなお方ではない!」
エドワルド王子は怒りのあまり金髪を逆立てた。目は真っ赤になり、触れるもの皆傷つけると言わんばかりの形相だ。
「おっと、そんなに怒らないで。この子の安全は保証するわ。私達の大事な商品ですもの」
「安全を保証するだけではだめだ。令嬢としてのちゃんとした待遇を保証しろ」
そう言って王子はミカラムの足元に手持ちの札束をポンと投げた。
「へえ。気前がいいのね。この子のためならなんだってする覚悟のようね。分かったわ。私達もそこまで愚かでないわ。この子を大事にもてなすわ。高級なホテルに泊まらせて、ちゃんとした食事を保証するわ。その方が価値も高まるしね」
「それならば早速その縄をほどけ。我々は手出しはせぬ」
エレナはアスカの縄を短刀で切ってほどいた。
アスカの頬を一筋の涙が伝った。恐怖と王子が救ってくれようとしている安心感とで気持ちは複雑だった。
エドワルド王子はその涙を見て心が苦しくなった。今すぐアスカを引き寄せ抱きしめたい。そして安心させてやりたい。そんな気持ちが強くよぎった。しかし、今はどうしようもない。一週間後の競売でアスカを手に入れるのが最も安全な方法だ。お金で解決するならそれで良い。
「アスカ殿。一週間後、 必ず助けに行きます。それまでどうか気を確かに持って耐えてください」王子は目を真っ赤にしてそう言った。辛うじて涙は流れていない。
「わかりました王子。あなたがきっと来てくれることを信じて待ちます」アスカは大粒の涙をいくつも落とした。なぜそんなに涙が出るのか自分でもよく分からなかった。ただ、そこまで自分が誰かに必要とされた事がかつてあっただろうか。王子の優しさが心にしみていた。
ミカラムは札束を懐に収めると、馬に飛び乗った。左腕には短剣が刺さったままだ。痛みで顔を歪ませている。
「エレナありがとう。また助けられたな」
「あなたがいない国なんて作ったって面白くもなんともないわ」
「それもそうだな。エレナ、愛してるよ」
「私もよミカラム」
「さあ、先に安全な場所まで行け。わしも後を追う」
ミカラムは精鋭部隊に睨みをきかせながらエレナと人質のアスカが安全な場所に移動するのを待った。左腕からは血がたれている。痺れて痛みはあまり感じない。
「お主らそこを動くなよ。さすれば約束は必ず果たす。一週間後、ルーカスの競売場でまた会おう」
そう言い残して馬を走らせた。
「なぜお前がここに。ルーカス王国へ逃げろと言っただろ」
「あなたが死ぬつもりだと思って引き返してきたの」
「お前さえ逃げのびてくれれば俺の命などかまわぬものを」
「そうだと思ったわ。ミカラム、あなたが命をかけることは無いわ。こちらには切り札がある」
そう言ってエレナはアスカを引き起こして抱きかかえ、喉元に短剣を突きつけた。アスカは両手を縛られて身動きが取れなくなっている。
「アスカ殿! その手を離せ!」エドワルド王子が叫びながら前に出てくる。
「おっと、動かないで。それ以上近づくとこの女の命はないよ」
「くっ!」王子は身動きができない。
「脅しじゃないわよ。私達は命がけよ」
「ならばミカラムの命と引き換えにしよう」
「あなた達に都合のいいそんな条件が今更飲めるわけないじゃない。私達もこれだけのリスクをおかしてきたんだから、タダじゃ渡せないわ」
「金が欲しいというわけか一体いくら出せばいい」
「それは今は分からない」
「どういう事だ」
「一週間後、ルーカス王国でこの女を競売にかける。その時にこの女の価値を決めましょう。フフフフ」
「それまでアスカ殿をどうするつもりだ」
「私達が預かっておくわ」
「なにおー! そんな事許せるはずがない。一刻も早くアスカ殿を解放しろ! そんな奴隷としての扱いを受けるようなお方ではない!」
エドワルド王子は怒りのあまり金髪を逆立てた。目は真っ赤になり、触れるもの皆傷つけると言わんばかりの形相だ。
「おっと、そんなに怒らないで。この子の安全は保証するわ。私達の大事な商品ですもの」
「安全を保証するだけではだめだ。令嬢としてのちゃんとした待遇を保証しろ」
そう言って王子はミカラムの足元に手持ちの札束をポンと投げた。
「へえ。気前がいいのね。この子のためならなんだってする覚悟のようね。分かったわ。私達もそこまで愚かでないわ。この子を大事にもてなすわ。高級なホテルに泊まらせて、ちゃんとした食事を保証するわ。その方が価値も高まるしね」
「それならば早速その縄をほどけ。我々は手出しはせぬ」
エレナはアスカの縄を短刀で切ってほどいた。
アスカの頬を一筋の涙が伝った。恐怖と王子が救ってくれようとしている安心感とで気持ちは複雑だった。
エドワルド王子はその涙を見て心が苦しくなった。今すぐアスカを引き寄せ抱きしめたい。そして安心させてやりたい。そんな気持ちが強くよぎった。しかし、今はどうしようもない。一週間後の競売でアスカを手に入れるのが最も安全な方法だ。お金で解決するならそれで良い。
「アスカ殿。一週間後、 必ず助けに行きます。それまでどうか気を確かに持って耐えてください」王子は目を真っ赤にしてそう言った。辛うじて涙は流れていない。
「わかりました王子。あなたがきっと来てくれることを信じて待ちます」アスカは大粒の涙をいくつも落とした。なぜそんなに涙が出るのか自分でもよく分からなかった。ただ、そこまで自分が誰かに必要とされた事がかつてあっただろうか。王子の優しさが心にしみていた。
ミカラムは札束を懐に収めると、馬に飛び乗った。左腕には短剣が刺さったままだ。痛みで顔を歪ませている。
「エレナありがとう。また助けられたな」
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「それもそうだな。エレナ、愛してるよ」
「私もよミカラム」
「さあ、先に安全な場所まで行け。わしも後を追う」
ミカラムは精鋭部隊に睨みをきかせながらエレナと人質のアスカが安全な場所に移動するのを待った。左腕からは血がたれている。痺れて痛みはあまり感じない。
「お主らそこを動くなよ。さすれば約束は必ず果たす。一週間後、ルーカスの競売場でまた会おう」
そう言い残して馬を走らせた。
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