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エレナの横槍
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エドワルド王子は手で顔を押さえている。その手の間から血が滴り落ちる。
「キャーーー」
アスカはエドワルド王子の手が血に染っている事に気づき悲鳴をあげた。
ミカラムの妻エレナが王子に石を投げつけたのだ。その石が王子の顔面にヒットした。
「ふ、不覚」
「私達があなた一人に負けるとでも思っているの」
そう言って再び石を投げつけた。今度は身を縮めている王子の左肘に当たって落ちた。
「卑怯者!」
そう言って立ち上がる王子の左目の上からは真っ赤な血がだらだらと流れ出ている。王子の左目は流血のためにほとんど見えていない。
「おまえが男であれば切り捨ててやるところよ!」
その時、後方からミカラムが太刀を思いっきり振ってきた。王子は辛うじてサーベルで太刀を受け止めるが、何しろ物凄い力である。体もろとも吹き飛ばされてしまった。
なんとサーベルがぐにゃりと曲がってしまっている。
「くっ! なんという馬鹿力」
「何してんの! お前たちもかかりな!」
エレナの声にハッとした盗賊どもが一斉に王子に飛びかかった。
しかし、王子は盗賊の一人を踏み台にすると飛び上がり、アスカの前に着地した。そしてアスカに近寄った。
アスカは王子から微かに薔薇の香りがするのを感じた。
王子の左眉の上辺りがパックリと切れて血が流れている。美しい顔が酷いことになっている。早く治療をして血を止めなければ……。アスカは心配になった。
「王子……」
「アスカ殿、今はひとまず引きます。しかし、必ずやあなたを助けに来ます。それまでどうかご無事で」
そう言うと王子は素早く走り去った。
どこに隠れていたのか、ホワイトブライアンが現れて王子を乗せてあっという間に見えなくなった。
え、え、え!?
連れて行ってくれないのー
王子様ー
ミカラムは王子の消えた方を見ながらつぶやいた。
「エドワルド王子か。現れるのも速いが、逃げ足も速いやつだ。しかし、なんという強さだ。わしが押されるとは」
「情けない。あんたも鍛え直す必要があるわね」
「エレナ。さっきは助かった。しかし、あそこからが俺の見せ場だったのだぞ」
「私達はどんな手を使っても負ける訳にはいかないのよ。下手な勝負をしている状況じゃないのよ」
「……そうだな」
「さあ、それより早くルーカス王国へ逃げないとあの王子がこのまま引き下がるとは思えない。きっと兵を連れて追ってくるわ」
「よし、急げ!」
盗賊どもはミカラムの掛け声と共に一斉に移動を始めた。
アスカはエレナの馬の前に乗せられると先程よりもかなり急いで山をかけ登り始めた。
アスカはこれから自分がどうなってしまうのか不安でたまらないが、エドワルド王子に石を投げつけたエレナの事が許せなかった。
「卑怯者」エレナに聞こえるようにつぶやいた。
「生意気なことを言うわね。なぜ王子があなたの事を助けに来たの? 」
「……」
「王子とは知り合いなの? 恋人? それとも許嫁?」
「違うわ」
「じゃあなぜ?」
「分からない……」
「まあ、いいわ。あなたには特別な価値がありそうね。これから奴隷の競売が許可されているルーカス王国へ行ってあなたを競売にかけるわ。もちろんあの王子も参加するでしょう。その時にあなたにいくら出すか見ものね。楽しみだわ」
「え?」
「だからそれまでは大人しくしておきなさいよ。王子様が迎えに来てくれるまで。ふふふ」
アスカはもう一度王子に会えるかもしれないと思うと生きる希望がもてた。
果たしてエドワルド王子はアスカのことを助けに来てくれるのだろうか。期待と不安が入り交じる。それにこの盗賊共に大金を払うことになると思うと悔しい気持ちもする。だけど希望が持てるということは生きる望みが持てるということだ。
ふとアスカは昨日から何も食べていないことを思い出して、おなかがグゥ~と鳴った。
「キャーーー」
アスカはエドワルド王子の手が血に染っている事に気づき悲鳴をあげた。
ミカラムの妻エレナが王子に石を投げつけたのだ。その石が王子の顔面にヒットした。
「ふ、不覚」
「私達があなた一人に負けるとでも思っているの」
そう言って再び石を投げつけた。今度は身を縮めている王子の左肘に当たって落ちた。
「卑怯者!」
そう言って立ち上がる王子の左目の上からは真っ赤な血がだらだらと流れ出ている。王子の左目は流血のためにほとんど見えていない。
「おまえが男であれば切り捨ててやるところよ!」
その時、後方からミカラムが太刀を思いっきり振ってきた。王子は辛うじてサーベルで太刀を受け止めるが、何しろ物凄い力である。体もろとも吹き飛ばされてしまった。
なんとサーベルがぐにゃりと曲がってしまっている。
「くっ! なんという馬鹿力」
「何してんの! お前たちもかかりな!」
エレナの声にハッとした盗賊どもが一斉に王子に飛びかかった。
しかし、王子は盗賊の一人を踏み台にすると飛び上がり、アスカの前に着地した。そしてアスカに近寄った。
アスカは王子から微かに薔薇の香りがするのを感じた。
王子の左眉の上辺りがパックリと切れて血が流れている。美しい顔が酷いことになっている。早く治療をして血を止めなければ……。アスカは心配になった。
「王子……」
「アスカ殿、今はひとまず引きます。しかし、必ずやあなたを助けに来ます。それまでどうかご無事で」
そう言うと王子は素早く走り去った。
どこに隠れていたのか、ホワイトブライアンが現れて王子を乗せてあっという間に見えなくなった。
え、え、え!?
連れて行ってくれないのー
王子様ー
ミカラムは王子の消えた方を見ながらつぶやいた。
「エドワルド王子か。現れるのも速いが、逃げ足も速いやつだ。しかし、なんという強さだ。わしが押されるとは」
「情けない。あんたも鍛え直す必要があるわね」
「エレナ。さっきは助かった。しかし、あそこからが俺の見せ場だったのだぞ」
「私達はどんな手を使っても負ける訳にはいかないのよ。下手な勝負をしている状況じゃないのよ」
「……そうだな」
「さあ、それより早くルーカス王国へ逃げないとあの王子がこのまま引き下がるとは思えない。きっと兵を連れて追ってくるわ」
「よし、急げ!」
盗賊どもはミカラムの掛け声と共に一斉に移動を始めた。
アスカはエレナの馬の前に乗せられると先程よりもかなり急いで山をかけ登り始めた。
アスカはこれから自分がどうなってしまうのか不安でたまらないが、エドワルド王子に石を投げつけたエレナの事が許せなかった。
「卑怯者」エレナに聞こえるようにつぶやいた。
「生意気なことを言うわね。なぜ王子があなたの事を助けに来たの? 」
「……」
「王子とは知り合いなの? 恋人? それとも許嫁?」
「違うわ」
「じゃあなぜ?」
「分からない……」
「まあ、いいわ。あなたには特別な価値がありそうね。これから奴隷の競売が許可されているルーカス王国へ行ってあなたを競売にかけるわ。もちろんあの王子も参加するでしょう。その時にあなたにいくら出すか見ものね。楽しみだわ」
「え?」
「だからそれまでは大人しくしておきなさいよ。王子様が迎えに来てくれるまで。ふふふ」
アスカはもう一度王子に会えるかもしれないと思うと生きる希望がもてた。
果たしてエドワルド王子はアスカのことを助けに来てくれるのだろうか。期待と不安が入り交じる。それにこの盗賊共に大金を払うことになると思うと悔しい気持ちもする。だけど希望が持てるということは生きる望みが持てるということだ。
ふとアスカは昨日から何も食べていないことを思い出して、おなかがグゥ~と鳴った。
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