婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

文字の大きさ
上 下
10 / 71

エレナの横槍

しおりを挟む
エドワルド王子は手で顔を押さえている。その手の間から血が滴り落ちる。

「キャーーー」

アスカはエドワルド王子の手が血に染っている事に気づき悲鳴をあげた。

ミカラムの妻エレナが王子に石を投げつけたのだ。その石が王子の顔面にヒットした。

「ふ、不覚」

「私達があなた一人に負けるとでも思っているの」

そう言って再び石を投げつけた。今度は身を縮めている王子の左肘に当たって落ちた。

「卑怯者!」

 そう言って立ち上がる王子の左目の上からは真っ赤な血がだらだらと流れ出ている。王子の左目は流血のためにほとんど見えていない。

「おまえが男であれば切り捨ててやるところよ!」

 その時、後方からミカラムが太刀を思いっきり振ってきた。王子は辛うじてサーベルで太刀を受け止めるが、何しろ物凄い力である。体もろとも吹き飛ばされてしまった。

なんとサーベルがぐにゃりと曲がってしまっている。

「くっ! なんという馬鹿力」

「何してんの! お前たちもかかりな!」
  エレナの声にハッとした盗賊どもが一斉に王子に飛びかかった。

 しかし、王子は盗賊の一人を踏み台にすると飛び上がり、アスカの前に着地した。そしてアスカに近寄った。

 アスカは王子から微かに薔薇の香りがするのを感じた。

 王子の左眉の上辺りがパックリと切れて血が流れている。美しい顔が酷いことになっている。早く治療をして血を止めなければ……。アスカは心配になった。

「王子……」

「アスカ殿、今はひとまず引きます。しかし、必ずやあなたを助けに来ます。それまでどうかご無事で」

そう言うと王子は素早く走り去った。
どこに隠れていたのか、ホワイトブライアンが現れて王子を乗せてあっという間に見えなくなった。


え、え、え!?
連れて行ってくれないのー
王子様ー



ミカラムは王子の消えた方を見ながらつぶやいた。
「エドワルド王子か。現れるのも速いが、逃げ足も速いやつだ。しかし、なんという強さだ。わしが押されるとは」

「情けない。あんたも鍛え直す必要があるわね」

「エレナ。さっきは助かった。しかし、あそこからが俺の見せ場だったのだぞ」

「私達はどんな手を使っても負ける訳にはいかないのよ。下手な勝負をしている状況じゃないのよ」

「……そうだな」

「さあ、それより早くルーカス王国へ逃げないとあの王子がこのまま引き下がるとは思えない。きっと兵を連れて追ってくるわ」

「よし、急げ!」
盗賊どもはミカラムの掛け声と共に一斉に移動を始めた。

 アスカはエレナの馬の前に乗せられると先程よりもかなり急いで山をかけ登り始めた。

 アスカはこれから自分がどうなってしまうのか不安でたまらないが、エドワルド王子に石を投げつけたエレナの事が許せなかった。

「卑怯者」エレナに聞こえるようにつぶやいた。

「生意気なことを言うわね。なぜ王子があなたの事を助けに来たの? 」

「……」

「王子とは知り合いなの? 恋人? それとも許嫁?」

「違うわ」

「じゃあなぜ?」

「分からない……」

「まあ、いいわ。あなたには特別な価値がありそうね。これから奴隷の競売が許可されているルーカス王国へ行ってあなたを競売にかけるわ。もちろんあの王子も参加するでしょう。その時にあなたにいくら出すか見ものね。楽しみだわ」

「え?」

「だからそれまでは大人しくしておきなさいよ。王子様が迎えに来てくれるまで。ふふふ」

アスカはもう一度王子に会えるかもしれないと思うと生きる希望がもてた。

 果たしてエドワルド王子はアスカのことを助けに来てくれるのだろうか。期待と不安が入り交じる。それにこの盗賊共に大金を払うことになると思うと悔しい気持ちもする。だけど希望が持てるということは生きる望みが持てるということだ。

 ふとアスカは昨日から何も食べていないことを思い出して、おなかがグゥ~と鳴った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...