婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

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動き出す腕時計

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 アスカは用心深くそおっと黒猫に近寄った。今回は黒猫は逃げなかった。顎の下に手を差し出して撫でると嬉しそうな顔をしている。黒猫は全身艶やかな黒い毛で覆われていて気高いオーラを放っている。目は鮮やかなエメラルドグリーンに透けている。7等身のシルエットは気品に満ち溢れていた。

顔の辺りをモフモフすると喜んだ。

「ニャー」

「可愛いの~」
アスカは夢中になってモフモフした。

「君はわたしの側に来てくれるんだねぇ」

「ニャー」

「わたしの失恋話を聞いてくれるかい?」

「ニャー」と言って黒猫は尻尾をピーンと伸ばした。

「わたしには一年以上付き合った彼氏がいたんだ。

仕事もできてイケメンでみんなに自慢の彼だった。

いつも優しくて、わたしを大事にしてくれた。

いろんなところに連れていってくれた。

山やら、川やら、海やら

スキーに釣りにキャンプにディズニーランド

思い出を沢山作った。

大好きだった。

頑張り屋さんの彼が仕事に追い込まれてげっそり痩せた時は本気で心配した。

婚約もしていたんだよ。

プロポーズされた時は泣いちゃった。

ははは」

アスカの目から涙が一粒流れた。

「ニャーー」

「でもねー本当の愛じゃなかったのかな。

浮気されちゃった。

そりゃーいい男はほかの女もほっとかないよね。

わたしは浮気の現場を目の当たりにして、

バチーンってほっぺを引っぱたいてやったの。

手が痛かったー。ははは。

今考えると反対のほっぺも引っぱたいてやっとけばよかったかな。ははは」

「ニャー」

「男なんてみんなああなのかな。

浮気くらい大目に見た方がいいのかな。

どう思う?」

「ニャー」

「君に分かるわけないか。

とにかく、わたしは許せなかったの。

これから一緒に暮らそうって場所で浮気されたんだよ。

許せるわけないじゃん」

「ニャー」

「でもね、微かに希望は持ってた。

タクヤが本気で謝ってきて、誠意を見せてくれたら許そうかななんて思ってたの。

そしたら逆に婚約破棄されたの。

もう全てに絶望よ。

だって完全に信じ切っていた人に裏切られたんだよ。

愛の欠片も感じなかった。

涙が止まらなかった。

実は、死のうと思ったの。

睡眠薬沢山飲んで寝てる間に楽に死ねたらいいなって。

何もかも面倒になっちゃって。

友達にもいろいろ説明しないといけないし、そんなの恥ずかしいじゃん。

他の女に婚約者寝盗られたなんて。

わたしが死んだら、タクヤが一生後悔して苦しむかなと思った。

だけど死ねなかった。

薬を沢山飲んでベッドで横になったの。

そしたら、怖い夢を沢山見て目が覚めたの。

汗をびっしょりかいてた。

薬の量が足りなかったんだよ。

死ぬのって簡単じゃないのね。

死ぬほど苦しかった。

もうこんな思い二度としたくないって。

そして、あんないい加減な男のために死ねるかと思ったの。

その時気づいたわ。

わたしはこの男を死ぬほど好きではなかったんだって」

「ニャー」

「分かったような鳴き方ね。

とにかくね、死ぬくらいならなんだって出来ると思ったわ。

やりたい事やってやろうって決めたの。

本当のわたしはこんな言葉も分からない国へ一人で来れるほど強くはないの。

怖いし、不安だし、そして、寂しいし。

でも来てみて良かったー。

みんな言葉が通じなくとも親切で優しい人ばかり。

ここではみんな幸せそうに暮らしてる。

いや、幸せになろうとして暮らしていると言った方がいいかしら。

私も見習おうと思った。

羨ましいと思ったから。

日々の暮らしに追われるんじゃなくて、幸せに暮らすために生きようって思った。

なんだが人生観が変わった気がする。

もう一度誰かを信じてみよう、愛してみようと思った。

その記念にこの腕時計を無理して買ったの。

高かったのよー。

でも、すごくいいでしょ」

「ニャー」

 アスカはしばらく黒猫を撫でていたがいつの間にか手を止めて寝ていた。

「スヤスヤ……」

「ゴロゴロゴロ」
黒猫は気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。

その時である。

時計が光を放ちながら動き始めた。

しかも、逆回転である。

 針は徐々にスピードを速めて、それに比例するように光も強くなっていった。

 やがて強烈な白い光がアスカを包み込み、眩しくて何も見えなくなった。
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