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ジャン=ジャック・ルソー
マリオンに罪をきせた
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ルソーは迫害される事や、強制される事に対して抵抗するのはとても強かった。
たとえ暴力を振るわれても屈しない。
それは、自分が潔白で、相手に非があると信じているからだ。そういった場合、ルソーはテコでも動かない。
しかし、自分に非がある場合、それは最もルソーを苦しめた。一生その罪にさいなまされる事態となった。
ヴェリセリス夫人が亡くなり、その家がいよいよ解体されるという事になった。こういった混乱のさなかでは、物がなくなってしまうという事はよくある事だ。
しかし、ロレンチ夫妻がよく目を光らせていたので、ヴェリセリス婦人の財産は何も失うものはなかった。
しかし、ポンタル嬢が古くなった薔薇色と銀色のリボンを無くした。
「誰だ!娘のリボンを盗んだのは!」
ロレンチ氏が大きい声を出したので、人が集まってきた。
ざわついていたが、直ぐにルソーが持っていた事がばれた。
「ルソー、お前が盗んだのか。なんて事だ!」
ルソーはとっさに嘘をついた。
「私が盗ったわけではありません」
「じゃあ何故お前が持っている」
ルソーは皆の前で追い詰められて苦しくなった。たかだかこんなリボンを盗んだ事で大事になるとは思いもよらなかった。
ルソーは皆の前で恥をかくことを恐れた。
顔が真っ赤になり、とうとう最悪の言葉を発してしまった。
「マリオンがくれたのです」
マリオンとはヴェリセリス夫人が雇った料理人だ。気立てもよく、血色のいい健康的な美しい娘で、おとなしくて思慮深いさまはみんなから愛されていた。
早速、マリオンが呼ばれ、ロレンチ氏がリボンをマリオンの前に突き出した。
「マリオン、ルソーはこのリボンをお前が盗んだと言っている。本当か?」
マリオンは、悪魔でも降参しそうな目でルソーを一瞥し、興奮を抑えて静かに言った。
「知りません」
「じゃあだれが盗んだのだね?」
「知りません。ルソーさん、何故そんな嘘をつくの? 私はあなたに悪いことなんて何一つしていないでしょ」
「嘘じゃない。君がくれたじゃないか!」
「まあ! あなたはもっといい人だと思っていたわ。何故そんなことを言うの?」
ルソーはマリオンが盗んだとはっきりと言い切った。何よりも人前で恥をかきたくないという気持ちが上回っていた。
それに対して、マリオンは弁解したが、どことなく遠慮深く反論した。
ルソーの事を罵るようなことはしなかった。
そのせいで、マリオンは損をしていた。周りの判断はルソーの方に分があった。
「ルソーさん、あなたはわたしにひどいことをするのね。わたしは決してあなたのような立場にはなりたくないわ」
それが全てだった。
2人は暇を出された。マリオンの方が疑われていた。マリオンは失わなくてもよい職を失ったのだ。
ルソーはこの出来事を悔やみ続ける事になる。
本当はマリオンの事が好きだったのだ。だから、マリオンの事を考える機会が多かったために、とっさの嘘でマリオンの名前が出てしまった。実はルソーはリボンがマリオンに似合うと思って盗んだのだった。
その結末が、一人の少女の心に傷を残し、自分にはそれ以上の苦しみが一生付きまとうことになった。ルソーはこういった人を傷つけてしまう罪を最も恐れた。それは自分に本質的な正義がないからだ。
ルソーは安宿のおかみさんのところへ舞い戻った。
ここで過ごす数週間、ルソーは欲情を持て余した。感情が高ぶり、涙を流し、ため息をつき、自分の幸福に掛けているものを感じた。
そして、ついにある犯罪を犯してしまう。
たとえ暴力を振るわれても屈しない。
それは、自分が潔白で、相手に非があると信じているからだ。そういった場合、ルソーはテコでも動かない。
しかし、自分に非がある場合、それは最もルソーを苦しめた。一生その罪にさいなまされる事態となった。
ヴェリセリス夫人が亡くなり、その家がいよいよ解体されるという事になった。こういった混乱のさなかでは、物がなくなってしまうという事はよくある事だ。
しかし、ロレンチ夫妻がよく目を光らせていたので、ヴェリセリス婦人の財産は何も失うものはなかった。
しかし、ポンタル嬢が古くなった薔薇色と銀色のリボンを無くした。
「誰だ!娘のリボンを盗んだのは!」
ロレンチ氏が大きい声を出したので、人が集まってきた。
ざわついていたが、直ぐにルソーが持っていた事がばれた。
「ルソー、お前が盗んだのか。なんて事だ!」
ルソーはとっさに嘘をついた。
「私が盗ったわけではありません」
「じゃあ何故お前が持っている」
ルソーは皆の前で追い詰められて苦しくなった。たかだかこんなリボンを盗んだ事で大事になるとは思いもよらなかった。
ルソーは皆の前で恥をかくことを恐れた。
顔が真っ赤になり、とうとう最悪の言葉を発してしまった。
「マリオンがくれたのです」
マリオンとはヴェリセリス夫人が雇った料理人だ。気立てもよく、血色のいい健康的な美しい娘で、おとなしくて思慮深いさまはみんなから愛されていた。
早速、マリオンが呼ばれ、ロレンチ氏がリボンをマリオンの前に突き出した。
「マリオン、ルソーはこのリボンをお前が盗んだと言っている。本当か?」
マリオンは、悪魔でも降参しそうな目でルソーを一瞥し、興奮を抑えて静かに言った。
「知りません」
「じゃあだれが盗んだのだね?」
「知りません。ルソーさん、何故そんな嘘をつくの? 私はあなたに悪いことなんて何一つしていないでしょ」
「嘘じゃない。君がくれたじゃないか!」
「まあ! あなたはもっといい人だと思っていたわ。何故そんなことを言うの?」
ルソーはマリオンが盗んだとはっきりと言い切った。何よりも人前で恥をかきたくないという気持ちが上回っていた。
それに対して、マリオンは弁解したが、どことなく遠慮深く反論した。
ルソーの事を罵るようなことはしなかった。
そのせいで、マリオンは損をしていた。周りの判断はルソーの方に分があった。
「ルソーさん、あなたはわたしにひどいことをするのね。わたしは決してあなたのような立場にはなりたくないわ」
それが全てだった。
2人は暇を出された。マリオンの方が疑われていた。マリオンは失わなくてもよい職を失ったのだ。
ルソーはこの出来事を悔やみ続ける事になる。
本当はマリオンの事が好きだったのだ。だから、マリオンの事を考える機会が多かったために、とっさの嘘でマリオンの名前が出てしまった。実はルソーはリボンがマリオンに似合うと思って盗んだのだった。
その結末が、一人の少女の心に傷を残し、自分にはそれ以上の苦しみが一生付きまとうことになった。ルソーはこういった人を傷つけてしまう罪を最も恐れた。それは自分に本質的な正義がないからだ。
ルソーは安宿のおかみさんのところへ舞い戻った。
ここで過ごす数週間、ルソーは欲情を持て余した。感情が高ぶり、涙を流し、ため息をつき、自分の幸福に掛けているものを感じた。
そして、ついにある犯罪を犯してしまう。
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