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第4章 アイドルとは、何ですか?
アイドルの意味
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ailesのひびき蘭に手を引かれ、佑香達が入ったのはアイドル達の控え室らしい部屋だった。壁際にずらっと今日登場したアイドル達の衣装が掛けられている。他のアイドル達は握手会に向かったらしく、部屋には蘭と三人だけしか居なかった。
「急に連れてきてゴメンね。キミたち、『スノーフェアリーズ』だよね?」
「えっ!?」
三人が驚く。蘭の口から出てきたのは、自分達のユニット名であるスノーフェアリーズという単語だったからだ。
「どうしてそれを……」
「今札幌で赤マル急上昇! の注目新人アイドルだからね」
玲の質問に茶目っ気のある話し方で答える蘭。
「あ、自己紹介まだだったね。私はアイドルグループ『ailes』のひびき蘭。よろしくっ!」
「あ、えっと、わたし『スノーフェアリーズ』の柿木佑香ですっ」
「同じく、葛西美空です」
「成瀬玲、です……」
玲にはailesと同じように自分達をスノーフェアリーズだと紹介するのが恥ずかしかった。それくらい今日のailesのパフォーマンスは圧巻だった。
「えっと、ひびきさん」
「蘭でいいよ。私も佑香さん、って呼んでいいかな?」
「は、はいっ、蘭さん。蘭さんはどうしてわたしたちを知っていたんですか?」
「さっきも言ったでしょ、赤マル新人アイドルだって。それに、私は実際にみんなのライブ観に行ったしね」
そう言ってウインクする蘭。
「えっ、H大の……」
「うん。最初から観てたからね。一組目から凄いなって感動したよっ」
「あ、ありがとうございますっ」
そう返事をしてかしこまる佑香。実際、さきほどまでのパフォーマンスを見せられた後に自分達を褒められてもお世辞ではないだろうかと思ってしまう。
「それにしてもビックリだよ、みんな変装どころかメガネも掛けてないんだもん。絶対にここのファンの人なら気付いてた人いたと思うよ。札幌の中でも特にアイドルに詳しい人が集まってるんだから」
「あ、それで……」
そう言って笑う蘭の言葉に玲がやっぱりと納得する。途中で感じていた視線は、気のせいや自意識過剰ではなく本当に自分達に向けられていたのだ。
「こういうライブに来たのは初めて?」
「は、はい」
「私たちのライブどうだった?」
そう聞いてくる蘭に対し、佑香が身を乗り出して答える。
「凄かったです! みなさん歌もダンスも上手で、もう存在感が「アイドル」でした! お客さんも凄い盛り上がっていたし、盛り上げ方もプロみたいで……」
「あはは、私たちも一応プロなんだけどね」
「あっ、す、すみませんっ!」
「いいよいいよ、やっぱりプロって言ったらJPNとかれつマニとか想像するもんね」
そう言って笑う蘭。そんな会話の中、美空がここに連れて来られてからずっと疑問に思っていたことを口にする。
「あの、蘭さん」
「ん、何?」
「蘭さんは、今日のライブの感想が聞きたくて私達を呼んだのですか?」
言ってしまってから、もうちょっと言葉を選んだ方が良かったと思いながらも、美空は尋ねる。
「うーんとね……。じゃあ美空さん、美空さんにとってアイドルって何?」
「え?」
いきなりの蘭からの質問返しに、美空は返答に困ってしまう。
「抽象的すぎたね。えっと、じゃアイドルの目的って何だと思う?」
「アイドルの目的、ですか」
まだ自分の質問の回答になっているとは思えなかったが、美空は返された質問について考える。
「最高の歌と踊りを見せることだと思います」
その迷いのない答えと表情に満足そうに頷く蘭。
「うん、それはもちろん大切なこと」
そう言うと、ふっと優しい、包み込むような笑顔に変わる蘭。
「でも、いちばん大切なこと、アイドルの目的は、観てくれる人に笑顔をとどけること、みんなが笑顔になること。って私は思ってるんだ」
その言葉に美空ははっとする。自分は今日のライブを見ていて、お客さんを盛り上げるということばかりを気にしていたが、ailes、蘭にとっては盛り上げることは笑顔にすることの副産物だったのだ。
「だからね、私は大事なホームであるこの札幌に、新たに笑顔を生み出してくれるアイドルが増えたことが嬉しいんだ。中にはライバルが増える、っていう子もいるけど、私は大歓迎。笑顔を届けられるアイドルはたくさんいた方がハッピーだもん」
蘭が、三人の手を取る。
「これからも、一緒にこの札幌を盛り上げていこうね!」
その手の温かみを感じながら、三人も答える。
「「「はい!」」」
「じゃ私物販に戻るね! 後ろのドアから出たら気付かれずに帰れるからっ」
そう言い残し、蘭は外の物販列へと消えていった。おそらく蘭が現れたからであろう、部屋の外からは歓声が聞こえる。
「とりあえず、外に出ようか」
自分達だけになってしまい、控え室の居心地が悪くなった玲が話す。
とりあえず会場の外に出た三人。ライブの熱気、蘭との会話、色々な出来事を反芻し、しばらく無言のまま三人で向かい合う。
「すごかったね……」
玲がぽつりとつぶやく。それを合図に、佑香が溢れる思いを口に出す。
「わたしね、今までそんな目標みたいな大それたものはなくて、自分もライマスや他のアイドルアニメの世界にいけるんだ、くらいの気持ちでやってたんだ」
その佑香の言葉を、美空も玲も真っ直ぐに聞いている。
「でも、今日のライブを見て、蘭さんの言葉を聞いてわかったんだ。わたしがライマスのアニメや中の人のライブを見ていたとき、そして今日ailesのライブを観ていたとき、わたし、いつも笑顔だった」
「うん」
「だから、わたしもこれからアイドル・スノーフェアリーズとして、みんなを笑顔にする、そんな存在になるんだ」
佑香の言葉に頷く美空と玲。
「うん、私も笑顔を意識して練習していくよ」
「アタシも、頑張る」
笑顔で見詰め合う三人。いつの間にか空一面を覆っていた雲は薄くなり、雲の切れ間から綺麗な満月が三人を照らしていた。
「急に連れてきてゴメンね。キミたち、『スノーフェアリーズ』だよね?」
「えっ!?」
三人が驚く。蘭の口から出てきたのは、自分達のユニット名であるスノーフェアリーズという単語だったからだ。
「どうしてそれを……」
「今札幌で赤マル急上昇! の注目新人アイドルだからね」
玲の質問に茶目っ気のある話し方で答える蘭。
「あ、自己紹介まだだったね。私はアイドルグループ『ailes』のひびき蘭。よろしくっ!」
「あ、えっと、わたし『スノーフェアリーズ』の柿木佑香ですっ」
「同じく、葛西美空です」
「成瀬玲、です……」
玲にはailesと同じように自分達をスノーフェアリーズだと紹介するのが恥ずかしかった。それくらい今日のailesのパフォーマンスは圧巻だった。
「えっと、ひびきさん」
「蘭でいいよ。私も佑香さん、って呼んでいいかな?」
「は、はいっ、蘭さん。蘭さんはどうしてわたしたちを知っていたんですか?」
「さっきも言ったでしょ、赤マル新人アイドルだって。それに、私は実際にみんなのライブ観に行ったしね」
そう言ってウインクする蘭。
「えっ、H大の……」
「うん。最初から観てたからね。一組目から凄いなって感動したよっ」
「あ、ありがとうございますっ」
そう返事をしてかしこまる佑香。実際、さきほどまでのパフォーマンスを見せられた後に自分達を褒められてもお世辞ではないだろうかと思ってしまう。
「それにしてもビックリだよ、みんな変装どころかメガネも掛けてないんだもん。絶対にここのファンの人なら気付いてた人いたと思うよ。札幌の中でも特にアイドルに詳しい人が集まってるんだから」
「あ、それで……」
そう言って笑う蘭の言葉に玲がやっぱりと納得する。途中で感じていた視線は、気のせいや自意識過剰ではなく本当に自分達に向けられていたのだ。
「こういうライブに来たのは初めて?」
「は、はい」
「私たちのライブどうだった?」
そう聞いてくる蘭に対し、佑香が身を乗り出して答える。
「凄かったです! みなさん歌もダンスも上手で、もう存在感が「アイドル」でした! お客さんも凄い盛り上がっていたし、盛り上げ方もプロみたいで……」
「あはは、私たちも一応プロなんだけどね」
「あっ、す、すみませんっ!」
「いいよいいよ、やっぱりプロって言ったらJPNとかれつマニとか想像するもんね」
そう言って笑う蘭。そんな会話の中、美空がここに連れて来られてからずっと疑問に思っていたことを口にする。
「あの、蘭さん」
「ん、何?」
「蘭さんは、今日のライブの感想が聞きたくて私達を呼んだのですか?」
言ってしまってから、もうちょっと言葉を選んだ方が良かったと思いながらも、美空は尋ねる。
「うーんとね……。じゃあ美空さん、美空さんにとってアイドルって何?」
「え?」
いきなりの蘭からの質問返しに、美空は返答に困ってしまう。
「抽象的すぎたね。えっと、じゃアイドルの目的って何だと思う?」
「アイドルの目的、ですか」
まだ自分の質問の回答になっているとは思えなかったが、美空は返された質問について考える。
「最高の歌と踊りを見せることだと思います」
その迷いのない答えと表情に満足そうに頷く蘭。
「うん、それはもちろん大切なこと」
そう言うと、ふっと優しい、包み込むような笑顔に変わる蘭。
「でも、いちばん大切なこと、アイドルの目的は、観てくれる人に笑顔をとどけること、みんなが笑顔になること。って私は思ってるんだ」
その言葉に美空ははっとする。自分は今日のライブを見ていて、お客さんを盛り上げるということばかりを気にしていたが、ailes、蘭にとっては盛り上げることは笑顔にすることの副産物だったのだ。
「だからね、私は大事なホームであるこの札幌に、新たに笑顔を生み出してくれるアイドルが増えたことが嬉しいんだ。中にはライバルが増える、っていう子もいるけど、私は大歓迎。笑顔を届けられるアイドルはたくさんいた方がハッピーだもん」
蘭が、三人の手を取る。
「これからも、一緒にこの札幌を盛り上げていこうね!」
その手の温かみを感じながら、三人も答える。
「「「はい!」」」
「じゃ私物販に戻るね! 後ろのドアから出たら気付かれずに帰れるからっ」
そう言い残し、蘭は外の物販列へと消えていった。おそらく蘭が現れたからであろう、部屋の外からは歓声が聞こえる。
「とりあえず、外に出ようか」
自分達だけになってしまい、控え室の居心地が悪くなった玲が話す。
とりあえず会場の外に出た三人。ライブの熱気、蘭との会話、色々な出来事を反芻し、しばらく無言のまま三人で向かい合う。
「すごかったね……」
玲がぽつりとつぶやく。それを合図に、佑香が溢れる思いを口に出す。
「わたしね、今までそんな目標みたいな大それたものはなくて、自分もライマスや他のアイドルアニメの世界にいけるんだ、くらいの気持ちでやってたんだ」
その佑香の言葉を、美空も玲も真っ直ぐに聞いている。
「でも、今日のライブを見て、蘭さんの言葉を聞いてわかったんだ。わたしがライマスのアニメや中の人のライブを見ていたとき、そして今日ailesのライブを観ていたとき、わたし、いつも笑顔だった」
「うん」
「だから、わたしもこれからアイドル・スノーフェアリーズとして、みんなを笑顔にする、そんな存在になるんだ」
佑香の言葉に頷く美空と玲。
「うん、私も笑顔を意識して練習していくよ」
「アタシも、頑張る」
笑顔で見詰め合う三人。いつの間にか空一面を覆っていた雲は薄くなり、雲の切れ間から綺麗な満月が三人を照らしていた。
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