ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第4章 アイドルとは、何ですか?

招待券、もらっちゃいました

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「う~ん~」

 初ライブから数日後のアイドル同好会の部室。机に座った佑香が腕を前に伸ばして机に突っ伏している。

「どうしたの、佑香?」
「いやぁ、なんかライブが終わって集中力がどっかへ行ってしまったというか」
「まあ、試合じゃないけど、本番の後の数日をリフレッシュに充てるのはいいことだと思うよ」

 佑香のだらしない姿にやれやれという顔をしながら、美空が答える。

「でも、次が九月の文化祭までライブがないなんてモチベーションの維持がむずかしいよー」
「今、どこかのライブに出演できないか探しているところだから。もう少し我慢してね」

 紗夜香の言葉に、亜紀が続ける。

「とりあえずまだやることが残ってるで」
「やること?」

 亜紀の言葉に首を傾げる美空。亜紀がびしっとPCのモニターを指差す。

「サイトや。早くスノーフェアリーズのサイトを作らんとな。今は先輩達Re-alize!のサイトを間借りさせてもらってるけど、いつまでも間借りしてるわけにもいかんしな」
「え、そうなの?」
「ええ。ライブ前に、時間の合間を見て亜紀ちゃんが作っていてくれたのよ」

 紗夜香の言葉に驚く美空。

「全然知らなかった」
「まあ本番前の三人に余計な気使わせんように思ってな」

 亜紀がさも当然のように話す。

「それで、ライブも終わったし、早くちゃんとしたスノーフェアリーズのサイトを作らないう話をさやさや先輩としていたところや」
「ええ、せっかくの初ライブ後だから早く作らないとね」

 紗夜香が亜紀の言葉に続ける。

「初ライブを見て気になってくれた人や、そういう人の感想を見て、スノーフェアリーズってどんなグループなんだろうと思ってくれている人がネットで検索をかけたときに、いつまでも仮サイトのままじゃ勿体ないわ」
「なるほど」
「とりあえず仮サイトには『本サイトまもなく公開!』って書いてるんやけどな。まもなくがいつまでも続いたらまずいやん」

 亜紀の言葉に玲が質問する。

「それで、アタシ達は何をすればいいの? サイトを作るのだったら技術的にあまり手伝えることは無さそうだけど……」
「あ、別に技術的なことは一人で出来るから問題あらへんで。れいれい達にお願いしたいのはコンテンツの方や」
「こんてんつ?」

 オウム返しに聞いてくる佑香に対し、亜紀が返す。

「サイトの中身のことや。普通アイドルのサイトって言ったら本人の自己紹介とかあるやろ。ゆかっちの自己紹介をウチが書くわけにはいかんやん」
「あ、なるほど」
「とりあえず自己紹介の文章を考えればいいの?」

 美空の質問に、せやなぁとつぶやいてから亜紀が答える。

「自己紹介の他に、身長体重スリーサイズ……は載せたくないわな。好きな食べ物とか趣味とかそんな感じで頼むわ」
「うん、わかった」

 それから小一時間。佑香、美空、玲が喧々諤々と話し合いながら自己紹介の文章を作り、亜紀がそれをサイトにアップした。三人の顔写真の隣にプロフィールの欄があるレイアウトの、プロフィール欄に文章を当てていく。

「あー、わたしたちの顔写真! いつの間に!」
「初ライブの時に撮ったヤツや。メイクして衣装着てる写真ってこれしかないやろ?」
「えー、使われると思ったらもっとキリっとした顔にしたのに~」
「うちらみたいな素人はカメラを意識するとかえって表情がぎこちなくなるもんや。な、みそらっち」
「え?」

 急に話を振られて驚く美空。

「みそらっち新聞とかマスコミにたくさん写真撮られてきたやん。その時カメラを意識しとった?」
「ううん、特に意識したことはないかな……」
「ほらな。これが美少女天才ジャンパーの写真写りの秘訣や」
「もう、やめてってば」


 その時、部室のドアが開いた。

「おう、みんな揃ってるか?」
「全員いるわよ、さとみなちゃん」

 入ってきたのは顧問の美奈子だった。ノックもせずに部室のドアを開ける人間は美奈子と決まっている。

「なに、また仕事サボって雑誌でも読みに来たの?」
「及川、お前私のことをなんだと思ってる」
「さとみなちゃんはさとみなちゃんでしょ」

 美奈子の返答に大きくため息をつく美奈子。気を取り直すべく軽く首を振る。

「ちがうちがう、今日はお前達に話があって来たんだ」
「話ってなんですか?」
「これだ」

 そう言うと、美奈子は手に持っていたクリアファイルを見せる。クリアファイルの中には小さな紙が数枚入っていた。

「知り合いのツテでな、来週の土曜日のアイドルライブのチケットを三枚もらったんだ」
「アイドルライブ、ですか?」

 玲の問いかけに、美奈子はああそうか、と気付いたように話す。

「及川以外は札幌でアイドルライブに行ったことないだろう?」
「はい、ありません」
「アニソン歌手のミニライブならありますけどアイドルのライブは無いです」

 美空と佑香の返事に美奈子が続ける。

「アイドルのライブといっても、たぶんお前たちが想像しているようなドームや市民会館でやるようなのではなく、小さなライブハウスで行われるものだけどな」
「ライブハウス、ですか……」

 玲が不安そうな顔をする。ライブハウスという単語に怖いイメージを持っているようだった。その気配を美奈子が察する。

「ライブハウスといっても昼間に行われるやつだ。大体終演時間が夜になるライブにお前達は誘わん。これでも教育者だからな」

 そう言ってドヤ顔をする美奈子に対し紗夜香がため息をつく。

「もう、さとみなちゃんが言っても全然説得力ないよ、それ。で、誰が出るの? 対バン?」
「ああ、対バンだ。なんと『ailes』も出るぞ」
「へえ、ailes出るんだ。それは観に行った方がいいわね」

 二人の会話に美空が割って入る。

「タイバン、って誰ですか?」
「あ、対バンっていうのは人の名前じゃなくて、ライブの形式のことを言うの。一つのアイドルやバンドが最後までライブをするのをワンマンというのに対して、複数のアイドルやバンドが一緒に出演するライブを対バン形式って言うのよ」
「じゃいろんなバンドが出るんですね」

 紗夜香の説明に納得した美空。今度は佑香が尋ねる。

「エイルっていうのはグループ名ですか? 有名なんですか?」
「ええ、札幌の地元アイドルでは今一番人気があるんじゃないかしら。東京の方のライブにもよく呼ばれているわ」
「札幌で一番人気かぁ。見てみたいなぁ」

 佑香の言葉に、美奈子がすまなそうな顔をする。

「ただな、チケットが三枚しかないんだ。この中で三人しか観に行けないんだが……」
「あ、私はいいわよ。一年のみんなに観に行ってもらいたいから」

 そう答える紗夜香。残った一年生の四人が顔を見合わせる。すると、亜紀が手を挙げた。

「ウチも別にいいで。やっぱりアイドル実際にやってる三人が観に行った方が勉強になるやろうし」
「え、いいの亜紀ちゃん? 作曲でも勉強になるんじゃない?」
「まぁ勉強にならんことはないけど、CDやネットでいくらでも音楽は聴けるし」
「うう、亜紀ちゃんごめんね。今度お昼おごるからね」
「ええってええって。そんな気使わんでや」

 話がまとまったところで美奈子が佑香たちに声を掛ける。

「じゃ柿木、葛西、成瀬、これがチケットだ。地図はチケットに載ってる店名をネットで調べれば出てくる。他にわからないことがあったら遠慮せず聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます」

 チケットを受け取った佑香は、期待に胸を膨らませていた。


「生のアイドルライブかぁ……」
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