ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第2章 アイドル同好会!

正式入部!

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 入学式から一週間後。
 今日も佑香、美空、玲の三人は川沿いをランニングした後、河川敷の芝生でダンス練習を行っていた。

「ワン・ツー・スリー・フォー・ファイブ・シックス・セブン・エイト! はい、お疲れ様」

 リズムに合わせて手を叩いていた紗夜香が、休憩の合図をする。

「おつかれさまでしたー! なんか最初よりも動きがスムーズになってきた気がするっ」
「うん、練習している分着実に上達していると思う」

 佑香の言葉に、美空が頷く。佑香が玲の方を向く。

「れいちゃんどう? 慣れてきた?」
「ハァ、ハァ、うん……、ハァ、なんとか付いていけるように、なったよ」
「れいちゃん歌一番上手だから、これでダンスもマスターしたら敵なしだねっ」
「うん、私も歌で二人に追いつけるよう練習するよ」

 そんなやりとりを見ていた紗夜香が三人に話し掛ける。

「どうかしら、今日は外での練習はこれくらいにして、この後は部室で実際の振り付けを練習してみない?」
「え、実際の振り付けですか?」

 その言葉に真っ先に反応したのは佑香だった。

「ええ、キャンスト、あ、みんなが歌練習している『CANDY☆CANDY☆STORY』のことね。とりあえず基本ステップは一通りやったし、そろそろキャンストを踊りながら歌ってみないと思って」
「わあ、やりたいですっ」

 目を輝かせて答える佑香。美空がふと思った疑問を口にする。

「あれ、でも部室でダンス練習って、踊るスペースは」
「そう、それなんだけどね……」

          ★

「いくよー、せーのっ」
「せーのっ」

 佑香、美空、玲、亜紀が机の四隅を持って持ち上げる。部室で踊れるスペースを作るために、普段は部屋の真ん中にある机を入口側へ移動させるのだった。

「ごめんなさいね、みんなに力仕事させちゃって」
「いえ、これくらい全然平気です」
「ウチは平気やないでぇ。一日分の体力使い切ったわ……」
「ごめんね亜紀ちゃん、戻すときは私が代わるからね」

 亜紀にそう話すと、紗夜香は部室のPCにDVDをセットした。最初に見た文化祭のステージとは違う、河川敷の芝生で撮ったと思われる動画だ。

「これはね、先輩達が『もし自分達以外の人がキャンストをやるなら』と思って作った練習用の動画なの。ダンスの振り付けをメインにして踊ったものを動画編集で左右反転しているから、画面の見たままで踊れば練習になるわ」
「あ、わたしも家でライマスの練習するときライブDVDを左右反転やって覚えてました」

 そう言うと、佑香がPCモニタ前に作ったダンススペースに入る。

『♪小さなキャンディ ポケットいっぱいに詰め込んで』

 曲に合わせて動画の中の先輩達が踊り始める。歌の一番を見ていた佑香は、そのまま二番から振り付けに参加する。

『♪届けみんなへ 魔法のストーリー』

 曲が終わって最後のポーズを決める佑香。

「凄い、佑香ちゃん! 一回見て覚えたの?」
「えへへ、家でライマスの曲何曲も踊ってるからね」

 驚く美空に照れ笑いで答える佑香。

「それでも一回で暗記できるのはすごい……」
「ええ。佑香ちゃん歌もそうだったけどセンスがかなりいいと思うわ」

 玲と紗夜香も玲を褒める。照れて返答に困った佑香が話題を変えようと話し出す。

「さあ、みそらちゃんもれいちゃんも一緒にやろう! 楽しいよ!」

 それから、しばらく一人分のダンススペースに佑香、美空、玲が交互に入りながら練習を行った。美空は動きの左右を間違ったりしながらも、とにかく数多く踊って身体に動きを覚えこませようとした。反対に、玲はノートに動きのポイントをメモしながら、頭で動きを覚えようとした。

 帰りの時間になる頃には、美空も玲もなんとか振り付けが形になっていた。
 机を元の位置に戻したところで、紗夜香が口を開く。

「そういえば、まだ四人とも仮入部だったわよね」

 紗夜香に言われて、はっと気付く四人。皆、言われるまで自分が仮入部ということを忘れていた。

「もちろん入部しますっ。せっかくダンスも振り付けを覚えて楽しくなってきたので」
「私も正式に入部します」

 佑香と美空がすぐに入部の意思を示す。

「あ、ウチももちろん入部しますで。歌やダンスは見てるだけやけれど」
「大丈夫よ、それは私も一緒だから。成瀬さんはどうする? まだ見学のはずだったのがいつの間にかみんなと一緒に練習になっちゃってたけど」

 話を振られた玲が、ぐっと目に力を込めて答える。

「アタシ、まだダンスとか全然ダメだけど、それでも良ければ、ぜひ入りたい、です」
「全然問題ないわ。成瀬さんどんどん上達しているもの。これから慣れてくるとどんどん楽しくなってくると思うわ」

 紗夜香の言葉にほっと一安心する玲。口にするか迷ったが、この機会しかないと思って紗夜香に話し掛ける。

「あの、及川先輩。アタシも他のみんなみたいに、名前で呼んでもらって、大丈夫です……」
「そうね、これでみんな会員だものね。よろしく、玲ちゃん」
「よろしくお願いします……!」
「じゃみんなこの用紙に名前を書いてね。一応事務手続きがあるから」

 紗夜香から渡された同好会入会用紙に自分の名前を書く四人。

「わあ、これでわたし正式にアイドルになったんだぁ」
「私はまだ実感が沸かないな、自分がアイドルだなんて」

 佑香と美空の言葉に、紗夜香が返す。

「ふふ、最初のライブをするまではアイドルの実感は沸きにくいかもね。やっぱりアイドルはライブをしてなんぼだから」

          ★

 その日の夜、紗夜香は何者かと電話をしていた。

「はい、みんな凄いです。ダンスも歌もセンスはかなり高いです。ただ……」
『ただ?』

 電話の向こうの人物が紗夜香の言葉に聞き返す。

「みんな、アイドルが大好き、アイドルがやりたい、という思いで入ったわけではないので、アイドルそのものに対する思いというのがまだ薄いかなという気がするんです」

 そんな紗夜香の言葉を聞いた相手が、ここぞとばかりに話を続ける。

『だったら尚更、この話はその子達のためにも良いんじゃないかな。考えておいてね』
「はい」

 電話を切った紗夜香が、部屋の窓から星空を見上げた。紗夜香の家の周りには灯りが少なく、星々がはっきりと見える。まだ寒い夜空には、これからの三人を示すかのように、春の大三角ことデネボア、スピカ、アークトゥルスの三ツ星が光り輝いていた。
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