12 / 38
第2章 アイドル同好会!
アイドル勧誘大作戦!
しおりを挟む
「(今日もまだ誰とも話ができていない……)」
玲は、ため息をつきながら次の時間割の教科書を読んでいた。入学三日目にして、玲はすっかり周囲の人間から「ちょっと怖そうなクール系超美人」という評価を受けていたのだが、当の本人だけは、話しかけられないのが自分が内気で容姿も地味なのが原因だと思い込んでいた。
「あ、あの、成瀬さんっ」
その時、玲に対して呼びかける声があった。玲がびっくりして顔を上げると、そこにはクラスメイトが三人立っていた。三人とも最初のホームルームの自己紹介で名前は聞いていたはずだったが、当時極度の緊張をしていた玲は思い出すことはできなかった。
「……何?」
緊張をして、ぶっきらぼうな返答をしてしまう。失礼な返し方だったかと思ったが、実際この三人が自分に何の用があるのか玲には見当も付かなかった。
「あ、えっと、今日のお昼休み、わたし達三人で一緒にお昼食べる予定なんだけど、良かったら成瀬さんも一緒にどう、かな?」
「え……?」
突然の誘いに戸惑う玲。なぜ急に自分を誘ってきたのか理由が見つからない。もしかして、クラスで孤立しているのを見かねて声を掛けてくれたのだろうか。だとしたらとても情けないし恥ずかしい。
玲が返答をしないことで、声を掛けてくれた生徒が困った顔になる。
「あ、もしかして成瀬さん予定があった? だったらごめんね」
「ううん、予定は特に、ないから……」
慌てて玲が否定する。慌てているのだが、どうしても緊張してぶっきらぼうな話し方になってしまう。
「良かった。じゃお昼休みになったらまた! あ、私出席番号七番の柿木佑香です。よろしくね」
そう言って、佑香は、まだ戸惑い気味の玲に笑いかけた。
昼休みになり、三人は約束通り玲を迎えに行って、佑香と美空の机に亜紀の机を繋げてL字のテーブルを作って四人で囲むように座った。
「佑香ちゃんのお弁当いつも美味しそうだよね」
「うちお店やってるからね。まかない弁当だよー」
美空の言葉に答えた佑香が、玲に話し掛ける。
「成瀬さんのお弁当もすごい可愛くておいしそう! お母さんが作ってくれるの?」
「うちは両親朝早いから弁当は自分で……」
「すごーい、お弁当手作りなんだ!」
佑香に褒められて照れた顔を必死に隠そうとする玲。
「ほんまやなー。うちなんか毎日購買やで」
「でも亜紀ちゃん今日はサンドイッチだけど昨日はおにぎりだったよね」
「ここの購買部けっこう種類あるで。目指すは全制覇や」
そんな話の輪に加われているのがまだ自分でも不思議な玲に対して、佑香が声を掛ける。
「ねえ、成瀬さん。れいちゃん、って呼んでもいいかな? わたしのことはゆうかでいいから」
「え、う、うん……」
中学時代の友人もみんな苗字にさん付けで呼んでいたので、戸惑う玲。
「私のことも美空でいいよ」
「ウチも亜紀でもアッキーでもなんでもオーケーやで」
二人からも言われて、悩む玲。「さん」か「ちゃん」を付けた方がいいだろうかと思ったが、逆に呼び捨てでいいと言われているのにちゃん付けだとよそよそしいのかもしれないと思い、言われたままに呼ぶ。
「うん。佑香、美空、亜紀」
「よろしく、れいちゃん!」
呼び捨てでも失礼に思われなかったようでほっとする玲。そんな玲に佑香が聞いてくる。
「ねえ、玲ちゃんは中学のとき何か部活入ってた? たしか自己紹介のとき部活の話はしてなかったと思って」
「あ、……」
自己紹介の時のことを思い出して気分が沈む玲。しかし、せっかくの会話に水を差してはいけないと思い、すぐに立ち直ろうと話の内容に意識を集中する。
「中学の時は、合唱部に入ってた……」
「合唱部? 玲ちゃん歌上手なんだ」
そう聞いてくる美空に対し、少し俯きながら答える玲。
「でも、賞は取ってないから……」
「合唱部だと学校としての賞やから個人の上手い下手とは別やしな」
「れいちゃん高校も合唱部に入るの?」
佑香の問いに対し、玲が少し考えてから口を開く。
「わかんない……。高校は特に何をするとは決めてなかったから」
実際、玲の思い描いていた「高校デビュー」はぼんやりとしたもので、部活動をどうするかなどは全く考えていなかった。一昨日昨日と部活動の勧誘にあまり積極的でなかったのもそのためである。
その答えに対し、三人が顔を見合わせる。目線で合図をして、佑香が話すことに決める。
「あのね、れいちゃん。わたしたち、アイドル同好会に仮入部してるんだ。それでね、今一緒にユニットを組んでくれる人を探しているんだ」
「アイドル同好会? 凄いね、そんな同好会があるんだ」
自分とは全然別世界の話だと思っている玲は、話の意図に気付かず普通に思ったままの感想を言う。
そんな玲に対し、佑香が、ぎゅっと背筋を伸ばして玲を見つめる。
「お願い、れいちゃん! わたしたちと一緒にアイドルしよう!」
「え……」
言われたことが一瞬わからなかった玲だが、本来頭の回転は速いので、すぐに今までの流れを理解する。要するに、三人はアイドル同好会の勧誘として私を昼食に誘ったのだ。
理解をした玲の心の中が複雑な気持ちになる。孤立していたのを見かねて、ではなく部活の勧誘として声を掛けてくれたというのは嬉しい。だが、なぜ自分を「アイドル同好会」に誘ったのかがわからない。なぜ、こんな地味でアイドルなどという存在とは縁遠い自分なのか。まだバレーボール部やバスケットボール部への勧誘の方が背が高いからという理由でわからなくはない。
「ねえ佑香。なんでアタシを誘ったの?」
高校に来てから全然話していなかったので、声がかすれて私と言ったつもりがアタシとなってしまう。
「え、それはもちろんうちのクラスで一番れいちゃんがかわいいから」
その佑香の言葉を勧誘のためのお世辞だと思う玲。
「それは、ないでしょ……」
「玲ちゃんはかわいいというよりは綺麗という形容詞の方が合うかな」
「なんや、れいれいもこの二人と同じように自分の可愛さに気付いてないタイプか?」
美空と亜紀にもそう言われ、黙り込む玲。自分が可愛いや綺麗などとはとても思えないが、とりあえず服装やメイクが地味ではなくなったのかと思うことにした。元々はこうやって誰かと話すためにやっていたオシャレだ。
「ねえ、れいちゃん。ダメかな?」
そう困り顔で聞いてくる佑香の顔は、玲から見てもたしかにアイドルの子にいそうなくらい可愛かった。
そんな可愛い子と一緒でやっていけるか不安ではあったが、それよりも今ここで断ることで、また一人ぼっちの高校生活に戻る不安の方が大きかった。
「あの……、最初は見学だけ、でも大丈夫?」
「うん、もちろんっ!」
佑香が玲の手を取って満面の笑みを浮かべる。その笑顔に釣られて、玲も高校に入ってから初めての笑顔を見せるのだった。
玲は、ため息をつきながら次の時間割の教科書を読んでいた。入学三日目にして、玲はすっかり周囲の人間から「ちょっと怖そうなクール系超美人」という評価を受けていたのだが、当の本人だけは、話しかけられないのが自分が内気で容姿も地味なのが原因だと思い込んでいた。
「あ、あの、成瀬さんっ」
その時、玲に対して呼びかける声があった。玲がびっくりして顔を上げると、そこにはクラスメイトが三人立っていた。三人とも最初のホームルームの自己紹介で名前は聞いていたはずだったが、当時極度の緊張をしていた玲は思い出すことはできなかった。
「……何?」
緊張をして、ぶっきらぼうな返答をしてしまう。失礼な返し方だったかと思ったが、実際この三人が自分に何の用があるのか玲には見当も付かなかった。
「あ、えっと、今日のお昼休み、わたし達三人で一緒にお昼食べる予定なんだけど、良かったら成瀬さんも一緒にどう、かな?」
「え……?」
突然の誘いに戸惑う玲。なぜ急に自分を誘ってきたのか理由が見つからない。もしかして、クラスで孤立しているのを見かねて声を掛けてくれたのだろうか。だとしたらとても情けないし恥ずかしい。
玲が返答をしないことで、声を掛けてくれた生徒が困った顔になる。
「あ、もしかして成瀬さん予定があった? だったらごめんね」
「ううん、予定は特に、ないから……」
慌てて玲が否定する。慌てているのだが、どうしても緊張してぶっきらぼうな話し方になってしまう。
「良かった。じゃお昼休みになったらまた! あ、私出席番号七番の柿木佑香です。よろしくね」
そう言って、佑香は、まだ戸惑い気味の玲に笑いかけた。
昼休みになり、三人は約束通り玲を迎えに行って、佑香と美空の机に亜紀の机を繋げてL字のテーブルを作って四人で囲むように座った。
「佑香ちゃんのお弁当いつも美味しそうだよね」
「うちお店やってるからね。まかない弁当だよー」
美空の言葉に答えた佑香が、玲に話し掛ける。
「成瀬さんのお弁当もすごい可愛くておいしそう! お母さんが作ってくれるの?」
「うちは両親朝早いから弁当は自分で……」
「すごーい、お弁当手作りなんだ!」
佑香に褒められて照れた顔を必死に隠そうとする玲。
「ほんまやなー。うちなんか毎日購買やで」
「でも亜紀ちゃん今日はサンドイッチだけど昨日はおにぎりだったよね」
「ここの購買部けっこう種類あるで。目指すは全制覇や」
そんな話の輪に加われているのがまだ自分でも不思議な玲に対して、佑香が声を掛ける。
「ねえ、成瀬さん。れいちゃん、って呼んでもいいかな? わたしのことはゆうかでいいから」
「え、う、うん……」
中学時代の友人もみんな苗字にさん付けで呼んでいたので、戸惑う玲。
「私のことも美空でいいよ」
「ウチも亜紀でもアッキーでもなんでもオーケーやで」
二人からも言われて、悩む玲。「さん」か「ちゃん」を付けた方がいいだろうかと思ったが、逆に呼び捨てでいいと言われているのにちゃん付けだとよそよそしいのかもしれないと思い、言われたままに呼ぶ。
「うん。佑香、美空、亜紀」
「よろしく、れいちゃん!」
呼び捨てでも失礼に思われなかったようでほっとする玲。そんな玲に佑香が聞いてくる。
「ねえ、玲ちゃんは中学のとき何か部活入ってた? たしか自己紹介のとき部活の話はしてなかったと思って」
「あ、……」
自己紹介の時のことを思い出して気分が沈む玲。しかし、せっかくの会話に水を差してはいけないと思い、すぐに立ち直ろうと話の内容に意識を集中する。
「中学の時は、合唱部に入ってた……」
「合唱部? 玲ちゃん歌上手なんだ」
そう聞いてくる美空に対し、少し俯きながら答える玲。
「でも、賞は取ってないから……」
「合唱部だと学校としての賞やから個人の上手い下手とは別やしな」
「れいちゃん高校も合唱部に入るの?」
佑香の問いに対し、玲が少し考えてから口を開く。
「わかんない……。高校は特に何をするとは決めてなかったから」
実際、玲の思い描いていた「高校デビュー」はぼんやりとしたもので、部活動をどうするかなどは全く考えていなかった。一昨日昨日と部活動の勧誘にあまり積極的でなかったのもそのためである。
その答えに対し、三人が顔を見合わせる。目線で合図をして、佑香が話すことに決める。
「あのね、れいちゃん。わたしたち、アイドル同好会に仮入部してるんだ。それでね、今一緒にユニットを組んでくれる人を探しているんだ」
「アイドル同好会? 凄いね、そんな同好会があるんだ」
自分とは全然別世界の話だと思っている玲は、話の意図に気付かず普通に思ったままの感想を言う。
そんな玲に対し、佑香が、ぎゅっと背筋を伸ばして玲を見つめる。
「お願い、れいちゃん! わたしたちと一緒にアイドルしよう!」
「え……」
言われたことが一瞬わからなかった玲だが、本来頭の回転は速いので、すぐに今までの流れを理解する。要するに、三人はアイドル同好会の勧誘として私を昼食に誘ったのだ。
理解をした玲の心の中が複雑な気持ちになる。孤立していたのを見かねて、ではなく部活の勧誘として声を掛けてくれたというのは嬉しい。だが、なぜ自分を「アイドル同好会」に誘ったのかがわからない。なぜ、こんな地味でアイドルなどという存在とは縁遠い自分なのか。まだバレーボール部やバスケットボール部への勧誘の方が背が高いからという理由でわからなくはない。
「ねえ佑香。なんでアタシを誘ったの?」
高校に来てから全然話していなかったので、声がかすれて私と言ったつもりがアタシとなってしまう。
「え、それはもちろんうちのクラスで一番れいちゃんがかわいいから」
その佑香の言葉を勧誘のためのお世辞だと思う玲。
「それは、ないでしょ……」
「玲ちゃんはかわいいというよりは綺麗という形容詞の方が合うかな」
「なんや、れいれいもこの二人と同じように自分の可愛さに気付いてないタイプか?」
美空と亜紀にもそう言われ、黙り込む玲。自分が可愛いや綺麗などとはとても思えないが、とりあえず服装やメイクが地味ではなくなったのかと思うことにした。元々はこうやって誰かと話すためにやっていたオシャレだ。
「ねえ、れいちゃん。ダメかな?」
そう困り顔で聞いてくる佑香の顔は、玲から見てもたしかにアイドルの子にいそうなくらい可愛かった。
そんな可愛い子と一緒でやっていけるか不安ではあったが、それよりも今ここで断ることで、また一人ぼっちの高校生活に戻る不安の方が大きかった。
「あの……、最初は見学だけ、でも大丈夫?」
「うん、もちろんっ!」
佑香が玲の手を取って満面の笑みを浮かべる。その笑顔に釣られて、玲も高校に入ってから初めての笑顔を見せるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる