ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第2章 アイドル同好会!

はじめての歌練習

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 紗夜香がライブのDVDではなく別のCDを書棚から取り出す。

「サイトに載せるように、きちんとスタジオで収録した音源もあるのよ」
「おー、ちゃんとスタジオ録音するんですね」
「ええ。やっぱりライブの音源だとネット上で聴くには音質が悪いしね」

 亜紀の言葉に紗夜香が答える。CDをPCに入れると、再び書棚に戻って今度は楽譜入れを取り出す。
 三人に楽譜を渡しながら紗夜香が話す。

「はい。これが先輩達のユニット『Re-alize!』の曲、『CANDY☆CANDY☆STORY』の楽譜よ。二人とも楽譜は読める?」

 そう聞く紗夜香に対し、佑香と美空が答える。

「はい、家にピアノがあるので子供の頃から遊びで少し弾いてました。楽譜は普通に読めると思います」
「えっと、音楽の授業で習った程度なら」
「ただのメロディ譜だから音楽の授業で習ったのが読めれば十分よ」

 紗夜香の言葉にほっとする美空。実際手渡された楽譜は中学の音楽の教科書に載っていたような、五線譜にメロディが書かれていて、その下に歌詞が載っているものだった。

「じゃリピートでずっと流し続けているから、なんとなく口ずさめそうになったら入ってみて。この部屋防音にはなっていないので声は小さめでね」

 そう言って紗夜香がCDを再生する。昨日のライブ動画でも聴いた曲が、高音質で流れてくる。

「おー、やっぱりスタジオだとボーカルバランスとか良いですね。イコライザとかも弄ってはるんですか?」
「そうね、抜けが悪いとハイを上げるとか基本的なところだけだけどね」

 亜紀と紗夜香の会話を聞いて美空が佑香に尋ねる。

「佑香ちゃん、亜紀ちゃんの言ってることわかる?」
「わかんないよ~。たぶん録音するときのミキサーとかそういうやつの話だと思うけど。それよりも凄いね。本当に市販のCDみたいな音質で録音できるんだね」
「うん、ライブ映像のはホームビデオみたいだったけどこっちは本当にお店で流れてそう」

 そんな話をしているうちに一度目の曲が終わって、二回目の演奏が始まる。
 美空は曲に合わせて目で必死に楽譜を追っていたが、そのとき、隣からCDの音源とは別の声が聞こえてきた。

「小さなキャンディ~ ポケットいっぱいに~詰め込んで~♪」

 横を見ると、佑香がCD音源に合わせて小声で歌い始めていた。

「佑香ちゃんもう歌えるの? 今一回聴いただけだよね」
「こういう曲調ってアニソン……アニメの曲に多いから、大体一度聴いたら口ずさむくらいはできるかな」

 そう言ってにっこりと笑う佑香。再び楽譜に目を落としながら歌を口ずさむ。

「凄い……」

 その様子に感心している美空に対して紗夜香が声を掛ける。

「佑香ちゃんみたいにすぐ歌える子は滅多にいないから。ゆっくり何回も聴いて覚えれば大丈夫だからね。焦らずにいきましょう」
「はい」

 そう言われて、美空も再び楽譜に目を落とす。美空は五線譜を見てもすぐにその音が何なのかはわからないので、楽譜はもっぱら歌詞を追うようにして、音程は耳から入ってくる音源で覚えるようにした。


 その後何回か繰り返して流しているうちに、美空もなんとか口ずさむくらいはできるようになってきた。

「「甘くてハッピー それは魔法のストーリー♪」」

 二人でメロディを追えるようになる。

「みそらっちも良い声しとるけど、ホンマゆかっちは歌ウマいなぁ。節回しとかかなり歌い慣れている感じや。なんかボイトレとかやっとったん?」

 亜紀の言葉に佑香は手を振って否定する。

「まさか、ボイストレーニングなんてやったことないよー。合唱部でもないし。ただ、親がカラオケ大好きでよく家族でカラオケにいくよ。歌い慣れてる感じがするのはそれでじゃないかな」
「ほー、カラオケだけでこれだけ上手いんなら中々のもんやと思うで」

 亜紀が佑香を褒めているのを見て、美空がつぶやく。

「私、カラオケとか行ったことないし、学校の音楽くらいでしか歌ったことないから、これから頑張って練習しないと」
「逆に今までほとんど歌っていなかったということはこれからの伸びしろがそれだけあるということよ。美空ちゃん、まだ初日なんだしこれからじっくりと練習すればいいわよ」
「はい、紗夜香先輩」

 佑香に比べて美空の方がアイドルへのイメージが沸いていなかったため、歌練習を楽しんでくれるか不安だった紗夜香だったが、美空が真面目に取り組んでくれそうだったので一安心する。

「うん、みそらちゃん声キレイだからたくさん歌ったらすごい上手になりそうだよ」
「ありがとう、佑香ちゃん歌凄く上手だけど、練習して早く追いつけるよう頑張るよ」
「うんうん、二人ともその意気や。ところでさやさや先輩?」

 亜紀が紗夜香に話を振る。


「なあに、亜紀ちゃん?」
「この曲って三人ユニット用の曲ですよね? ハモリもあるし。パート分けはどないするんです?」

 たしかに楽譜は三人分あるうちの二人分を使っていた。美空は聞こえてくる音に合わせてメインパートを歌っていたが、実際の楽譜では裏メロディでハモリになっている箇所があった。

「そうね。もちろん二人用に楽譜を作り変えることもできるけど……。できればやっぱり三人で歌いたいわね」

 そう紗夜香が答える。

「それにやっぱりダンスの振り付け的にもアイドルユニットは三人とか奇数がいいのよね。奇数だとセンターができるし」
「あ、わかりますそれ。アイドルアニメのユニットも七人とか九人が多かった気がします」

 佑香が相槌を入れる。

「たしかに曲も三声だと締まりが出ますわ」

 亜紀も作曲の立場から意見を言う。

「というわけで、頑張ってあと一人入ってもらえるように勧誘を頑張るわ。これは私の仕事だからね」

 そう言ってから、紗夜香は何か気付いたようにぽんと手を叩く。

「そうか、みんなも中学の知り合いとかでアイドルに興味ありそうな子がもしいたら教えてね。私から誘ってみるし、仲の良い子だったらみんなが直接誘ってみてくれても良いし」

 そう紗夜香に言われて、顔を見合わせる三人。

「みそらちゃん、あきちゃん誰かアイドルやりそうな知り合いいる?」
「私越境だよ。まだ佑香ちゃんと亜紀ちゃんしか知り合いいないよ」
「そうだよね。私も中学一緒の子はたくさんいるけど、仲の良かった子でアイドルに興味ありそうな子、って言われると中々思い浮かばないかなぁ」

 そんな佑香と美空のやりとりを聞いていた亜紀が人差し指を前に立てて会話に入ってくる。

「違うんや。アイドルに興味ありそうかどうかで判断でしたらいけないんや。現にゆかっちもみそらっちもアイドルに特別興味あります! ってわけやなかったやろ?」
「うん、まぁそうだけど」

 亜紀の言いたいことがよくわからず、きょとんとしながら返事をする美空。

「それでも今日歌っててアイドルっぽかったのは二人とも可愛いからや。とりあえずアイドルっぽい可愛さがあればそれで条件はクリアなんや!」

 亜紀の謎の気迫に圧されながら佑香が聞く。

「う、うん。それで、亜紀ちゃんはアイドルっぽい可愛い知り合いの子がいるの?」

 その言葉に、ここぞとばかりに目を光らせる亜紀。


「いるやないか。うちのクラスに、とびっきりの美少女が」
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