ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第2章 アイドル同好会!

さとみな、襲来

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 アイドル同好会部室のドアが勢いよく開かれる。

「おう、及川調子はどうだー!?」

 威勢の良い声と共に部室に入ってきたのは、教師のような大人の女性だった。年齢は三十歳前後だろうか、シャギーを入れたショートヘアに太めに揃えた眉が男勝りな印象を与える。

「あ、さとみなちゃん」

 教師に気付いた及川が返事をする。

「お、さっそく見学の子達か?」
「うん、今仮入部してくれたところだよ」

 そう会話をしてから、紗夜香が紹介をする。

「あ、みんな。この人がうちの同好会の顧問の佐藤美奈子先生。みんなさとみなちゃんって呼んでるから」
「せめて『さとみな先生』だ。ちゃん付けで呼んでるのはお前くらいだ」
「だってさとみなちゃんはさとみなちゃんだもん」

 そのやりとりを見て、自分達の前では優しいお姉さんな感じだったけど、本当はかわいいところがあるんだなと紗夜香のことを見直す美空だった。先生も、容姿や口調が男っぽいところがあるけど、これだけフランクに話せるということは優しい先生なのだろう。

 美奈子が、三人を見回す。

「これまた美少女が揃ったなぁ。及川お前スカウトの才能あるな」
「もー、たまたま三人が通りがかってくれたんだよ」

 その流れを遮るように亜紀が手を挙げる。

「あー、ウチは裏方希望なんで」
「なんだ、そうなのか。十分かわいいのに勿体無い」
「さとみなちゃんそれ私の時にも言ってたよね」

 茶化すように紗夜香が言う。実際亜紀も紗夜香も容姿は悪い方ではない。

「でもこっちの二人はアイドル志望なんだろ? すっごい可愛いな二人とも」
「え、いや、そんな」

 反応に困る佑香。かわいいと言われたことはあるが、いわゆる親戚のおじさんや実家の店の常連客といった人達が相手だったので半分以上お世辞と思って聞いていた。なので、こう面と向かってかわいい、しかもアイドルの基準で、と言われるとどう反応すれば良いのかわからなかった。

「あー、私もあと十年遅く生まれてきたらアイドルやってたのに!」

 そう言って額を手で押さえて悔しそうに上を向く美奈子。

「さとみなちゃんはね、南女のOGなんだ」

 その美奈子の態度を見て、解説を入れる紗夜香。

「うちも昔から自由な校風だったけどな、私が在学してた頃は高校生がアイドルやるなんて時代じゃなかったからなぁ」
「さとみなちゃんの時もグップロとか十代のアイドルたくさんいたよね」
「私のときはあくまで事務所に入るか素人はオーディション番組で合格する、って時代だったからな。部活動でアイドルやってステージに立てるなんて本当に恵まれた時代に生きてるんだぞお前たち」
「もー、さとみなちゃん発言がおばちゃんっぽいよ」

 そう言って笑う紗夜香。

「こうやってさとみなちゃんは暇してる時によく部室に来るけど、適当に相手してあげてね」
「こら及川、私は忙しい中時間を作ってわざわざ来ているんだぞ」
「ウソ。この間部室で一人でアイドル雑誌読んでたでしょ」

 二人のやりとりが漫才みたいで、佑香はずっと笑顔で話を聞いていた。

「お、そうだ。仮入部してくれたんなら名前を聞いておかないとな」

 美奈子の言葉に、三人が自己紹介をする。

「柿木佑香ですっ」
「葛西美空です。よろしくお願いします」
「菊川亜紀いいます。ウチは作曲志望です」
「柿木に葛西に菊川だな。私は佐藤美奈子。何かあったらいつでも声をかけてくれていいからな」
「はいっ」

 三人の元気な返事に、美奈子が満足気に頷く。

「あ、あと私の担当は世界史だからまだ社会の専攻決まってなかったら世界史をヨロシク!」
「もう、さとみなちゃんちゃっかり宣伝までしてるし」

 そのやりとりに本当に仲がいいなと思う美空だった。


 その後、美奈子が去ったタイミングで、今日は解散ということになった。

「みんなまだ仮入部だし、毎日来なくても大丈夫だからね」

 と紗夜香に言われたが、三人とも明日から活動に参加する気満々で、その日は帰路に着いた。

          ★

 その日の夜、美空は自室のベッドの上で部屋の天井を眺めていた。

「私がアイドルか……。なんか実感がわかないな」

 そうつぶやくと、クルリとベッドから起き上がってスマートフォンを手に持つ。

「アイドルのこと勉強してみようかな。『アイドル 動画』で検索すればいいのかな?」

 美空は部屋で一人スマートフォンの画面を覗き込んでいた。

          ★

 同じくその夜、佑香は自室のPCでアニメ『ライブマスター』の「中の人」と俗に呼ばれる、出演声優達のライブDVDを見ていた。

「わたしも、ゆいゆいやみっぴーみたいになれるのかなぁ」

 画面の中で踊っているライブマスターの主演声優達の名前を挙げながら、佑香は目を輝かせていた。

「あ、次『ホワイル』だ」

 『white illumination』。ライブマスターの中でも最も人気のある曲のうちのひとつで「ホワイル」の愛称で呼ばれている、その曲が始まるのに合わせて、椅子から立ち上がる佑香。

「すきとおるーかぜのーなかー♪」

 佑香が歌いながら踊り始める。大好きなホワイルは、歌もダンスも完璧に覚えていた。モニタの中の声優達と同じタイミングで腕を大きく振り上げ、くるりとその場でターンをする。
 明日からはライマスのモノマネではない、自分自身がアイドルになるんだということに胸のドキドキが止まらない佑香は、晴れやかな表情でホワイルを歌い続けた。

          ★

 同じくその夜、メイクを落とした玲はベッドにうつぶせになり、枕に顔を埋めていた。

「(結局今日も誰とも話ができなかった……)」

 放課後の部活勧誘も、一人では回る気になれず、強制的に手渡された何枚かのビラだけがカバンに入っていた。

「(私の高校生活、どうなっちゃうんだろう……)」

 玲の気分は、落ち込んだままだった。
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