ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第2章 アイドル同好会!

三人の入学式

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 快晴の真っ青な空を、四月の北海道のまだ冷たい風が吹き抜ける。
 今日は、札幌市内の公立高校の入学式の日だった。

 学区を越境して入学している美空は、1時間以上かけてバスと地下鉄を乗り継ぎ札幌南女子高校、南女まで来た。公共交通機関だとぐるっと遠回りの形になるので、明日からは自転車通学にしよう、そう思った美空だった。
 私服可能な高校ではあるが、なぜか学校内の上履きだけは学校指定のシューズに履き替えるのが校則だった。なんでも、ヒール可にしていた時期に廊下の傷付き方がひどかったためらしい。

「せっかくスーツなのに上履きだけシューズってなんか変だな」

 そうつぶやきながら、美空が上履きに履き替える。美空のスーツは、どうせ滅多に着ないだろうと近所のショッピングモールで安売りしていたものを買っていた。最初は親戚に借りるという話も出ていたが、百五十センチちょうどしかない小柄な美空の体格に合った親戚がいなかったので結局買うことになった。
 廊下を歩いていく美空。廊下では、同じスーツ姿の新一年生と何人かすれ違うが、学区越境の美空は知り合いが一人もいないので、知人を探すという労力は必要なかった。黙々と歩いていく。やがて廊下を進んでいくと、「一年C組」の文字が見えてくる。自分の教室を前に、美空は少し緊張する。


 ガラリ。
 教室のドアを開く美空。早めに来たため、教室の席は半分くらいしか埋まっていない状態だった。同じ中学出身だろうか、仲良く話をしている集団もあったりした。なので、特に入ってきた美空に注目する者もいなかった。

 美空は自分の席へ向かう。隣の席の生徒はすでに来ていて、座りながら入学案内の冊子を読んでいた。頭の上で短めのポニーテールを作った、かわいい感じの子だった。

「おはようございます!」

 つとめて明るく、美空が隣の席の生徒に話し掛ける。生徒が美空の方を向く。

「隣の席の、葛西美空(かさいみそら)と言います。よろしく!」
「はじめまして。わたし柿木佑香(かきのきゆうか)って言います。こちらこそよろしく!」

 美空は、カバンを掛けて席に座る。ふっと安心した表情を見せて、美空は佑香に話し掛ける。

「良かった、柿木さん話しやすい人で」
「わたしも。隣の席の人が誰かって緊張するよね。あ、わたしのことは佑香でいいよ。わたしもみそらちゃんって呼んでいいかな」
「うん、佑香ちゃん」

 まずは隣の席の人が話しやすいということで一安心し、美空と佑香の二人ともに、緊張の糸がほぐれる。

「みそらちゃんドコ中? あ、わたしは柏木中なんだ」
「あれ、柏木中って南女がある学区の」
「そ、地元も地元。ここから歩いて十分くらいで家だよ」
「わあ、いいなぁ。私は西沢中。今日、バスと地下鉄を使って来たら一時間以上もかかったから、明日からはチャリにするよ」
「あれ、西沢中って西区だよね? 北女(ほくじょ)じゃないんだ?」

 札幌市の面積は広く、東京二十三区の合計面積の倍近くある。学区が一つとはいえ、自分の家から近い高校を選ぶ傾向が強い。昔、札幌市が南北二学区に分かれていたため、南北にちょうど同じくらいの偏差値の高校が分散している。南女と対になって語られるのは、札幌北女子高校、北女である。

「うん。なんとなく南女って自由で楽しそうなイメージがあったから」
「あ、わかるそれ。北女って真面目そうだもんね」

 自由な校風が売りの南女に対し、北女はいかにも真面目で大学受験のための女子高というのが世間一般のイメージだった。南女を選んだ本当の理由は知人に会いたくなかったからだが、そのことは話したくなかったので、美空は話題を変える。

「私勉強はあんまりだったんだ。体育とか、他に何個か得意な科目があって、それで他をカバーしてなんとか南女に受かった感じだよ」
「わー、得意科目とかあるんだ、いいなぁ。わたしは全部よくもなくわるくもなく、だよー」

 そんな会話をしていると、チャイムが鳴って担任の先生が入ってきた。


 担任からの短い説明の後、入学式のため一年生は全員が第一体育館に集まった。ちなみに南女は体育館が二つあり、第一体育館では主にバレーボール部とバスケットボール部が、第二体育館では主にバドミントン部と卓球部が活動している。第一体育館の方が大きく、全校集会などでは主に第一体育館が使われる。

 ずらりと整列した一年生。みんなスーツ姿なものの、そこはまだ高校一年生。スーツを着なれている者はほとんどおらず、スーツを着ているというよりはスーツに着られているといった感じの生徒がほとんどだった。


 そんな中、一人完璧にスーツを着こなしている生徒がいた。
 外資系企業の営業が着ているような流行りのスーツを着たその生徒は、モデルのような長身にサラサラの綺麗なストレートパーマの長髪をなびかせ、ミニスカートから覗く脚も細長く美しい。
 周りの生徒が、「すごい綺麗」「モデルとかやってるのかな」などと小声で囁き合う。

 しかし、当の本人、成瀬玲(なるせれい)の気分は憂鬱だった。

「(まだ誰とも話せていない……)」

 玲は気合いを入れて登校したものの、クラスの隣の席の生徒が知り合いと話をするため席を立ってしまっていたため、挨拶する機会を失っていた。同じ中学の知り合いがいない玲にとって、隣の席の生徒というのは最初にして最大の友人になるチャンスだった。それを逃してしまったのだ。

「(周りから目を合わせないように避けられている気もするし。メイクおかしかったのかな……)」

 その逆だった。玲は、メイクも服装も完璧すぎていた。女子高特有の、話しかけづらい雰囲気な、高嶺の花状態となってしまっていたのだ。

「(ここで落ち込んでちゃダメだ。しっかりしよう)」

 そうして背筋を伸ばしてモデル立ちをすることで、益々話しかけづらいオーラを出してしまう玲だった。


 入学式が終わり、帰りに担任より軽い連絡が入り、初日は終了となった。

「入学式緊張したね」
「うん、スーツとかも着なれてないから肩がこっちゃった」

 配られた冊子をカバンにしまいながら、美空と佑香が話をする。

「えっと、みそらちゃん地下鉄だっけ?」
「うん、今日はそうだよ」
「じゃ駅まで一緒に帰ろうか」
「え、佑香ちゃん遠回りになったりしない?」
「大丈夫、方角は一緒だから、駅まで行っても十分が十五分になるだけだよ」

 駅までの短い道のりを、初日の感想など他愛のないことを話しながら帰っていく二人。

「みそらちゃん、明日からもよろしくね!」
「うん、こちらこそよろしく!」

 お互いに手を振りながら別れる佑香と美空。

          ★

 一方、玲は結局誰とも会話ができないまま初日を終えてしまっていた。
 帰り道、周りに南女の生徒がいなくなったのがわかると、途端にモデル歩きをやめてがっくりと肩を落とす。

「結局、誰とも話せなかった……」

 それでもまだ、華やかな高校デビューの夢を玲は諦めていなかった。

「自由な私服になるのは明日からだし、明日こそ気合いを入れ直していこう」

 残りの帰り道を、明日着ていく服装を考えながら歩いていく玲だった。
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