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第1章 プロローグ
プロローグ3 成瀬玲
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「なんだ地味子また塾かよ」
「じゃあなー地味子ぉ~」
ちょっとガラの悪い感じの男子生徒達が、一人の少女に野次を飛ばして帰っていく。
野次を受けていた少女は下を向いて俯いたまま動かない。
「成瀬さん、あんな奴らの言葉真に受けちゃダメだよ」
「うんうん、あいつら玲ちゃんみたいに頭良くないから嫉妬してるだけだって」
「ありがとう、香川さん、工藤さん」
友人達から声を掛けられて、やっと少女、成瀬玲(なるせれい)は顔を上げる。
玲は長い髪を三つ編みにして、黒縁の眼鏡をかけていた。制服も、ズボンを腰の部分で折ったりせず、「標準服」の状態のまま着ていた。背は高いのだが隠れるように猫背な姿勢で、整った容姿はしているものの表情は常にどこか自信無さげで、その醸し出す雰囲気から「地味子」と呼ばれても仕方のない外見だった。
「じゃ成瀬さんさようなら」
「香川さん、さようなら」
友人と別れて一人帰路に着く玲。玲も友人がいないわけではなかったが、類は友を呼ぶということで、仲の良い子達はみんな真面目だった。そのため、帰りに寄り道をして買い食いをすることなど三年間の中学生活で一度も無かった。家に着いた玲は、着替えることなく制服のまま塾へと向かう。
★
「あ、あった私の番号……」
札幌南女子高校の合格発表日。
玲は、合格者の番号一覧に自分の番号があったのを見つけた。
玲の中学校はあまり成績が良くないため、学年で毎年一、二名しか南女に合格できていなかった。なので、学年トップの成績だった玲でも、合格できるかは不安だった。
合格発表からの帰り道、玲は自分の周りで合格したとはしゃいでいた女子達の姿を思い出していた。
「みんなおしゃれで可愛かったな。南女は私服の学校だしきっとみんな私服もおしゃれなんだろうな……」
そう思うと、せっかく合格したのに、途端に気分が重くなる。
玲の中での女子高生は、学校帰りに友人数人で街へ行ってスイーツを食べながらおしゃべりをするというイメージだった。
このままでは、高校でも大人しい人としか仲良くなれず、帰りは一人で真っ直ぐ帰るだけの生活になる。
そう思った玲は、一大決心をする。
「高校生デビュー」をしよう、と。
今時、高校生デビューも何も無いだろうと自分でも思った玲だったが、幸い南女には同じ中学からは自分しか合格していない。誰に見られるわけでもないので、やるなら今しか無かった。
それからの玲の行動は早かった。
まずはファッション雑誌を見ながら、服装について勉強を始めた。眼鏡はコンタクトに換え、真っ黒の長髪にはストレートパーマをかけた。アイラインも綺麗に描けるように毎日練習をした。
ちょっと猫背気味だった立ち方も、しっかりと背筋を伸ばして立って、歩き方もモデル歩きを練習した。
「(あとは何か入学までにやっておけることはないかな……)」
玲は送られてきた「入学のしおり」を見ていた。
「そうか、初日の入学式から私服なんだ」
そうつぶやくと、ネットで南女の入学式について検索する。検索結果では玲と同じような新入生と思われる子が「札幌南女子高校の入学式では皆さんどんな服装をしていますか?」といった質問をしていた。
その回答は「皆さんスーツの上下がほとんどです。ブレザーの人は少数です」というものだった。
「(スーツか。まず最初にここで残念な服装になったら高校生デビューに失敗しちゃう。気合を入れないと)」
玲は、流行のスーツについてネットで調べ始めた。
そして入学式前夜。
ひとしきりメイクとスーツを着て予行練習を終えた玲が、メイクを落としてベッドに入る。
「(友達できるといいな……。学校帰りにスイーツとか食べたいな……)」
そう考えているうちに玲は深い眠りについた。
「じゃあなー地味子ぉ~」
ちょっとガラの悪い感じの男子生徒達が、一人の少女に野次を飛ばして帰っていく。
野次を受けていた少女は下を向いて俯いたまま動かない。
「成瀬さん、あんな奴らの言葉真に受けちゃダメだよ」
「うんうん、あいつら玲ちゃんみたいに頭良くないから嫉妬してるだけだって」
「ありがとう、香川さん、工藤さん」
友人達から声を掛けられて、やっと少女、成瀬玲(なるせれい)は顔を上げる。
玲は長い髪を三つ編みにして、黒縁の眼鏡をかけていた。制服も、ズボンを腰の部分で折ったりせず、「標準服」の状態のまま着ていた。背は高いのだが隠れるように猫背な姿勢で、整った容姿はしているものの表情は常にどこか自信無さげで、その醸し出す雰囲気から「地味子」と呼ばれても仕方のない外見だった。
「じゃ成瀬さんさようなら」
「香川さん、さようなら」
友人と別れて一人帰路に着く玲。玲も友人がいないわけではなかったが、類は友を呼ぶということで、仲の良い子達はみんな真面目だった。そのため、帰りに寄り道をして買い食いをすることなど三年間の中学生活で一度も無かった。家に着いた玲は、着替えることなく制服のまま塾へと向かう。
★
「あ、あった私の番号……」
札幌南女子高校の合格発表日。
玲は、合格者の番号一覧に自分の番号があったのを見つけた。
玲の中学校はあまり成績が良くないため、学年で毎年一、二名しか南女に合格できていなかった。なので、学年トップの成績だった玲でも、合格できるかは不安だった。
合格発表からの帰り道、玲は自分の周りで合格したとはしゃいでいた女子達の姿を思い出していた。
「みんなおしゃれで可愛かったな。南女は私服の学校だしきっとみんな私服もおしゃれなんだろうな……」
そう思うと、せっかく合格したのに、途端に気分が重くなる。
玲の中での女子高生は、学校帰りに友人数人で街へ行ってスイーツを食べながらおしゃべりをするというイメージだった。
このままでは、高校でも大人しい人としか仲良くなれず、帰りは一人で真っ直ぐ帰るだけの生活になる。
そう思った玲は、一大決心をする。
「高校生デビュー」をしよう、と。
今時、高校生デビューも何も無いだろうと自分でも思った玲だったが、幸い南女には同じ中学からは自分しか合格していない。誰に見られるわけでもないので、やるなら今しか無かった。
それからの玲の行動は早かった。
まずはファッション雑誌を見ながら、服装について勉強を始めた。眼鏡はコンタクトに換え、真っ黒の長髪にはストレートパーマをかけた。アイラインも綺麗に描けるように毎日練習をした。
ちょっと猫背気味だった立ち方も、しっかりと背筋を伸ばして立って、歩き方もモデル歩きを練習した。
「(あとは何か入学までにやっておけることはないかな……)」
玲は送られてきた「入学のしおり」を見ていた。
「そうか、初日の入学式から私服なんだ」
そうつぶやくと、ネットで南女の入学式について検索する。検索結果では玲と同じような新入生と思われる子が「札幌南女子高校の入学式では皆さんどんな服装をしていますか?」といった質問をしていた。
その回答は「皆さんスーツの上下がほとんどです。ブレザーの人は少数です」というものだった。
「(スーツか。まず最初にここで残念な服装になったら高校生デビューに失敗しちゃう。気合を入れないと)」
玲は、流行のスーツについてネットで調べ始めた。
そして入学式前夜。
ひとしきりメイクとスーツを着て予行練習を終えた玲が、メイクを落としてベッドに入る。
「(友達できるといいな……。学校帰りにスイーツとか食べたいな……)」
そう考えているうちに玲は深い眠りについた。
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