ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

文字の大きさ
上 下
4 / 38
第1章 プロローグ

プロローグ3 成瀬玲

しおりを挟む
「なんだ地味子また塾かよ」
「じゃあなー地味子ぉ~」

 ちょっとガラの悪い感じの男子生徒達が、一人の少女に野次を飛ばして帰っていく。
 野次を受けていた少女は下を向いて俯いたまま動かない。

「成瀬さん、あんな奴らの言葉真に受けちゃダメだよ」
「うんうん、あいつら玲ちゃんみたいに頭良くないから嫉妬してるだけだって」
「ありがとう、香川さん、工藤さん」

 友人達から声を掛けられて、やっと少女、成瀬玲(なるせれい)は顔を上げる。
 玲は長い髪を三つ編みにして、黒縁の眼鏡をかけていた。制服も、ズボンを腰の部分で折ったりせず、「標準服」の状態のまま着ていた。背は高いのだが隠れるように猫背な姿勢で、整った容姿はしているものの表情は常にどこか自信無さげで、その醸し出す雰囲気から「地味子」と呼ばれても仕方のない外見だった。

「じゃ成瀬さんさようなら」
「香川さん、さようなら」

 友人と別れて一人帰路に着く玲。玲も友人がいないわけではなかったが、類は友を呼ぶということで、仲の良い子達はみんな真面目だった。そのため、帰りに寄り道をして買い食いをすることなど三年間の中学生活で一度も無かった。家に着いた玲は、着替えることなく制服のまま塾へと向かう。

          ★

「あ、あった私の番号……」

 札幌南女子高校の合格発表日。
 玲は、合格者の番号一覧に自分の番号があったのを見つけた。
 玲の中学校はあまり成績が良くないため、学年で毎年一、二名しか南女に合格できていなかった。なので、学年トップの成績だった玲でも、合格できるかは不安だった。

 合格発表からの帰り道、玲は自分の周りで合格したとはしゃいでいた女子達の姿を思い出していた。

「みんなおしゃれで可愛かったな。南女は私服の学校だしきっとみんな私服もおしゃれなんだろうな……」

 そう思うと、せっかく合格したのに、途端に気分が重くなる。
 玲の中での女子高生は、学校帰りに友人数人で街へ行ってスイーツを食べながらおしゃべりをするというイメージだった。
 このままでは、高校でも大人しい人としか仲良くなれず、帰りは一人で真っ直ぐ帰るだけの生活になる。


 そう思った玲は、一大決心をする。
 「高校生デビュー」をしよう、と。
 今時、高校生デビューも何も無いだろうと自分でも思った玲だったが、幸い南女には同じ中学からは自分しか合格していない。誰に見られるわけでもないので、やるなら今しか無かった。

 それからの玲の行動は早かった。
 まずはファッション雑誌を見ながら、服装について勉強を始めた。眼鏡はコンタクトに換え、真っ黒の長髪にはストレートパーマをかけた。アイラインも綺麗に描けるように毎日練習をした。
 ちょっと猫背気味だった立ち方も、しっかりと背筋を伸ばして立って、歩き方もモデル歩きを練習した。

「(あとは何か入学までにやっておけることはないかな……)」

 玲は送られてきた「入学のしおり」を見ていた。

「そうか、初日の入学式から私服なんだ」

 そうつぶやくと、ネットで南女の入学式について検索する。検索結果では玲と同じような新入生と思われる子が「札幌南女子高校の入学式では皆さんどんな服装をしていますか?」といった質問をしていた。
 その回答は「皆さんスーツの上下がほとんどです。ブレザーの人は少数です」というものだった。

「(スーツか。まず最初にここで残念な服装になったら高校生デビューに失敗しちゃう。気合を入れないと)」

 玲は、流行のスーツについてネットで調べ始めた。


 そして入学式前夜。
 ひとしきりメイクとスーツを着て予行練習を終えた玲が、メイクを落としてベッドに入る。

「(友達できるといいな……。学校帰りにスイーツとか食べたいな……)」

 そう考えているうちに玲は深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...