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第1章 プロローグ
プロローグ2 柿木佑香
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じっと部屋に置かれているPCのモニタを見つめる少女。くりっとした目に、後ろでくるっとまとめたショート・ポニーテールが快活な印象を与える。
少女が見つめる画面には、『第十二回 丸川社イラストコンテスト一次通過者』という文字が映っていた。
「ゆうか、ゆうか……、やっぱりダメかぁ~」
通過者一覧の中に、自分のペンネームである『ゆうか』が無かったと知った少女、柿木佑香(かきのきゆうか)はがっくりと肩を落とす。
「やっぱりわたし絵の才能無いのかなぁ……」
佑香は、子供の頃から漫画やアニメが大好きだった。その方面の道へ進みたいため、高校受験を一般高校ではなく美術科のある高校を受けたいと親に告げた佑香だったが、安定を望む両親に反対され、大喧嘩の結果、絵の賞に入ることができたら美術科を受けても良いということになった。
しかし、美術部に入っていたわけでもない佑香が絵の賞を取れるわけもなく、結局は一般の高校を受験することになった。
幸い、佑香の成績は良かったので、地元の進学校、札幌南女子高校に合格することはできたが、それでも漫画アニメの道を捨てられない佑香は、親に内緒でネット上の色々なイラストコンテストに応募をしていた。
しかし、結果は全敗。
佑香は真面目に南女での高校生活について考える時がきていた。
「南女かぁ。なんとか合格したけど、勉強ついていけるか不安だなぁ」
そうつぶやきながら、合格後に送られてきた『入学のしおり』を読む。
「部活もどうしようかなぁ」
入学のしおりには、部活動の一覧と、最近の活動成績が載っている。
「バド部は去年北海道大会ベスト四か。市大会にも出られないわたしじゃたぶんレギュラーは無理だろうなぁ」
佑香は中学時代はバドミントン部に所属していた。運動神経も良い方で、副主将を務めながら区大会でベスト八までは残ったものの、ベスト四以上の選手だけが進める市大会には出ることができなかった。なので、市大会の上位である道大会でベスト四という強豪校の南女ではレギュラーになるのは難しいと佑香は思った。
「はぁ~」
大きくため息をつく佑香。PCのある机から離れてベッドに横になると、うつぶせになって顎だけちょこんとマクラの上に乗せる。
佑香の悩みだった。
絵も、描いたことのない友達からは上手いと言われた。勉強もできる方だとは周りから言われ、実際南女に合格はできた。バドミントンも自分の中学の中では一番良い成績だった。
でも、これなら誰にも負けない、どこへ行っても誇れるという何かが佑香にはなかった。「器用貧乏」という言葉がこれほど当てはまる人間は自分以外にいないだろうと佑香は自嘲する。
傍から見ればぜいたくな悩みなのだが、「なんでも七十点」というのが佑香本人の中ではある種のコンプレックスに近い悩みになっていた。
気を取り直して、しおりの部活動の欄を眺め続ける。
「あ、女子空手部インターハイ(全国大会)出場だって。空手なら高校から始める人多そうだから私でもいけるかな。でもやっぱりインターハイ出場ってことは子供の頃から習ってる人達ばっかりなのかなぁ」
誇れる何かを見つけたくても、絵でも勉強でもスポーツでも、すでにこれまで小学校中学校と積み上げられてきた経験と実力があった。たとえばバレーボール部に入ったからといって、小中学とバレー部だった子に敵うはずがない。その思いが、佑香の悩みを深くする。
「(高校に入ったら見つかるかな。わたしが夢中になれる、自信が持てるようになる『何か』を……)」
明日の入学式を前に、色々と考えてしまい佑香は中々寝付くことができなかった。
少女が見つめる画面には、『第十二回 丸川社イラストコンテスト一次通過者』という文字が映っていた。
「ゆうか、ゆうか……、やっぱりダメかぁ~」
通過者一覧の中に、自分のペンネームである『ゆうか』が無かったと知った少女、柿木佑香(かきのきゆうか)はがっくりと肩を落とす。
「やっぱりわたし絵の才能無いのかなぁ……」
佑香は、子供の頃から漫画やアニメが大好きだった。その方面の道へ進みたいため、高校受験を一般高校ではなく美術科のある高校を受けたいと親に告げた佑香だったが、安定を望む両親に反対され、大喧嘩の結果、絵の賞に入ることができたら美術科を受けても良いということになった。
しかし、美術部に入っていたわけでもない佑香が絵の賞を取れるわけもなく、結局は一般の高校を受験することになった。
幸い、佑香の成績は良かったので、地元の進学校、札幌南女子高校に合格することはできたが、それでも漫画アニメの道を捨てられない佑香は、親に内緒でネット上の色々なイラストコンテストに応募をしていた。
しかし、結果は全敗。
佑香は真面目に南女での高校生活について考える時がきていた。
「南女かぁ。なんとか合格したけど、勉強ついていけるか不安だなぁ」
そうつぶやきながら、合格後に送られてきた『入学のしおり』を読む。
「部活もどうしようかなぁ」
入学のしおりには、部活動の一覧と、最近の活動成績が載っている。
「バド部は去年北海道大会ベスト四か。市大会にも出られないわたしじゃたぶんレギュラーは無理だろうなぁ」
佑香は中学時代はバドミントン部に所属していた。運動神経も良い方で、副主将を務めながら区大会でベスト八までは残ったものの、ベスト四以上の選手だけが進める市大会には出ることができなかった。なので、市大会の上位である道大会でベスト四という強豪校の南女ではレギュラーになるのは難しいと佑香は思った。
「はぁ~」
大きくため息をつく佑香。PCのある机から離れてベッドに横になると、うつぶせになって顎だけちょこんとマクラの上に乗せる。
佑香の悩みだった。
絵も、描いたことのない友達からは上手いと言われた。勉強もできる方だとは周りから言われ、実際南女に合格はできた。バドミントンも自分の中学の中では一番良い成績だった。
でも、これなら誰にも負けない、どこへ行っても誇れるという何かが佑香にはなかった。「器用貧乏」という言葉がこれほど当てはまる人間は自分以外にいないだろうと佑香は自嘲する。
傍から見ればぜいたくな悩みなのだが、「なんでも七十点」というのが佑香本人の中ではある種のコンプレックスに近い悩みになっていた。
気を取り直して、しおりの部活動の欄を眺め続ける。
「あ、女子空手部インターハイ(全国大会)出場だって。空手なら高校から始める人多そうだから私でもいけるかな。でもやっぱりインターハイ出場ってことは子供の頃から習ってる人達ばっかりなのかなぁ」
誇れる何かを見つけたくても、絵でも勉強でもスポーツでも、すでにこれまで小学校中学校と積み上げられてきた経験と実力があった。たとえばバレーボール部に入ったからといって、小中学とバレー部だった子に敵うはずがない。その思いが、佑香の悩みを深くする。
「(高校に入ったら見つかるかな。わたしが夢中になれる、自信が持てるようになる『何か』を……)」
明日の入学式を前に、色々と考えてしまい佑香は中々寝付くことができなかった。
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