はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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8章 全道大会と、新たな強豪

050話 偵察と、反芻と ①

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SIDE:YUNO

「本当はわざわざライバルに教えたくはないけど、まぁ絵東とはもうシングルスで戦うことはないしね。留萌中央のベンチ見て」

 絵東先輩へ話すマリ女キャプテンの妙高さん。私も一緒になって左側の留萌中央高校のベンチを見る。二つのコートに選手が一人ずつ。もしかしてうちのように四人ギリギリで団体戦を組んでいるのだろうか。 
 そして、選手の他にもう一人、コーチがベンチに入っていた。気のせいだろうか、コーチの男性を見たことがあるような気がする。

「あれ、松尾さん!?」
「そう、元全日本王者の松尾重文さん。今年から留萌中央のコーチをしているわ」

 先輩の驚いた声に妙高さんが答える。
 私も、女子の試合ほど頻繁ではなくても、卓球選手をやっている以上、男子の試合も全日本選手権くらいは見ている。松尾さんはちょうど私が卓球を始めた小学校くらいの頃の全日本チャンピオンだった人だ。

「留萌市が、健康促進事業だかで卓球メーカーとまちづくり協定を結んだの。で、所属の松尾さんがコーチで来たわけ」
「なる」

 軽い口調で話しながらも、妙高さんの試合を見る眼は真剣そのものだ。

「一年生四人だし、ウチとは逆の山だからと思ってたけど、もしかするとあるわね」

 妙高さんの「ある」というのは、団体戦で逆の山、ブロックの留萌中央が勝ち進んで決勝に来る可能性ということだろうか。逆の山には第一シードのホクセンこと北川高校がいる。妙高さんのつぶやきに先輩が返す。


「奥のコートは圧倒してるしね。いくら琴商が真子ちゃんのワンマンチームっていっても奥の竹内さんも弱いわけじゃない」

 奥のコート、次鋒戦は留萌中央の選手がゲームカウント2-0でリードし三ゲーム目も7-2と圧倒していた。

「私としては、ここのダブルスが同じ山で当たる可能性があるわけだ。ダブルス終わりまで居させてもらうよ」
「好きにして。どうせなら私も絵東の話聞きながら見たいわ。刈屋、席変わってもらえる?」
「あ、はい!」


 妙高さんが絵東先輩の隣に座り、代わりに刈屋さんが私の隣にやって来た。

「ねえ、……えっと名前何だっけ」
「鈴原です。鈴原柚乃」
「ねえ鈴原。私相手に一セットも取れなかった選手が高校入って二か月であんなに打てると思う?」

 刈屋さんが手に持ったラバークリーナーの缶を留萌の根岸さんの方へ向ける。

「団体戦で刈屋さんが戦ったうちの工藤、あの子卓球始めて二か月です」
「工藤は突然変異よアイツ! 大体、個人戦あっさり負けてるし」

 たしかに美夏が刈屋さん相手に善戦できたのは刈屋さんがあえて美夏の弱点を突いてこなかったからだ。目の前の試合は本気の真剣勝負。しかも、妙高さんと稔里ちゃんの試合とかそういうレベルだ。

「高速ラリーは男子で全日本チャンピオンだった松尾さんがコーチでしてたら相当鍛えられるんじゃないでしょうか。私もこの前一日だけ臨時コーチしてもらったんですけど、それ以来ラリーがゆっくり感じられるようになったというか」
「へー、山花って普通の公立校よね? 臨時コーチなんて呼べるの」
「あ、顧問の知り合いがたまたま一日来たっていう感じのです」


 藤堂さんのことはもちろん言ってはダメなのでウソはつかない程度に話を濁す。

「コーチでそんなに変わる、か。たしかに中学の実績ならホクセンよりウチの方が断然上のはずだし。……ねえ、鈴原アンタわかってる?」
「え?」
「え、じゃなくて。留萌中央全員一年っていうことはアタシらが三年になるまでずっとあの四人が敵になるってことよ」

 言われて初めて気付いた。他の高校は今大会で三年生が、来年は二年生が卒業していくが、留萌中央は元全日本王者のコーチに鍛えられたまま今のメンバーが三年間どんどん強くなっていくのだ。

「そっちは有栖川だろうけど、うちはアタシがエースになる。あの根岸って子に勝つために練習しないと」

 私も、このままだと新チームではチーム二番手になる。せめて奥の選手には互角に渡り合えないといけない。
 お互い真剣に試合を見ながら。刈屋さんが声だけ掛けてくる。


「ねえ、コーチの一存だから私に権限はないけど、夏以降うちと練習試合組みなさいよね。有栖川とやりたいし、工藤となら根岸の高速ラリーの練習にもある。あと、鈴原のカットには単純に興味があるわ」
「はい、もちろんうちもマリ女と試合できるなんて大歓迎です。こちらも私に権限は何もないですけど」

 この話題は特にこれ以上膨らまないようなので、試合に集中する。二ゲーム目の中盤になって、琴似商業の清水さんが少し下がって対角線上のパワードライブを多用するようになってきた。
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