はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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3章 インターハイ予選へ向けて

019話 試合前夜と、約束と ②

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***

『ごめんミカ、今まで家族でご飯食べてた』
『ん、メッセ送ってからそいえば夕飯の時間だなって』

 帰宅後、夜。
 私は美夏と通話をしていた。
 稔里ちゃんも誘ったのだが、試合前日の夜はやることがあるということだった。稔里ちゃんくらいになると練習以外にも色々と試合前のルーティンがあるのかもしれない。

『どう試合前は? ってミカの方が私よりも色んな大会に出てるか』
『うーん、実は個人の対人競技って初めてなんだよね』
『ん、どういうこと?』
『バレーとかバスケとかは団体競技でしょ。陸上とかスキーは個人だけど記録を出す競技。個人で相手がいる競技で試合に出るのって卓球が初めてなんだ』

 なるほど。言われてみればよく個人競技と団体競技なんて比較は耳にするが、個人競技でも記録を出す競技と相手と戦う競技に分かれるのか。

『それぞれで試合前の気持ちが変わるんだ』
『うん。どっちかというとバスケバレーに近い感覚かな。相手の動きを頭の中でシミュレーションする。陸上とかだとシミュレーションというより身体の感覚を研ぎ澄ましていく感じ。うーん、うまく伝わってるかなぁ』
『大丈夫だよ』

 そもそも色んなスポーツで試合前を経験してきている美夏と卓球しか知らない私では美夏の方が大先輩だ。

『私トーナメント表が気になって眠れないかも』
『前原センセ言ってたもんね、何時に更新されるかわからないから気にするな、って』

 大会のトーナメント表は、試合当日の朝にホームページ上で発表されるが、何時と決まっているわけではないらしい。

『でもゆのは何があってもしっかり眠れるっしょ』
『これは私の特技かもね』

 遠足の前日、運動会の前日、試験の前日。どんなに楽しみなことや緊張することがあっても、その前日は普通に眠くなって普段通りに眠れる。体調管理という意味では特技と言ってもいいかもしれない。そんなに神経が図太いつもりはないのだけれど。

『わたしは楽しみすぎるよ。ゆのと同じユニフォーム着て戦う、初めての日なんだから』
『この前の練習試合の時は?』
『実はめっちゃドキドキしてた! 明日は公式戦だから絶対ヤバい!』

 美夏を卓球部に誘ったときのことを思い出す。まだあれから二か月も経っていないが、随分と遠い過去のように思える。
 私は照れ隠しも込めて答える。

『私はいつも、試合前は大活躍するミカを送り出すだけだったから、自分が引っ張るっていうのが不思議な感覚。なんてね、明日も美夏の方が大活躍だったりして』
『そんなことない!』

 スマホ越しの大声にびっくりする。

『ゆのはパイセンやみのりんが苦戦する強敵相手にバシって決めるって、わたし信じてるから』
『ミカ……』

 うん、大丈夫。今の言葉で明日は絶対に実力以上の力が出せる。
 ベッドの中で軽く武者震いをする。

『よし、じゃ明日大活躍するためにもそろそろ寝る準備するかね』
『うぃ。明日はゆのん家迎えに行くよ』
『オッケー。じゃおやすみ』
『おやすー』

 通話を切る。
 寝る準備の前に、昨年度の女子団体戦のトーナメント表を見る。
 

 全部で二十四校。四強を外すと二十校。二回戦で四強と当たる一回戦を戦うのは八校。
 二十分の八。もちろん去年と出場校数は変わるだろうが、実はほぼ半分の確率で二回戦は四強のシード校と当たる計算だ。

 だからといって今更自分にできることは何もない。
 一通りの準備を終えると、枕元の電気を消す。ほどなくして私は順調に眠りについた。
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