稚拙図書館

織賀光希

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楽しめない15分間

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【乗車から0分】
彼女と久し振りに、遊園地の観覧車に乗ったのに、扉が閉められるのとほぼ同時くらいに彼女が、観覧車に乗っている間に私の好きなところ100個言って、みたいなことを言ってきて、まあまあ楽しかった遊園地での出来事が、一瞬で消え去ってしまっていた。

【乗車から2分】
彼女の好きなところを100個言えなかったら、たぶん無傷のままでは帰れないと思うので、とりあえず顔を褒めることに決めて、ほんのちょっと駄目なやり方かもしれないが、右目の黒目が可愛いとか、左目の白目が綺麗のように、顔のパーツを細分化して、褒めていった。

【乗車から4分】
可愛いという言葉を、主に使って顔を褒めてきたが、顔だけを褒めていることを彼女に注意されて、18個言ったところで、少し止まってしまっていて、全身に目を向けてはみたものの、褒めるに値しないものしか目には入らず、失敗の二文字と悪夢の二文字が、頭を突っ切る。

【乗車から7分】
なんとか、彼女の好きなところを、合わせて30個は言うことが出来て、頂上付近に差し掛かった今、せっかく観覧車に乗っているのだから頂上付近でキスをしたいな、という欲望が苦痛よりも高くなってきて、キスが上手いとか、キス関連のことを、急に褒め出してしまっていた。

【乗車から10分】
キス関連の褒め言葉で数を稼いで、合計80個も彼女の好きなところを言ったが、褒めるところが外見のことしか思い浮かばない自分がいて、外見といってもほぼ、顔しか褒めていない自分がいて、内面に目を向けようとはしたものの思い付かず、彼女とのキスも彼女を褒める作業も、足踏みしてしまっていた。

【乗車から13分】
嘘はついていけない、嘘はついていけないと心の中で、何度も何度も繰り返していたのに、90個から一向に進まず、黙ってしまっていることにイライラして、怒鳴ってきた彼女に、いつも優しいところが好きだと言ってしまい、余計に気まずい空気になっていて、これは100個言えても言えなくても、ボッコボコになるかもと、怖くなってきた。

【乗車から15分】
あなたのすべてが大好きだ、という100個目の答えにより、彼女の好きなところを100個言う、というチャレンジは成功して、ホッとして観覧車を降りると、彼女は優しい顔で、頂上ではしてくれなかったキ
スを、100個言えたご褒美として、優しくそっと唇にくれた。
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