ひとのかたち

織賀光希

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22のかたち

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「ミカちゃんは、お人形さんが好きなの?」
「分かんない」
「ミカちゃんは、お人形さんになりたいんだよね?」
「分かんない」
「そっか」
 友達が家に来てから、急激に娘の人間としての機能が、失われているような感覚があった。分かんない、という便利な言葉を連発して、リオさんの問いかけをかわしていく。そんな娘に、呼吸が荒くなった。

 リオさんの、しっかりと通る声が、ただ響くだけ。次第に娘は、返事さえもしなくなった。首振り人形よりも、僅かに大きな縦の首振りを、ただ行うことのみになっていた。
 人形化は、目に見える情報だけでも、しっかりと確認出来る。娘は、遂に動きまで止めた。その姿は、お人形さんそのものだった。

 それでも、まだ最終形には、到達していない。でも、到達するのも、時間の問題かもしれない。
 知能という、生き物の中心に存在するものが、まだ残っている。娘から知能まで奪われたら、もう悲しみの類いしか残らない。
 知能まで綺麗サッパリ、消滅してしまった。その時は、僕の知能も、真っ白に澄み渡ることだろう。

 今の僕は妻と、昔みたいに普通に、喋れている気がする。
 あの、愛情を与えることを最優先していた時代。あの、思っていることが、素直に口から漏れていた時代。
 それらを、今回のことで思い出した。今はあの時のように、普通に喋れていることは事実だ。

 娘という、当たり前にある幸せ。それを拒む、人形化という普通ではない状況。それが、僕たち夫婦の普通を、後押ししてくれていたのだろう。
 複雑に絡み合った世界では、それらも心の潤いの足しには、僅かしかならない。
「娘さんの隣にいる、人形の仕業じゃない?」
 少しの間、止まっていた友達の口が、小さいながらも素早く動く。
 音量は、それほど感じられなかった。でも、ずっしりと重いものだった。何よりも、深く深く染み込むように、全てのものに溶けていった。

 僕も、何度も何度も、お人形さんたちを疑ってはいた。だが、証拠なんて、ひとつも見つからなかった。欠片さえも、何ひとつ見つけることが出来なかった。
 僕は、悔しさをぶつけるように、お人形さんたちに視線を送る。望みにすがるように、視線を送る。
 吸い込まれるように、お人形さんたちの瞳を見つめていた。妻の瞳も、妻の友達の瞳も、僕の瞳も。

 ずっと、見つめていた。すると、娘の隣にいる、グリーンのパッツン前髪。大きすぎるグリーンのおめめ。そして、頭でっかちなミドリちゃんが、少し動いたような気がした。
 改めてじっくり見つめてみると、ミドリちゃんは、うっすらと不気味な笑いを浮かべていた。
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