ひとのかたち

織賀光希

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21のかたち

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 静寂に現れた玄関チャイムの力強さが、場を荒らす。耳に溜まった不安を、押し流すように、綺麗に鳴り響いた。鳴り止まないうちに2、3度押されたせいか、滑らかさが、躓きながら響き渡った。
 脳から身体全体に、考えを巡らせながら、細長いドアノブに手を掛ける。そして、リビングから玄関へ通じる扉を、身体ごと押した。流れるような、自然に任せた力では、開くことのない扉を。

 ダンッと、力が解放される音が鳴る。開くとそこには、ゆらゆらと黄色い光が揺れていた。
 玄関の段差に足を伸ばし、下にあるスニーカーに慎重に収めていく。かかとが潰れたままのスニーカーに、つま先だけをヒョイっと差し入れる。玄関扉を横に引き、レールのガタガタという音を鳴り響かせた。

 そこには、見覚えのある凛々しさが突っ立っていた。それは、妻の友達であるリオさんだった。赤ちゃんも、泣き叫んでしまうような、目力を引っ提げて。いつもより強気に、リオさんは、突っ立っていた。
 目力とは対照的な、パステルカラーの柔らかな服装。手首を使った、こちらへの柔らかい手の振り。それらの優しさを、振り撒いたと思えば、躊躇の欠片もない、足の踏みしめを披露した。

 段差を登り、娘にはないハキハキとしたメリハリのある動きをする。ずかずかと、靴下を床に押し付けていった。
「こんばんは」
「こんばんは」
「ミカちゃん、久し振りだね」
「うん」
「すごく、大きくなったね」
「うん」
 娘もリオさんに身体を向けて、出迎えた。だが、いつものように駆け寄らず、距離を一定に保ったままだった。

 テンションのバロメーターも、言葉数も、振り切れることはなかった。少量を維持していた。
 リオさんが、ハスキーな声をいくら飛ばしても、娘は一度に、5文字以上発することはなかった。発する予感もなかった。
 友達も異変に気付いたらしく、眉や瞼や鼻先に、微動を表し始めた。目力も眉も、だんだん弱々しくなってゆく。
 急いで用意したスリッパに、足をすり減らしながら差し込む。重い扉を、いとも簡単に開け、リオさんは、床を打楽器のようにして進んでいった。

「何これ? リビングの隅が人形に占領されてる」
「最近になってどんどん増えて、この数になったんです」
「これ、全部ミカちゃんのもの?」
「はい。最近、お人形さんになりたいって言い始めたくらい、お人形さんにはまってしまって」
「そう」
 リオさんが以前、ここに来たときには、リビングの隅の床は完全に見えていた。
 スッキリとした印象を放ち、何のざわめきも起こらないほどだった。それが、いつの間にか姿を変えた。今では増え続けたお人形さん達に、目をチラつかされるまでに至っている。

 リビングに通じる扉を開いたときに、合う瞳は、ひとつも存在しなかった。お人形さん達は、どこか俯き加減で、そこに存在していた。
 リオさんの目力と同様に、力強かった足取りはよろめいてゆく。次第に体内から空気が抜けていくように、覇気が薄れていっているのが分かった。
 リオさんは、一旦後ずさりをしたが、娘としっかりと向き合ってくれていた。
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