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18のかたち
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「パパパパパパパパ!」
「パパを呼ぶときは、一回で十分だからね。どうした?」
「スゴいよ、スゴいよ。かわいいのが、いっぱいある」
「うん。そうだな」
「ママママママママ!」
「何?」
「どれか買ってもいい?」
「いいわよ」
なりきりグッズと題されたコーナーで、娘は瞳を輝かす。そして、肩から先を、優雅に舞わせる。
神秘性の集まりである、この国。この国にしては、ここだけ雰囲気が、薄い気がした。
ピンと立ったネコの耳。繊細さを持つ、真っ白な天使の羽根。色鮮やかなウイッグなどが、並んでいる。ウイッグという、細やかな線の集合体が並んでいる。
そのなかに、一際鮮やかで、くっきりとしたグリーンがある。そのグリーンが、僕の瞳を占領した。
緑の細い連なりを、見ただけでも身が震える。ゾッとした。考えただけでも、身の毛がよだつ。
グリーンのパッツン前髪。グリーンのまん丸おめめ。そんな、娘の仲間の中でも、奇抜さを発揮しているミドリちゃんを思い出させた。そんなウイッグだ。
娘の瞳の方向は、確実に、そのグリーンのウイッグに向いていた。家にいるお人形さんと、お揃いだから。そういう理由かどうかは、知らない。でも、興味を持っていることは、ほぼ間違いなかった。
このグリーンのウィッグが、興味を示した娘の瞳の奥で、果てないでほしい。そんなことを、少しの間、脳に浮かべた。そして、ぎゅっと拳を握った。
「ママ? このミドリのカツラ欲しい!」
「本当にこれでいいの?」
「うん。これがいいの」
「ミカは、本当に決めるのが早いわね」
「そうかな。なんか、呼ばれてる気がするんだよね」
買うものは、ひとつだけと提案した僕には、頼まなかった。娘は、迷わず妻にウイッグをねだる。
娘が、お人形さんに呼ばれているかも、と口走った場面があった。その時の僕は、大量の唾を飲み込んでいた。時間を空けずに、立て続けに二度も。
妻の頭の中に、ミドリちゃんのことが過っているのか。過っていないのか。そこは、分からない。でも、真っ直ぐな自然体な目をしていた。そして、素直に受け入れ、飲み込んでいた。
神秘の国を歩く、娘の頭上には、ミドリのウイッグが被せられていた。被っているというより、最初から身体の一部だったような、自然体を放っていた。
目の少し前を、娘がドシドシと力強く、堂々と歩く。常に視界には、娘が映っていた。それと同時に、視界には、娘を操っているような、グリーンのウイッグが常にいる。
硬い地面を蹴りながら、進んでいった。すると、感じる全ての柔らかさが、段々と薄れていった。
夢の国という、全く別の空間にいるはずだ。なのに、家の中を常に、意識せずにはいられなかった。
不安やストレスは身体を、思った以上に揺すぶってくる。負のものを、溜め込みたくない身体。それが、外へ外へと、要らないものを出そうとする。
お腹の下の方でも、キュッと締め付けるようなモヤモヤが、生まれ出していた。首を最大限に活用して、赤と青の人間のシルエットが、並んで描かれた看板を探す。
すると、あちらの方から迎えに来たかのように、大きな建物が現れた。目のすぐ先で、ドスンと待ち構えていた。
「パパを呼ぶときは、一回で十分だからね。どうした?」
「スゴいよ、スゴいよ。かわいいのが、いっぱいある」
「うん。そうだな」
「ママママママママ!」
「何?」
「どれか買ってもいい?」
「いいわよ」
なりきりグッズと題されたコーナーで、娘は瞳を輝かす。そして、肩から先を、優雅に舞わせる。
神秘性の集まりである、この国。この国にしては、ここだけ雰囲気が、薄い気がした。
ピンと立ったネコの耳。繊細さを持つ、真っ白な天使の羽根。色鮮やかなウイッグなどが、並んでいる。ウイッグという、細やかな線の集合体が並んでいる。
そのなかに、一際鮮やかで、くっきりとしたグリーンがある。そのグリーンが、僕の瞳を占領した。
緑の細い連なりを、見ただけでも身が震える。ゾッとした。考えただけでも、身の毛がよだつ。
グリーンのパッツン前髪。グリーンのまん丸おめめ。そんな、娘の仲間の中でも、奇抜さを発揮しているミドリちゃんを思い出させた。そんなウイッグだ。
娘の瞳の方向は、確実に、そのグリーンのウイッグに向いていた。家にいるお人形さんと、お揃いだから。そういう理由かどうかは、知らない。でも、興味を持っていることは、ほぼ間違いなかった。
このグリーンのウィッグが、興味を示した娘の瞳の奥で、果てないでほしい。そんなことを、少しの間、脳に浮かべた。そして、ぎゅっと拳を握った。
「ママ? このミドリのカツラ欲しい!」
「本当にこれでいいの?」
「うん。これがいいの」
「ミカは、本当に決めるのが早いわね」
「そうかな。なんか、呼ばれてる気がするんだよね」
買うものは、ひとつだけと提案した僕には、頼まなかった。娘は、迷わず妻にウイッグをねだる。
娘が、お人形さんに呼ばれているかも、と口走った場面があった。その時の僕は、大量の唾を飲み込んでいた。時間を空けずに、立て続けに二度も。
妻の頭の中に、ミドリちゃんのことが過っているのか。過っていないのか。そこは、分からない。でも、真っ直ぐな自然体な目をしていた。そして、素直に受け入れ、飲み込んでいた。
神秘の国を歩く、娘の頭上には、ミドリのウイッグが被せられていた。被っているというより、最初から身体の一部だったような、自然体を放っていた。
目の少し前を、娘がドシドシと力強く、堂々と歩く。常に視界には、娘が映っていた。それと同時に、視界には、娘を操っているような、グリーンのウイッグが常にいる。
硬い地面を蹴りながら、進んでいった。すると、感じる全ての柔らかさが、段々と薄れていった。
夢の国という、全く別の空間にいるはずだ。なのに、家の中を常に、意識せずにはいられなかった。
不安やストレスは身体を、思った以上に揺すぶってくる。負のものを、溜め込みたくない身体。それが、外へ外へと、要らないものを出そうとする。
お腹の下の方でも、キュッと締め付けるようなモヤモヤが、生まれ出していた。首を最大限に活用して、赤と青の人間のシルエットが、並んで描かれた看板を探す。
すると、あちらの方から迎えに来たかのように、大きな建物が現れた。目のすぐ先で、ドスンと待ち構えていた。
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