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14のかたち
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あれから、これといった悪い変化も、良い変化も起こらないままだ。テーマパーク内という、未来へ歩を進めていた。
地面には、長方形の物体が、敷き詰められている。辺りには、植物が溢れる。森の中のように、木がワサワサと生い茂る、街並みが広がっている。そして、城というより、キャッスルと呼ぶ方が相応しい建物。それが、多数存在していた。
そんな、異国のような、神聖な空間。それにより、娘の笑顔が映える。娘の笑い声が響く。僕の心の奥底は、他のお客さんに見透かされていないだろう。それならば、僕たち三人は、普通の幸せそうな家族。そう、大勢の目に映っていることだろう。
妻とは、まだ仲直りをした訳ではない。だから、空気は完全に元には戻っていない。夢の国だというのに、時折、現実が溢れ出す。だが、夢の国だけあって、柔らかな雰囲気は、ひしひしと感じる。
ほっぺをつねったら、ベッドの上で目を覚ますのではないか。そんな他愛もないことばかり、考えていた。
「ミカが、すごく楽しそうで良かったね」
「うん、そうだな。来て、本当に良かったよ」
「人形と、楽しそうに触れ合ってて、安心した。でもミカ、全然まばたきしてないわよね」
「うん。そうかもな」
「それが、どうも、喉の奥につかえてて」
「気にするな。今は、楽しむことだけを考えよう」
「でも、どんどんミカが、おかしくなってきてる気がして」
「夢の国なんだから、そういうことは忘れて」
「でも、明らかにおかしいもん」
「おかしくなってるのは、お前の方だよ。ミカは何も変わってない。ミカは、何も変わってないんだ。何にも」
妻との険悪は、落とそうとしても、まとわりつく。落ちない油汚れのように、常に僕たちに。妻との会話の種は、ほとんど娘のこと。妻の笑いの種も、ほとんど娘のこと。
妻の悲しみの種も、また娘のこと。そして、喧嘩の原因も、また娘のことだった。
娘の異変をきっかけに、妻との話は格段に増えた。しかし、どんなものよりも、わだかまりの方が遥かに多く感じた。
「パパ遅いよ。ママも早く早く」
「あっ、ごめんごめん」
「広いんだから、時間なくなるよ」
「ミカ、楽しい?」
「すごく楽しいよ。ママは?」
「ママも、すっごく楽しいよ」
「あっ、今度はリスのお人形さんがいるよ」
「ちょっと、ミカ走らないの!」
「パパもママも、全然楽しそうに見えないんだけど。夢の国なんだから、もっと楽しもうよ」
リスを、人間に近づけたような顔立ち。黒い鼻先に、メタボな体型。ピンクのスーツに身を包んだ姿。それらが、目に映った。
僕にとっては、心をそそる程のものでもない。決して、可愛いとは言えない。だが、娘の顔は綻んでいた。
外で、これほどにまで、積極性のある娘を見るのは、初めてかもしれない。相手が、お人形さんならば、娘は素直に、心を許すことが出来るのだろう。
地面には、長方形の物体が、敷き詰められている。辺りには、植物が溢れる。森の中のように、木がワサワサと生い茂る、街並みが広がっている。そして、城というより、キャッスルと呼ぶ方が相応しい建物。それが、多数存在していた。
そんな、異国のような、神聖な空間。それにより、娘の笑顔が映える。娘の笑い声が響く。僕の心の奥底は、他のお客さんに見透かされていないだろう。それならば、僕たち三人は、普通の幸せそうな家族。そう、大勢の目に映っていることだろう。
妻とは、まだ仲直りをした訳ではない。だから、空気は完全に元には戻っていない。夢の国だというのに、時折、現実が溢れ出す。だが、夢の国だけあって、柔らかな雰囲気は、ひしひしと感じる。
ほっぺをつねったら、ベッドの上で目を覚ますのではないか。そんな他愛もないことばかり、考えていた。
「ミカが、すごく楽しそうで良かったね」
「うん、そうだな。来て、本当に良かったよ」
「人形と、楽しそうに触れ合ってて、安心した。でもミカ、全然まばたきしてないわよね」
「うん。そうかもな」
「それが、どうも、喉の奥につかえてて」
「気にするな。今は、楽しむことだけを考えよう」
「でも、どんどんミカが、おかしくなってきてる気がして」
「夢の国なんだから、そういうことは忘れて」
「でも、明らかにおかしいもん」
「おかしくなってるのは、お前の方だよ。ミカは何も変わってない。ミカは、何も変わってないんだ。何にも」
妻との険悪は、落とそうとしても、まとわりつく。落ちない油汚れのように、常に僕たちに。妻との会話の種は、ほとんど娘のこと。妻の笑いの種も、ほとんど娘のこと。
妻の悲しみの種も、また娘のこと。そして、喧嘩の原因も、また娘のことだった。
娘の異変をきっかけに、妻との話は格段に増えた。しかし、どんなものよりも、わだかまりの方が遥かに多く感じた。
「パパ遅いよ。ママも早く早く」
「あっ、ごめんごめん」
「広いんだから、時間なくなるよ」
「ミカ、楽しい?」
「すごく楽しいよ。ママは?」
「ママも、すっごく楽しいよ」
「あっ、今度はリスのお人形さんがいるよ」
「ちょっと、ミカ走らないの!」
「パパもママも、全然楽しそうに見えないんだけど。夢の国なんだから、もっと楽しもうよ」
リスを、人間に近づけたような顔立ち。黒い鼻先に、メタボな体型。ピンクのスーツに身を包んだ姿。それらが、目に映った。
僕にとっては、心をそそる程のものでもない。決して、可愛いとは言えない。だが、娘の顔は綻んでいた。
外で、これほどにまで、積極性のある娘を見るのは、初めてかもしれない。相手が、お人形さんならば、娘は素直に、心を許すことが出来るのだろう。
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