機能しない現実

ダイナマイト山村

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計画の残滓1

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 「あれがベストマン」



新人のマークはしり込みする。



「そうだ。気をつけろ」



ケリーが促す。



「そう言われてもねぇ」



ダンが苦笑する。



それは人の姿形をしている。



しかし神。いや、神に近しい存在。人造神の一柱。







 ベストマン計画。



人類が種として推し進めてきた計画の一つである。



人が産まれ、生きて、死ぬ。



その過程で様々な外的要因や内的要因を必要とすることに着目し、その克服をめざす国際的なプロジェクトだった。



有史以来、あらゆる宗教や組織はこのプロジェクトを祖としていた。







 生物として完全に独立し、半永久的に生きて行ける道を模索した。



とりわけAI研究は計画内で人間の脳の解明そしてその再現のために発展した分野である。



他にも医療やスポーツ科学をはじめ、心理学など精神的な分野まで影響は及んでいた。



プロジェクトの存在自体は一般的に公表されていないが、トップシークレットというわけではなく、各国の大学をはじめとした研究機関に従事しているものなら皆が知っているようなものだった。



また、一般人も具体的なプロジェクトの存在は知らずとも、漠然と理解していた。



学問は人が人として理解を深め、発展するためにある。



進化した人類像、それはつまり「ベストマン」そのものであった。







 隊長のジョンは腹部を両断され上半身と下半身に分かれて絶命した。



6人いたメンバーが残り2人なっている。



「ミルコ。いいか、あれは人ではない。通常弾の発砲は無意味だ」



平静を装いながら明らかに声が高い。動揺している。



「ならどうする。唯一の対抗手段、特殊弾は隊長が装填していた」



ミルコは意外に冷静な自分に嫌気がさしながら続ける。



「で、われらの希望が詰まったMP5を握り締めたまま上半身だけであそこに寝てる」



ジョシュアは頭を抱える。ミルコはさらに続ける。



「OK。頭抱える意味はない。誰かがあれを取ってくるしかない。で、ここには俺とお前しかいない。俺が行くか。お前が行くか。全滅するか」







 「チェストォッ」



ミルコとジョシュアは顔を見合わせる。ジョシュアは首を振る。そんなことはわかっている。



2人きりの部隊。対象の発声か、誰かが来たか。



顔を出す。ジャパニーズ侍が立っている。



ベストマンが動きを止めている。







 「107式ベストマンは賢者の石を原動力にしている」



侍はあの化け物についてかなり詳しいらしい。



「賢者の石っておとぎ話じゃないの」



ジョシュは眠ってしまった。ミルコが質問する。



「便宜上賢者の石と言っているが実際はあらゆる元素を分解再形成することができる超高性能な機械だ。まことしやかに異星人の技術とも言われているが」



「なるほどにわかには信じられないけどまぁ、ブラックボックスってやつか」



「その賢者の石をAIで制御している。生物と機械の合いの子。肉に包まれた機械人形だ」



「迷いなく動いていたのは頭が機械だからか」



「107式は生物の細胞分裂および成長に着目したタイプ。賢者の石を破壊するすべは今のところないが、AIの破壊は比較的たやすい」



「ちょっとまて」



ミルコは青ざめる。



「コントロール機能を失っただけであれは無限にあそこにい続けるのか」



「そういうことになるか。ただAIの指示系統がストップしたとなると新たな物質を取り込む機能を停止しているとみていいだろう」



「現状の肉体が朽ちて機械が出るまでずっとああやって立ってるのか」



「そういうことになるか。細胞分裂の回数を早めるために傷つけ続けることは可能だが」



「気持ちわりぃな。半分人間半分機械か。もはや『ベストマン』ではないんじゃないか」



「驚いたな。特殊部隊にいながらベストマン計画に疎すぎないか」



「ほっとけよ」



確かに。これまで何体か始末してきたがどうも今回の相手は違うものらしい。



そして、違うことを伝えられていなかった。どのみち特殊弾など効かなかった。



つまり。この侍が来なければ十中八九死んでいた。



「俺たちがこれまで相手にしてきたのは完全に生物だったぞ」







 悪い冗談だ。ミルコは思う。自分たちより多くを知る侍がいる。



いや待てよ。今の時代に侍がいるのか。



いや。なんだ。いろいろ考えるべきことが多すぎる。



「悪い。ちょっと休ませてもらう」







「いいだろう」
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