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5章
10話
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「このお花やお見舞いの品……殆ど小児科のスタッフからなのよ」
手術後の父が目覚めるのを待つ間、陽が傾き薄暗くなった病室で母がぽつりと切り出した。父の部屋は見舞いの花や品が見たことがないくらい沢山並んでいた。
兄達は手術が無事に終わり数値が落ち着いているのを確認した後、既に帰宅していた。そのため病室には母と二人だった。まだ何処か怯えたような仕種でユキは母を見る。
「小児科の先生方や看護師さん達。個別に持って来て下さった方も何人もいたわ。皆さん口々にあなたがどんなに素晴らしい医師なのか沢山話してくれたわ……本当に立派な医師になったのね…」
ずっとずっと欲しかった言葉が突然目の前に落ちてきて、ユキは信じられずに瞳を瞬かせた。
「あなたが可愛くなかった訳じゃ……愛していなかったわけじゃないの。お兄ちゃん達はみんなアルファだったから体が大きかったけれど、あなたはとても小さくて……守ってあげなければいけないと強く思ったわ。同時にこんなに体が小さくては体力もないしアルファとは同じことは出来るはずがないって決めつけてた。あなたがそれで傷つくかもなんて考えもしなかったの。病院の経営が傾いて、お父さんが倒れて……それで私は漸く少しだけ人の気持ちがわかるようになったわ。恥ずかしいけれど、今までは何時だって自分が絶対に正しいと思っていて人の気持ちなんて考えたことなかったのよ」
母はそう言うと
「病院の経営をうまくいかせたくて、大切な子供達を駒のように扱ったわ……特にあなたには酷いことをした。許して欲しいなんて言えないけど、謝らせて欲しいの……」
ユキの手をそっと取って
「ごめんなさい」
と謝った。ユキの手の甲にぽたり、と母の涙が落ちた。
母の手の感触で、幼いときに手を繋いで歩いた記憶が蘇った。
「あんなに酷いことをしてしまったことに産まれて初めて苦労して漸く気付いたの。もう二度とあなたに関わってはいけないと思ったのだけれど……どうしてもお父さんを助けたくてあなたに電話をしたわ。優しいあなたは断らないことも何処かでわかっていたの。本当に私は狡いわね」
いつも強くて自信いっぱいの母の姿は欠片もなく、ただ一人の弱い女が其処に居た。
「僕の……僕のことを立派な医師だと、認めてくれたのなら、僕はもうそれで十分です。それに、愛されていなかったわけじゃないってわかってよかった」
いつの間にか病室に現れていた永瀬が優しく見守っていた。
「麻酔が切れる時間ですし、脳波に動きが見られたのでそろそろ目が醒めるんじゃないかと思いまして」
永瀬が言うと、二人も横たわる父の方に向き直った。
ぴくぴくと父の瞼が動いたと思うと永瀬の言うとおり、静かに瞳が開いた。ゆっくりと、父は視線を巡らせるとユキの上でぴたりと止めた。
声にはならなかったが、唇が確かに動いた。
『雪也、ありがとう。ごめん』
ユキも母もこれ以上は我慢できなくなって声を上げて泣いた。
手術後の父が目覚めるのを待つ間、陽が傾き薄暗くなった病室で母がぽつりと切り出した。父の部屋は見舞いの花や品が見たことがないくらい沢山並んでいた。
兄達は手術が無事に終わり数値が落ち着いているのを確認した後、既に帰宅していた。そのため病室には母と二人だった。まだ何処か怯えたような仕種でユキは母を見る。
「小児科の先生方や看護師さん達。個別に持って来て下さった方も何人もいたわ。皆さん口々にあなたがどんなに素晴らしい医師なのか沢山話してくれたわ……本当に立派な医師になったのね…」
ずっとずっと欲しかった言葉が突然目の前に落ちてきて、ユキは信じられずに瞳を瞬かせた。
「あなたが可愛くなかった訳じゃ……愛していなかったわけじゃないの。お兄ちゃん達はみんなアルファだったから体が大きかったけれど、あなたはとても小さくて……守ってあげなければいけないと強く思ったわ。同時にこんなに体が小さくては体力もないしアルファとは同じことは出来るはずがないって決めつけてた。あなたがそれで傷つくかもなんて考えもしなかったの。病院の経営が傾いて、お父さんが倒れて……それで私は漸く少しだけ人の気持ちがわかるようになったわ。恥ずかしいけれど、今までは何時だって自分が絶対に正しいと思っていて人の気持ちなんて考えたことなかったのよ」
母はそう言うと
「病院の経営をうまくいかせたくて、大切な子供達を駒のように扱ったわ……特にあなたには酷いことをした。許して欲しいなんて言えないけど、謝らせて欲しいの……」
ユキの手をそっと取って
「ごめんなさい」
と謝った。ユキの手の甲にぽたり、と母の涙が落ちた。
母の手の感触で、幼いときに手を繋いで歩いた記憶が蘇った。
「あんなに酷いことをしてしまったことに産まれて初めて苦労して漸く気付いたの。もう二度とあなたに関わってはいけないと思ったのだけれど……どうしてもお父さんを助けたくてあなたに電話をしたわ。優しいあなたは断らないことも何処かでわかっていたの。本当に私は狡いわね」
いつも強くて自信いっぱいの母の姿は欠片もなく、ただ一人の弱い女が其処に居た。
「僕の……僕のことを立派な医師だと、認めてくれたのなら、僕はもうそれで十分です。それに、愛されていなかったわけじゃないってわかってよかった」
いつの間にか病室に現れていた永瀬が優しく見守っていた。
「麻酔が切れる時間ですし、脳波に動きが見られたのでそろそろ目が醒めるんじゃないかと思いまして」
永瀬が言うと、二人も横たわる父の方に向き直った。
ぴくぴくと父の瞼が動いたと思うと永瀬の言うとおり、静かに瞳が開いた。ゆっくりと、父は視線を巡らせるとユキの上でぴたりと止めた。
声にはならなかったが、唇が確かに動いた。
『雪也、ありがとう。ごめん』
ユキも母もこれ以上は我慢できなくなって声を上げて泣いた。
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