平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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番外編

還る家2

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「ん……っん……ちょっと……っ」
 左手の指の付け根。指と指の間を甘く溶かすように舐めるキリヤ。
 ぞくぞくとした甘い痺れが背筋をとおり抜ける。
 これまで洗う時以外なるべく触れないようにしてきたし、普段から手袋をしているので気が付かなかったが、キリヤの言うとおり紋様の部分は皮膚が薄いのかもしれない。
 とてもとても愛おしいものに触れるように優しく紋様に触れ、癒すように舌を這わす。
「キ……キリヤ……っわ……っ」
 こんなことろから甘い熱が生まれると思わなかったユノが動揺してキリヤを見ると、床に敷いてあるラグとクッションの上に押し倒された。
 そしてもう一度左手の紋様に唇を落とす。
 大きめにゆったり着ているニットとシャツの袖をそっと捲り上げて、指の間から手の甲、そして腕の内側の柔らかいところに刻まれた紋様を唇で、舌で辿る。
「は……は……ぁ」
 愛しているとユノに訴え掛けるような熱の孕んだ目でユノを見つめながら、紋様を愛撫されて、ユノの頭の中も体も沸騰してしまいそうに熱くなる。
 ユノの小さな家の暖炉は、ちょうど過ごしやすいように家を暖めてくれているはずなのに、体が火照って汗が滲み始める。
 舌がするすると、肘の内側の紋様の蔦の模様が終わるところまで到着すると、もう一度指輪の嵌まっている薬指に戻り、ちゅっと口づけた。
 自分の手がこんなに甘い疼きを生むと知らなかったユノは呆然とキリヤを見つめてしまう。
「僕を守ってくれたこの手は……本当に綺麗だな……」
 キリヤもこの濃厚な甘い熱に侵されたように恍惚とした表情で言うと、汗で濡れたユノの前髪をそっと避けた。
「ん……っ」
 ユノの額にそっと優しく口づけた後、唇にも口づけた。柔らかく押し付けたあと、ぬる……と熱い舌が潜ってくる。
 久しぶりの感覚に、眩暈がした。
 そして自分がどれほど彼に焦がれていたか、痛感させられる。
 うんと熱いキリヤの舌がユノの舌に絡む。
 大きな掌が愛おしくて仕方がないと言うようにしきりにユノの髪を撫でている。
 ユノは昔キリヤに教えてもらったやり方を必死で思い出して、キスの合間に呼吸をするとまるで上手にできたことを褒めるように、うんと優しく舌を吸われた。
「は……ぁ」
 唇を離すと、どちらからともなく甘い吐息が零れ落ちる。ユノの家の小さなリビングに熱く濃厚な空気が満ちてくる。
 鼻先が触れ合いそうなほど近くからユノを見るキリヤの青い瞳は、孕んだ熱で潤んでいてユノは思わず、酸素を求めるようにはくはくと空気を吸った。
「熱いね……ユノも僕も汗でびっしょりだ」
 キリヤは笑って、そして。
「脱がすよ……いい?」
 ユノのお腹の奥を震わせるほど低い声で尋ねた。
「あ……待って下さいっ」
 それなのにユノは急に冷水を浴びせかけられたように我に返ってキリヤに言った。
 止められるとは思ってもみなかったようで、キリヤは驚いたように目をまるめた。
「嫌だった?」
 心配そうな彼の声。
「い……嫌じゃないですっ……でも……でも……っ」
 決してキリヤと抱き合うことが嫌なのではない、と言うようにユノは頭を振った。
 きちんと言葉で伝えなくては、と思うのにすぐに言葉が出てこない。
 ユノは何度も唾を呑み込んで呼吸を整えた。
 彼がそのことを聞いてもユノに残念な表情なんて見せないことはわかっている。
 左腕のことと同じできっと優しく温かく受け入れてくれる。
 ……でも心の奥底でがっかりさせてしまわないだろうか。
 そのことがユノの喉を詰まらせていた。
「もしかして服を脱ぐ前に僕に話しておきたいことがある?」
 キリヤが小さい子に語り掛けるように優しく問うた。
 うんと優しい声だったけれど、ユノの体は少し強張ってしまった。
「あの……『黒い魔法』は使うたびに紋様が現れてしまうのは知っていますよね……俺は二回使ってしまったから……」
 ユノのは恐る恐る話し出した。
「服の下にもう一つの紋様がある。そういうことか?」
 はっきりと言葉を紡げないユノに代わってキリヤはずばりとその先を言う。
「そ……いうことです……」
「で、君はそのもう一つの紋様を見た僕が心の中でがっかりするんじゃないかと思っている」
 ぱっ、とユノは顔を上げてキリヤを見た。
 とても優しい瞳がユノを見ていた。
「ユノ、君の左手の紋様を僕は本当に心から愛おしく思っているんだ。君が僕を愛した証だ。それに……『悪魔の痣』と君の紋様は違うようにも思うんだ」
 それはユノも感じていたことだ。
 『悪魔の痣』は蛇のように忌まわしい紋様だが、ユノに現れたものは植物のようで、キリヤの指輪を付けると美しくさえ見えるのだ。
「とても綺麗だし、それになんというか……清らかで真っ白な君が色気を纏ったようにも見えて……」
 言いながらキリヤの頬は赤くなってしまい、恥ずかしそうに口を片手で覆っていた。
 綺麗だと言ってくれたのは嘘ではないと思っていたし、先程もこの紋様ごとユノを愛すると言わんばかりに触れてくれた。
 色気……というのは自分ではわからないけれど、キリヤは本心からこの紋様を受け入れてくれているように思えた。
「わかりました。見てください……」
 ユノは勇気を持って言って、着ているものを脱いだ。

    
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