平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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8章

僕と君を繋ぐもの2

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新しく出来た駅は、そんなに大きなものではなかった。
しかしまだ箒で長距離の飛行が難しい子供の通学や病気やけがの人の通院も大分楽になった。
ユノが駅に着くと、ほどなくしてやってきた小さな汽車に乗り込む。
国境の川を越えて、クルリ村の楓の森を通り過ぎ、これまでの荒野が嘘のように賑わっているクルリ村の中心街を汽車は走り、村の集会場のすぐそばに作られた駅に着く。
多くの店や宿、住宅が出来て栄えているが自然豊かなところは大切に保護されるように復興がなされた。
もちろんユノ達の頑張りもあったが、シュトレイン国王と交わした『誓約』のお陰なのか、様々な事業がとてもスムーズに進んだのだとずっと思っていた。
だがそれにしても本当にそこに住む人の立場に立って成された復興事業であった。
ユノが学園を辞めた後もずっと気に掛けてくれていたイヴァンやアンドレアは卒業後国を支える重臣として活躍しているので、ユノには言わないが彼らの陰ながらの大きな協力があったのかもしれない。
改めて彼らに感謝の言葉を言わなければならないな。
村の街並みを車窓から眺めながらそんなことを考えているうちにクルリ村に汽車は到着した。
駅からユノの家まで歩く道の途中に、ルカとニコライが経営する宿屋がある。
一階がお酒も呑める食堂で、二階が宿泊できる部屋になっている丸太で出来たそのログハウスは、通りの中でもひと際目を引く建物だ。
カラン、と音を立てて扉を開ける。
「おー、ユノ。おかえり」
昼食の時間は過ぎ、まだ夕食を食べに来る客はいない時間。
温かな木の香りのする店内の奥にあるカウンターの中でルカはディナータイムの準備をしていて、ニコライは店内の掃除をしていた。
「頼んでおいた葡萄酒を受け取りに来たんだけど、もう届いてる?」
ユノが尋ねると、ルカはカウンターの奥から二本の葡萄酒を取り出した。
「届いているよ。はい、どうぞ」
「あれ?一本しか頼んでなかったけど」
「今回の休暇にはサランだけじゃなくアンドレア様とイヴァン様も来るんだろう?俺らからの差し入れ」
少し伸びた髪を後ろで軽く束ねたルカ。
「いいの? ありがとう」
ボトルを受け取って、ユノは学生時代からずっと使っている収納バッグにそっとしまった。
「あ、あとこれ牛肉の煮込み。ユノの分も作ったから持って行って」
ルカから鍋ごと料理が渡された。
「おいしそう! ……でも多くない? サラン達来るのはもう少し先だし」
「そうか? 急な来客あるかもしれないじゃん」
「急な来客? うちに急に来るのなんてマルクルくらいだけど」
「まぁ食べきれなかったら冷凍魔法掛けておけばいいじゃん」
「そっか、そうすればサラン達来たときに出せるね」
ユノはそう言うと、再度お礼を言って鍋を収納バッグにしまった。
「じゃあ帰るね。またね、ルカ、ニコライ」
二人に別れを告げてユノは店を出る。
「ユノ……!」
店の外に追いかけてきたのはニコライだった。
「どうしたの? ニコライ」
「……あのさ、もし王都に来ないかって誘われたら……もう王都に行ってもいいんだからな」
ニコライの話にユノは目をぱちくりさせた。
「どうしたの。急に。王都に俺が戻ることはないよ。こんな腕になっちゃったし、王都に戻ったら捕まっちゃう」
ユノは明るく笑って手袋の嵌まった手を摩った。
「急にじゃない。ずっと考えてきたんだ。ユノが俺たちを選んでここに帰って来るのは当たり前だって思っていたし、ユノもそうした。でもそれでよかったのかなってずっと考えている」
「……正しかったと思ってるよ、俺は」
ユノはニコライに微笑んだ。
「でも、ユノは笑っていても本当に幸せそうじゃなかった」
「……そうかもしれない……でも故郷が復興したのは本当に嬉しいと思っているし、皆が夢を叶えて行く姿を見られて幸せだよ」
「……そうだな。故郷のために何年も頑張ってくれてありがとう。ユノがここで頑張ってくれただけじゃなくて、王都の人たちと繋がってくれたのも大きいなって実感している。そろそろ自分の幸せを探すことも考えてほしい」
腕にとんでもない重いものを刻んでしまったユノのことをいつも心配してくれる友人。
ニコライに手を振って通りに戻ると、ユノは家に向かって歩いた。
ニコライは時折自分の幸せを探してほしいと泣きそうな顔でユノに言う。
でもユノはそれは探してももう見つからないものだと分かっていた。
ニコライが悲しむからそれは言わないけれど。
彼と過ごした日々が眩しすぎて、いつまでも胸の中で輝き続けているのだ。
他のどんなものとも比べられない。
だから他の幸せを探すことはユノにはできなかった。
いっそ自分にも『忘却の魔法』を使ってしまおうか考えたけれども、どうしても彼との思い出は消せなかった。
どうしても消せないと思うたびに、彼の記憶を自分が勝手に消してしまったことの罪深さも思い知る。
記憶を消さなければ彼はきっとどこにいたってユノを迎えに来るだろう。
そして、ユノの罪を知られることが怖かった。
彼を守るためとはいえ、ためらいなく人を殺したことを知られたくなかった。
彼のことを思い出さない日なんてない。
特に夜がひどくて、彼の夢を見ては涙を流す日々は何年も経った今でも続いている。
若い頃のほんの短い恋。
それなのに、あまりにも思い出が美しすぎていつまでもユノを苦しめる。
あぁ、また彼のことを考えている。

さく、さく、と新しく降った雪を踏みしめながらユノは自分の家に向かう。
街並みが変わっても、ユノの家は今も変わらないところにある。
街の中心から離れているので、こんなにも街が栄えた今もユノの家の周りは静かだった。
『ただいま』
一人暮らしなので、帰宅の挨拶は火の精に向けた言葉だ。
『おかえりなさい、ユノ』
火の精は『黒い魔法使い』になってしまったユノだっていつでも変わらず温かく迎え入れてくれる。
帰ってからすぐに玄関のランタンに魔法油を足すのは変わらない習慣。
「あ。上着を脱ぐ前に玄関のツリーの飾りつけしちゃおうかな」
ユノは上着を脱がずに家の奥に入ると、ツリーのオーナメントの入った箱を取り出した。
子供のころからずっと使っているお気に入りの木製のオーナメント。
玄関に植えてあるもみの木に一つずつ丁寧に飾っていく。
そして最後にツリーのてっぺんに付ける星を手に取った。
毎年、これを手にするたびに胸がぎゅっと苦しくなる。
どうせ届かないのだから、あの時の様に背伸びをすることはなかった。
魔法を使ってさっさと付けてしまおう。
そう思って星を手にした。

そのとき。
サク……と雪を踏む音がして、ムスクの香りがした。
そんなまさか。
何度も記憶をなぞりすぎて、とうとう幻聴だけでなく香りまで感じてしまうようになってしまったのか。
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