平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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7章

イヴァンとの別れ

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「キリヤっ! 来たっ!」
アンドレアや騎士団の幹部も共に休んでいる集会所の二階の部屋に、夜通し『占術』でドレイク宰相の動きを見張っていたイヴァンが飛び込んできた。
ユノは握っていた懐中時計を見ると時刻は午前三時を半刻ほど過ぎていた。
いつ戦いが始まってもいいように準備を整えた状態で休んでいた面々はイヴァンの言葉に立ち上がった。
イヴァンは水晶に映るギルラディア軍の様子を見せた。
「いつもはこの時間は静かで動き始めるのは早くても午前5時くらいなんだけど、今日はこちらの領地に入っている軍勢全てがもう動き始めている。恐らくあと半刻も立たないうちにこちらに向かってくると思う。今もう隊列を組んでいるのが見える?」
イヴァンは水晶を宙に浮かせて、そこに集まるキリヤ達三人以外の騎士団の幹部十名ほどにも見えるようにした。
「恐らく親衛隊である騎士団を前にして配置して、ドレイク宰相はそれを盾にしながらキリヤを探すつもりだろうね」
音声は聞こえないものの、作戦を指示している幹部の口の動きをアップにしたイヴァンが言った。口の動きまで詳細に映る『占術』なんて見たことがない。
イヴァンはどれほどの魔力を使っているんだろうか。
いつも飄々としている彼の額に汗が浮かび、眉間にしわが深く寄っている。
それでなくとも、恐らくここ数日は寝ることもせず向こうの動向を探っていたはずだ。
「……っ」
体がぐらりと傾いたイヴァンをユノは慌てて支えた。
「イヴァンっ大丈夫?」
「ごめん。大丈夫だよ。今こそしっかりできないと僕がここに来た意味がないからね。作戦どおり、敢えて動かず迎え撃つ、でいい?」
「こちらから向かえば恐らく向こうも『占術』でこちらが動いたことを察知してしまう。気が付いていない振りをして、優秀な『術師』はいないと思わせたままでいい。現にこの前までシュリが僕のパートナーとして『占術』をしていたから、向こうに僕についている『術師』のレベルは大したことはないと思っているはずだ。その勘違いをさせたままがいい」
キリヤが言うとイヴァンは頷いたがその体は再び大きく揺れた。
「俺たちは外の騎士団に命令を出してきます。素早く準備しますが決して察知されないように静かに動きますね」
イヴァンを心配そうに見ながらも騎士団を纏めるアンドレアは動かなければならず、キリヤに言って集会所を後にした。
「イヴァンはここにいては危ないから南にある避難所に行ってください。そこにクルリ村の村長たちが避難しています。イヴァンはもう限界だと思いますので、そこで休んでいてください。避難所にイヴァンの迎えを頼むと『言の葉送り』を送りましたのでもうすぐ迎えが来るはずです。馬車は集会場の裏口に来ます」
イヴァンは恐らく後少しでも魔力を使ってしまえば命が危ないほどだ。そのギリギリの状況を察知したユノが言った。
「ごめん。もっと一緒に戦いたかったけれど、これが限界みたいだ」
真っ青な顔をしたイヴァンが言った。
「イヴァン、君はもう十分やってくれた。クルリ村に入ってからは寝ることも殆どなく、特にシールドを緩めて誘い込む作戦を開始してからはかなり魔力を消費したと思う。君が居なければこの作戦はできなかった」
キリヤが言うと、イヴァンは嬉しそうに微笑んだ。
「キリヤの『封印の魔法』もアンドレアの攻撃魔法も新しくなったし、きっと大丈夫だって信じている。避難所に行かせてもらったらできるだけ早く魔力を回復させて万が一の時に備えるけれど、数時間後笑って会えるって信じている」
キリヤとイヴァンは固く握手した。
「ユノ」
そしてイヴァンはユノの方を向いた。
「僕も君が生徒会に入ってから、故郷のために頑張って知識を積み重ねて強くなった姿を目の当たりにして素直に感動したよ。改めて努力する大切さとか誰かのために頑張りたいと思う気持ちを思い出させてもらったんだ。僕がここまで頑張れたのも君のお陰だ。ありがとう」
ユノはイヴァンの言葉が思いもよらなかったものなので、驚いて目をぱちぱちさせた。
「イヴァンが凄いのは、イヴァンが優れているからです。でもそういう風に思ってもらえたなら嬉しいです」
ユノが照れながら言う。
「ごめん。キリヤ。ちょっとだけ許して」
イヴァンはそう言うとユノをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。ユノ。絶対生きて元気でまた会おう。故郷の為にも僕らの為にも自分を賭けるようなことをしてはダメだよ」
冗談なのか、本気なのか分からないいつもの彼のふざけた口調だけど、ユノを抱きしめるイヴァンの腕が震えていた。
『術師』は『占術』を使わなくても勘が鋭いものが多い。
ユノの考えていることにイヴァンは気がついているのかもしれない。
「わかりました。心配してくれてありがとう」
ユノは安心させる様に言ってイヴァンの背を叩いた。
イヴァンはいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて、ユノの体を離した。
そしてイヴァンはキリヤの前まで行くと、今度はキリヤのことも抱きしめた。
「キリヤ、いつも僕のことを信じてくれてありがとう。ユノと幸せになるために頑張って」
「あぁ。いつも冷静なお前は本当に頼りになる。今回も助かった。必ず勝ってお前のところに行くから安心して待っていてくれ」

ユノとキリヤはイヴァンと約束すると集会所の正面玄関から騎士団たちの陣営へ、イヴァンは迎えの馬車を待つべく裏口へそれぞれ別れて向かった。


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