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6章
真実を映し出す
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「もうっ直ぐに連絡をくださいって言いましたよね?! キリヤ様っ」
キリヤの部屋で頭から湯気を出すほどに怒っているサラン。
「すまない。サラン。三日三晩寝なかったもので、ユノが意識を取り戻してからすぐにもう一度二人で眠ってしまったんだ」
キリヤがしれっと嘘を交えながらも謝る。
嘘は苦手だが、確かに事実を言われてしまったら、ユノはここに居られなくなってしまいそうだ。
「ごめんね。サラン。沢山心配かけたね。サランはあの呼び出しを怪しんでいたのに」
「もう絶対だめだって……三日たったのに何の連絡も来ないから、キリヤ様の愛は薄っぺらかったんだって思って絶望したんだからねっ」
「キリヤ様もユノの意識が戻って安心してお疲れが出たんだ。どんな気持ちだったかわかるだろう?」
アンドレアが窘めるのも聞かずサランは怒る。
「だって、どれほど心配したことか……っ」
「何となく疲れて休んでいただけじゃないような甘―い雰囲気に見えるしね。サランの気持ちも分かるよ」
イヴァンがうんうん、とサランの横で頷く。
「おい、余計なこと言うな。イヴァン」
アンドレアがイヴァンを小突いた。
「すぐに連絡しないで心配かけてごめんね」
サランのふわふわの髪を撫でてユノが謝る。
サランはぎゅうっとユノの体を抱きしめた。
「よかった……本当によかった……もう会えないんじゃないかって思って……僕っ……」
サランの瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「ありがとう。キリヤと一緒に魔力が尽きるまで治癒魔法を僕に使ってくれたと聞いたよ」
「あ……当たり前じゃんかっ……もうあんなユノの姿見たくないからねっ単独行動禁止っ」
試験の日だって、風邪を引いたって欠かさずつけるお気に入りの桃のコロンの香りがしないサラン。
「極力単独行動はしないように約束するよ」
目が真っ赤になっているサランにユノも安心させるようにトントンと背を叩いて言った。
「無事にユノが回復して本当に良かった。ただユノを陥れた犯人はどうしても見つけ出さないとならない」
「俺が乗せられた馬車にはフィザード家の紋章が確かにありました。でも以前シュリはキリヤと契約書を交わしましたよね?」
フライングレースのときユノの箒に悪質な細工をした件でユノに攻撃的なことをしないと誓約書にシュリは名前を刻んだ。
魔法の誓約書に書かれた誓いを破ったのならば、誓った相手であるキリヤに誓約破棄が分かる様に誓約書は燃えて灰になるはずである。
キリヤが指を振ると、キリヤの手元にはシュリの名が刻まれた契約書が現れた。
「このとおり契約書は灰になっていないんだ。イヴァン、何かわかったことはあるか?」
キリヤが言うと、イヴァンは『占術』に使う水晶を出して見せた。
「うん。ユノを陥れた人物の確かな証拠を掴むために『占術』をしてみたよ」
皆が注目する中、薄紫色がかった水晶にぼんやりと画像が浮かび上がった。
この画像がどれくらい鮮明かで『術師』の実力が分かる。
イヴァンの水晶の映像は徐々にはっきりしてきて、『氷の洞窟』に出入りしている馬車に描かれたフィザード家の紋章が映る。
「よかった。ちゃんと映っている。でもこれが僕の限界かな。もっと見えたらよかったんだけど」
「そんなことない。こんなにはっきり映るんだね。紋章の確認ができる。ここまで見える『占術』は初めてだよ」
食い入るように水晶を見つめていたユノが言った。
「あぁ。これほどまでのものはシュリには到底映せないな。これを証拠にして王宮に持ち帰る。このことはもう学園で解決できることではないからな。イヴァンこれを提出したらフィザード家に王宮の職を辞してもらうことになる。荒れるだろうが協力してもらえるか?」
キリヤはイヴァンに告げた。
「もちろん。これを王宮に提出したらどこまでもキリヤに付いていくよ」
「私もキリヤ様と共に王宮に参ります」
イヴァンとアンドレアが言った。
「キリヤ、でもこれを出すことでキリヤが大変なことになるなら、僕は……」
ユノが心配のため思わず口を開くと、キリヤは静かにユノを制した。
「だめだ。ユノ。これはきちんと王宮に証拠を提出して犯人を罰しなければならないことだ。被害者が君でなかったとしても、僕は同じようにするつもりだ。フィザード家に『占術』をしてもらえなくなったとしても、イヴァンのポポフ家がいる。戦争時のときに『術師』がいないということにはならないから安心してくれ」
キリヤはユノにそう告げた。
研修旅行は残りわずかとなったが、すっかり元気になったユノは残りの日程に参加することができた。
ユノが参加できなかった『氷の洞窟』での『守りの氷』の発掘作業はサラン達が頑張ってくれたお陰もあり、見事な成果も得ることができた。
そして、王都に帰還すると間もなくキリヤはアンドレアとイヴァンを伴い、シュリを始めとするフィザード家を裁くために王宮に向かったのであった。
キリヤの部屋で頭から湯気を出すほどに怒っているサラン。
「すまない。サラン。三日三晩寝なかったもので、ユノが意識を取り戻してからすぐにもう一度二人で眠ってしまったんだ」
キリヤがしれっと嘘を交えながらも謝る。
嘘は苦手だが、確かに事実を言われてしまったら、ユノはここに居られなくなってしまいそうだ。
「ごめんね。サラン。沢山心配かけたね。サランはあの呼び出しを怪しんでいたのに」
「もう絶対だめだって……三日たったのに何の連絡も来ないから、キリヤ様の愛は薄っぺらかったんだって思って絶望したんだからねっ」
「キリヤ様もユノの意識が戻って安心してお疲れが出たんだ。どんな気持ちだったかわかるだろう?」
アンドレアが窘めるのも聞かずサランは怒る。
「だって、どれほど心配したことか……っ」
「何となく疲れて休んでいただけじゃないような甘―い雰囲気に見えるしね。サランの気持ちも分かるよ」
イヴァンがうんうん、とサランの横で頷く。
「おい、余計なこと言うな。イヴァン」
アンドレアがイヴァンを小突いた。
「すぐに連絡しないで心配かけてごめんね」
サランのふわふわの髪を撫でてユノが謝る。
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サランの瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「ありがとう。キリヤと一緒に魔力が尽きるまで治癒魔法を僕に使ってくれたと聞いたよ」
「あ……当たり前じゃんかっ……もうあんなユノの姿見たくないからねっ単独行動禁止っ」
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目が真っ赤になっているサランにユノも安心させるようにトントンと背を叩いて言った。
「無事にユノが回復して本当に良かった。ただユノを陥れた犯人はどうしても見つけ出さないとならない」
「俺が乗せられた馬車にはフィザード家の紋章が確かにありました。でも以前シュリはキリヤと契約書を交わしましたよね?」
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魔法の誓約書に書かれた誓いを破ったのならば、誓った相手であるキリヤに誓約破棄が分かる様に誓約書は燃えて灰になるはずである。
キリヤが指を振ると、キリヤの手元にはシュリの名が刻まれた契約書が現れた。
「このとおり契約書は灰になっていないんだ。イヴァン、何かわかったことはあるか?」
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「うん。ユノを陥れた人物の確かな証拠を掴むために『占術』をしてみたよ」
皆が注目する中、薄紫色がかった水晶にぼんやりと画像が浮かび上がった。
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イヴァンの水晶の映像は徐々にはっきりしてきて、『氷の洞窟』に出入りしている馬車に描かれたフィザード家の紋章が映る。
「よかった。ちゃんと映っている。でもこれが僕の限界かな。もっと見えたらよかったんだけど」
「そんなことない。こんなにはっきり映るんだね。紋章の確認ができる。ここまで見える『占術』は初めてだよ」
食い入るように水晶を見つめていたユノが言った。
「あぁ。これほどまでのものはシュリには到底映せないな。これを証拠にして王宮に持ち帰る。このことはもう学園で解決できることではないからな。イヴァンこれを提出したらフィザード家に王宮の職を辞してもらうことになる。荒れるだろうが協力してもらえるか?」
キリヤはイヴァンに告げた。
「もちろん。これを王宮に提出したらどこまでもキリヤに付いていくよ」
「私もキリヤ様と共に王宮に参ります」
イヴァンとアンドレアが言った。
「キリヤ、でもこれを出すことでキリヤが大変なことになるなら、僕は……」
ユノが心配のため思わず口を開くと、キリヤは静かにユノを制した。
「だめだ。ユノ。これはきちんと王宮に証拠を提出して犯人を罰しなければならないことだ。被害者が君でなかったとしても、僕は同じようにするつもりだ。フィザード家に『占術』をしてもらえなくなったとしても、イヴァンのポポフ家がいる。戦争時のときに『術師』がいないということにはならないから安心してくれ」
キリヤはユノにそう告げた。
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ユノが参加できなかった『氷の洞窟』での『守りの氷』の発掘作業はサラン達が頑張ってくれたお陰もあり、見事な成果も得ることができた。
そして、王都に帰還すると間もなくキリヤはアンドレアとイヴァンを伴い、シュリを始めとするフィザード家を裁くために王宮に向かったのであった。
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