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6章

二人で迎える朝

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目覚めると、柔らかな寝間着を着せられていた。
同時にぎゅっと抱きしめられていた。
そっと視線を上げると、キリヤはまだ眠っている。
そういえば三日寝ないでユノを呼び続けたと言っていたな、とユノは思った。
確かに深い深い冷たい夢の中で、ずっとキリヤの声が聞こえていた。
あの声だけは夢でも幻でもなく本物のキリヤの声だったに違いない。
真っ白な寝顔には疲れが滲んでいた。
まぁ……三日三晩寝ないで最後にあんなことをしたのではそれも無理はないか、と思って昨夜のことを思い出し、ユノの顔も熱くなってきた。
自分が快楽にあんなにも弱いとは知らなかった。
とんでもない声を出して彼に与えられる快楽に溺れ、美しい彼が快楽に浸る表情にどうしようもなく興奮してしまった。
いっぱい勉強してきたことが全て頭から無くなってしまったと思ったが。
「よかった……」
思わず声に出して呟くと。
「何がよかったんだ?」
眠っていたと思っていたキリヤの青い瞳がユノを見つめていた。
「わ……起きていたんですね……びっくりした……」
驚いて目をぱちぱち瞬きさせると、寝ぐせで覗いていたおでこにそっと唇が落ちた。
「おはよう……ユノ。で、何が良かったのか教えて?」
再度甘い甘い声でおねだりされる。
「えーと……あの……馬鹿だって思わないって約束できますか……」
「もちろんだ」
キリヤはそう言っても誓うようにもう一度ユノの額にキスをした。
「昨日、俺気持ちよくなりすぎて頭の中が真っ白になってしまったので、今まで勉強したことや覚えたことが全部無くなってしまったんじゃないかと思ったんです。でも起きたら今まで勉強したこともちゃんと頭に戻ってきていたのでよかったなぁと思って」
そこまで一息に言ってしまうと、キリヤの顔が驚いたように固まっていた。
「あの……? キリヤ?」
ユノが固まったキリヤを不審に思い問いかけると、はっと我に返ったようだった。
キリヤはユノをぎゅっと抱きしめた。
「あーーーーーー可愛すぎるだろ……」
キリヤは言うとユノの顔中にキスの雨を降らせた。
「可愛いですか? 折角覚えたことを忘れたらたまらないですよ。でもさっき起きてすぐにマリア女史の禁書の倉庫に入る難しい呪文も忘れていなかったので安心しました。禁書の倉庫に入れないのは困りますから」
ユノの発言にキリヤはぴたりと動きを止めた。
「……ユノ、学生には読むことを禁じられている禁書で読みたいものがあるのか?」
キリヤの問いにユノはそっと頷いた。
「はい。『黒魔法』について知りたいことがあって」
ユノが言うとキリヤは息を呑んだ。
「ユノ……いくら僕のためとはいえ、そんな危険なものを読んではだめだ」
「わかっています。『黒魔法』はシュトレイン王国では禁忌とされています。使うつもりはありません。ただ……『黒魔法』についてよく知っておけばドレイク宰相に対抗するいい手立てが思いつくかもしれないと思っただけです」
隣国のドレイク宰相が使う『黒魔法』は非常に残酷なものが多く、一瞬で人の命を奪ったり記憶を消したりすることができるものだ。知られているものはほんの一部のみで、『黒の魔法使い』であるドレイクは全ての黒魔法を知りつくしているという。彼の手の内を少しでも知っておきたい。
「ユノが悪いことに魔法を使ったりしないことは分かっているよ。でも僕のため、となったら君は使ってしまうような気がして怖いんだ。どうかもう、『黒魔法』についての本は読まないでくれ。一緒に居られなくなってしまうようなことになったら……っ」
プラチナ色の髪がキラキラと眩しくて、ユノはそっと瞼を閉じた。
そう、『黒魔法』を使うと体のどこかに『悪魔の痣』を呼ばれる黒い紋様が現れる。
その痣を持ってしまうと、これ以上魔法の勉強は受けさせてもらうことができなくなるため、魔法を学ぶための学校からは退学処分にされてしまう。
どんな黒魔法を使ったかによって異なるが、国から罰も受ける。
「わかりました。もう『黒魔法』の本は読まないと約束します。ただキリヤの叔父上……トーマ様が亡くなった時の詳細は調べさせてください」
「でも無理はし過ぎないでくれ。僕は大丈夫だから。君にまた何かあったらと思うと……っ」
キリヤはベッドの中でユノの体をぎゅっと抱きしめた。
「はい。無理なことはしませ……ん……っ」
ユノが頷くと、キリヤはそっとユノの唇にキスをした。
「体は平気? 意識が回復したばかりだから、痛いことはしなかったつもりだけれど」
「ひゃっ……」
何度も唇を啄みながら甘い雰囲気でキリヤは尋ねながら、ユノの双丘をするりと撫でたものだから思わず声を上げてしまった。
「可愛いな……ユノ……」
甘く彼が囁いて、昨夜のことが頭に蘇る。
自分の痴態を思い出すと恥ずかしすぎて顔から火が出そうなほど熱くなる。
「すっかり元気になったらココで繋がってもいい?」
寝間着のパンツの上からではあるが、双丘の狭間をそっと指で押された。
恥ずかしすぎてユノはキリヤの胸元に顔を押し当てて頷いた。
あんまり強くそこを押さないで……
そう思った時だった。
トントン
部屋の扉がノックされた。
「殿下、アンドレア様とイヴァン様、それとお連れ様が見えていますが、お通しして大丈夫でしょうか?」
キリヤの侍従魔法使いの声が聞こえた。
「しまった……連絡するのを忘れていた……」
キリヤは思わず片手で顔を覆った。


    
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