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6章
彼のもとへ1
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※ユノ視点に戻ります
寒い…
冷たい……
痛い……
唯一体を温めてくれる、胸の青い石を必死に体に押し当てたが、怒り狂う氷の竜が吐き出す冷気は強烈にすさまじく、ユノの体温をあっと言う間に奪った。
洞窟の出入り口が封鎖され、ユノをここに連れ去った男たちの断末魔のような叫びが聞こえたが、それもほどなくして聞こえなくなった。
ユノの命もやがて彼らの声が聞こえなくなったように無くなってしまうのだろうか。
やだ……
自分の代わりに村を守っていてくれる幼馴染達に何も返せていない。
そして
プラチナ色が脳裏を過る。
重すぎる運命を背負っている彼の助けになりたかった。
何も、何もできていない。
まだ死ぬわけにはいかない。
それなのに何もかも諦めたくなるほどに寒い。
このまま深く眠ってしまいたい。
このまま眠ったら、父と母に会えるのではないだろうか。
それはそれでいいのかもしれない。
壊れた村を復興させるだとか、国が違う二つの村を一つにしたいだとか、国の光である王子の助けになりたいだとか。
ユノには大きすぎる夢だったのだ。
『ユノ……君が好きだよ』
諦めようと思ったのに。
子供の頃に戻ったように、何も考えずただ父母に甘える自分に戻ろうと思ったのに。
愛おしい声が頭に響いた。
でもきっとユノがいなくなったとしてもあんなに美しい彼ならば、自分の代わりなどいくらでも見つかる。
ごめんなさい。キリヤ。
俺はもうきっとこの冷たすぎる洞窟から戻れない。
そのとき、大好きなキリヤのムスクが強く香った。
『ユノ、君しかいないんだ。君が僕には必要なんだ』
『愛している。もう君以外なんて愛せない。お願い。僕のところに帰って来て』
その声が聞こえるたびに、約束の青い宝石が熱を放って冷え切ったユノを温めようとしている。
ユノの心が寒さに折れそうになると、愛の言葉が聞こえて来て、宝石が熱を放つ。
あの美しい王子様の声で過分な愛の言葉。
喉から絞り出すような慟哭。
そんな声で泣かないで。
ぽたり……
とても温かいものがユノの頬に落ちた。
温かい。
『ユノ……っ行かないで……僕を一人にしないで……もう、一人では生きていけない。愛しているんだ。君の代わりなんてどこにもいないんだ。君がいなかったらもう何もしたくない』
あの彼が言ったとは思えない情けなくて可哀そうな愛の言葉。
やっぱり彼を助けたい。
愛おしい彼を助けたい。
助けなくちゃ。
そう思って、必死に手を伸ばした。
「ユノ……っ?!」
ゆっくりと目を開けると、周りが真っ赤になってしまった彼の青い瞳。
美しくクールな顔は、頬が涙で濡れてぐしゃぐしゃだった。
「キ……リヤ?」
喉から出た声はびっくりするほど枯れてみっともないほどに掠れてしまっていた。
「ユノ……っユノ……っよかった……っ帰って来てくれた……っ愛してる……っ」
キリヤは掠れてみっともない声なのに、ユノの声を聞いて感極まったように涙を零して抱きしめた。
温かい胸の中が温かくて、温かくて、ユノも涙が零れた。
ユノは彼の胸の中に戻って来られたのだ。
「あの……俺、どれくらい……?」
「三日だ。三日間眠り続けていた。四日経ったらダメだって、火の精が言うから……怖かった……目が覚めてよかった……っ」
震える声で額を合わせて彼は無事を心底喜ぶように言う。
ぽたぽた……とユノの上に降って来る彼の涙が熱いくらいだった。
それから、そっと愛しむように唇が重なった。
柔らかな感触。
触れ合うだけで溶けてしまいそうな感覚。
ふにゅ、と柔らかく触れて確かめる様に何度も押し付けられる。
「ん……っ」
思わず唇の隙間から声を漏らしてしまうと、息を呑んだキリヤが唇を離して鼻先を首筋に埋めて抱きしめてきた。
とてもとても温かくて、二人の間を隔てるものは何もないみたいだった。
寒い…
冷たい……
痛い……
唯一体を温めてくれる、胸の青い石を必死に体に押し当てたが、怒り狂う氷の竜が吐き出す冷気は強烈にすさまじく、ユノの体温をあっと言う間に奪った。
洞窟の出入り口が封鎖され、ユノをここに連れ去った男たちの断末魔のような叫びが聞こえたが、それもほどなくして聞こえなくなった。
ユノの命もやがて彼らの声が聞こえなくなったように無くなってしまうのだろうか。
やだ……
自分の代わりに村を守っていてくれる幼馴染達に何も返せていない。
そして
プラチナ色が脳裏を過る。
重すぎる運命を背負っている彼の助けになりたかった。
何も、何もできていない。
まだ死ぬわけにはいかない。
それなのに何もかも諦めたくなるほどに寒い。
このまま深く眠ってしまいたい。
このまま眠ったら、父と母に会えるのではないだろうか。
それはそれでいいのかもしれない。
壊れた村を復興させるだとか、国が違う二つの村を一つにしたいだとか、国の光である王子の助けになりたいだとか。
ユノには大きすぎる夢だったのだ。
『ユノ……君が好きだよ』
諦めようと思ったのに。
子供の頃に戻ったように、何も考えずただ父母に甘える自分に戻ろうと思ったのに。
愛おしい声が頭に響いた。
でもきっとユノがいなくなったとしてもあんなに美しい彼ならば、自分の代わりなどいくらでも見つかる。
ごめんなさい。キリヤ。
俺はもうきっとこの冷たすぎる洞窟から戻れない。
そのとき、大好きなキリヤのムスクが強く香った。
『ユノ、君しかいないんだ。君が僕には必要なんだ』
『愛している。もう君以外なんて愛せない。お願い。僕のところに帰って来て』
その声が聞こえるたびに、約束の青い宝石が熱を放って冷え切ったユノを温めようとしている。
ユノの心が寒さに折れそうになると、愛の言葉が聞こえて来て、宝石が熱を放つ。
あの美しい王子様の声で過分な愛の言葉。
喉から絞り出すような慟哭。
そんな声で泣かないで。
ぽたり……
とても温かいものがユノの頬に落ちた。
温かい。
『ユノ……っ行かないで……僕を一人にしないで……もう、一人では生きていけない。愛しているんだ。君の代わりなんてどこにもいないんだ。君がいなかったらもう何もしたくない』
あの彼が言ったとは思えない情けなくて可哀そうな愛の言葉。
やっぱり彼を助けたい。
愛おしい彼を助けたい。
助けなくちゃ。
そう思って、必死に手を伸ばした。
「ユノ……っ?!」
ゆっくりと目を開けると、周りが真っ赤になってしまった彼の青い瞳。
美しくクールな顔は、頬が涙で濡れてぐしゃぐしゃだった。
「キ……リヤ?」
喉から出た声はびっくりするほど枯れてみっともないほどに掠れてしまっていた。
「ユノ……っユノ……っよかった……っ帰って来てくれた……っ愛してる……っ」
キリヤは掠れてみっともない声なのに、ユノの声を聞いて感極まったように涙を零して抱きしめた。
温かい胸の中が温かくて、温かくて、ユノも涙が零れた。
ユノは彼の胸の中に戻って来られたのだ。
「あの……俺、どれくらい……?」
「三日だ。三日間眠り続けていた。四日経ったらダメだって、火の精が言うから……怖かった……目が覚めてよかった……っ」
震える声で額を合わせて彼は無事を心底喜ぶように言う。
ぽたぽた……とユノの上に降って来る彼の涙が熱いくらいだった。
それから、そっと愛しむように唇が重なった。
柔らかな感触。
触れ合うだけで溶けてしまいそうな感覚。
ふにゅ、と柔らかく触れて確かめる様に何度も押し付けられる。
「ん……っ」
思わず唇の隙間から声を漏らしてしまうと、息を呑んだキリヤが唇を離して鼻先を首筋に埋めて抱きしめてきた。
とてもとても温かくて、二人の間を隔てるものは何もないみたいだった。
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