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6章

キリヤの部屋

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シュトレイン家の別邸に戻ると、キリヤの部屋の暖炉に多くの薪をくべ、汗ばむほどに部屋を暖めた。
サランはユノの傍にいたがったが、アンドレアはユノのために『守りの氷』の発掘調査を進めておくのが俺たちの使命じゃないか、と熱心に言い聞かせる。
「わかった……ユノに何かあったら……っすぐに教えてください……も…もし……っ悪い方であっても……っ」
涙腺が壊れてしまったように泣くサラン。
「この件についてはイヴァンの『占術』の結果を見て証拠を揃えておきます。キリヤ様はユノが目を覚ますまではユノのことだけに集中してください。恐らく『相手方』はキリヤ様が氷の竜を出すとは思っていないこととイヴァンの『占術』を甘く見ていますので、必ずすぐに証拠を揃えます」
キリヤとサランのために気丈に振舞っているアンドレアだが、彼の声もやや震えていた。
「わかった。お前たちに任せた。お前たちも探っていることが相手に勘づかれたら危ない。くれぐれも気を付ける様に」
「はっ」

アンドレアはキリヤの言葉に深く頷くと涙に暮れるサランと共にキリヤの部屋を出て行った。
侍従魔法使いはキリヤの魔力がほぼ無い状態なので、キリヤもまずは休むべきだと言い張った。だが火の精からユノは魔法では直せないと聞いたので、魔力を回復させることは無意味に思えた。
侍従魔法使いも部屋から出してしまうと、キリヤの広い部屋には、暖炉の炎が燃え盛るパチパチという音だけがやたら大きく響くようだった。
キリヤの天蓋付きの大きなベッドの上に横たわるユノ。
凍傷による皮膚の変色はキリヤとサランにより直せたが、意識は戻る様子もない。
体は酷く冷たいままで、唇や頬は色を失ったままだ。
きしり、と音を立てて眠ったままのユノの隣に体を置いた。
「ユノ……戻ってきてくれ……っ」
冷えた体が温まる様にぎゅっと抱きしめた。
だが、おずおずと背に回される腕はいつまで待っても動かない。
いつもはキリヤが抱きしめると、二人の胸が合わさって、互いの心臓の音が馬鹿みたいにうるさくなる。
二人ともどうにかなりそうなほど互いに心臓を高鳴らせていることが分かるのに。
今日はユノの高鳴る心臓の音は伝わってこない。
今にも消え入りそうな弱弱しい音がかろうじて聞こえるのみだ。
静かに静かにこの音が消えてなくなるのではないかと思われて、それが怖くて怖くて体が震える。
『光の魔法使い』は命と引き換えに国を守らないといけないことがある。
若くして命を失うかもしれないと知ったときも絶望と恐ろしさで震えたが、自分は生き残って戦争で親を亡くして泣く子供を作らない、という強い思いが希望になった。
だが、ユノを失ってしまったその先に、キリヤは一筋の希望も見出すことができなかった。
真っ黒な泥濘にずぶずぶと全身が沈んでいくような絶望。
震える指先で青白い頬に触れた。
氷のように冷たい。
そっと冷たい唇に唇を重ねる。
お伽噺だとこれでお姫様は目を覚ますはずなのに。
ユノの瞳は見えないまま。
「愛している……っユノ……っ」
気持ちを込めて語り掛けても、ぴくりとも動かない。
「お願いだ、目を覚ましてくれよ……っ」
キリヤの慟哭もユノには響かない。
キリヤは体の芯を凍り付かせてしまったユノに愛を伝えるために思いつく限りの言葉を紡いで抱きしめたが、ユノは深く眠ったままだった。

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