82 / 122
6章
汽車の中3
しおりを挟む
青い瞳はいつもよりもとろんとしている。
「キリヤはユノと同じ汽車で行ける様に大分無理したんだよね」
イヴァンが苦笑しながら言った。
「昨日寝てない」
心なしか声もとろんとしている。
「体壊しますよ。着くまで寝た方がいいです」
「ん。でもそれ一つ食べたい」
眠気のせいかどこか幼気な声で強請られる。
「あ、マカロンですね。はい。どうぞ……?」
淡いピンクのマカロンを一つ摘まんでキリヤに渡そうとしたが、キリヤは受け取ろうとはせず口を少し開いた。
「え……と、キリヤ?」
ユノが戸惑いながら問うても、キリヤは口を開いたまま。
向かい側に座る三人の視線が痛かったが、キリヤは頑固に口を開いたままだったので、ユノはその口にマカロンを運んで食べさせた。
キリヤはとろんとした目でさくっと半分ほど齧り咀嚼して飲み込む。
「ん……」
ひと口食べ終わると、キリヤはもう一度小さく口を開けてもうひと口ねだるような仕種。
か……可愛い……
普段は男らしく、落ち着いているクールな男の愛らしい様子がたまらなくて、ユノはドキドキしながら、残りのマカロンをキリヤの口元に近づけた。
ひと口で食べられそうな大きさだったので、美しい唇の中にそっと残りを指で押し込んだ。
「……?! ひ……っ」
指先に熱くぬるりとしたものを感じてユノは驚きの声を漏らしたのだ。
キリヤがマカロンを食べるついでにユノの指先も舐めたのだ。
驚きの声を上げたユノは、さっきまでのとろんとした瞳ではなく、さも面白そうに笑っているキリヤの青い瞳とぱちりと目が合った。
「美味しかった。ごちそうさま」
マカロンのことなのか、指のことなのか。
「は……? なっ……」
分からないように悪戯っぽく言うキリヤにユノは顔を真っ赤にして意味のない言葉を紡いだ。
そんなユノを見て楽しそうにキリヤが笑ったときだった。
「あーーーー!! あっまーい!! 甘すぎて吐きそう!!」
サランが立ち上がって叫びだした。
「サラン、甘いお菓子好きじゃなかったっけ?」
イヴァンが紫色の髪をさらりと揺らして言う。
「マカロンのことじゃないっ!! 治癒学の授業のときも授業中なのに甘くて甘くてどうしようと思ったけど、こんなのずっと見てたら『魔法動物の谷』に着く頃には僕デブになっちゃうよ!」
「太りにくい体質なんじゃなかったか?」
そう的外れに突っ込んだのはアンドレア。
「もーお坊ちゃま達はこれだから……! これ以上僕がここに居たら太っちゃってスタイル抜群のサランじゃいられなくなっちゃう! イヴァンとアンドレアのコンパートメントに戻るよっ。ハイクラスのだから超リッチなコンパートメントなんでしょ? 僕見てみたい!」
「まぁそうだね。椅子ももっとフカフカだし、汽車の中だからさすがに広いとは言い難いけどちょっとした応接室みたいにはなっているよ」
「じゃあ是非そのコンパートメントを庶民の僕に見学させてよ」
大して高級な調度品に興味もないサランだがやけくそ気味に言うと、イヴァンとアンドレアの二人を強引に立たせてコンパートメントを出ようとした。
「いや、ちょっと待ってくれサラン。ここは王宮でも学園でもないからキリヤ様の警護をしなくては」
「はぁ?! 鈍感なの?」
生真面目な顔をしてアンドレアが応えるとサランが叫んだ。
「鈍感? 何がだ」
「このままここで喧嘩するなら、紅茶を飲んで待っていてもいいかな?」
「紅茶飲むなら移動してからにして、イヴァン! 護衛ならユノがいるから大丈夫でしょ、アンドレア! ユノめちゃめちゃ強いの知ってるじゃん! 行くよっ」
サランは今度こそ二人を連れてスタンダードクラス用の狭いコンパートメントを足音荒く出て行った。
「キリヤはユノと同じ汽車で行ける様に大分無理したんだよね」
イヴァンが苦笑しながら言った。
「昨日寝てない」
心なしか声もとろんとしている。
「体壊しますよ。着くまで寝た方がいいです」
「ん。でもそれ一つ食べたい」
眠気のせいかどこか幼気な声で強請られる。
「あ、マカロンですね。はい。どうぞ……?」
淡いピンクのマカロンを一つ摘まんでキリヤに渡そうとしたが、キリヤは受け取ろうとはせず口を少し開いた。
「え……と、キリヤ?」
ユノが戸惑いながら問うても、キリヤは口を開いたまま。
向かい側に座る三人の視線が痛かったが、キリヤは頑固に口を開いたままだったので、ユノはその口にマカロンを運んで食べさせた。
キリヤはとろんとした目でさくっと半分ほど齧り咀嚼して飲み込む。
「ん……」
ひと口食べ終わると、キリヤはもう一度小さく口を開けてもうひと口ねだるような仕種。
か……可愛い……
普段は男らしく、落ち着いているクールな男の愛らしい様子がたまらなくて、ユノはドキドキしながら、残りのマカロンをキリヤの口元に近づけた。
ひと口で食べられそうな大きさだったので、美しい唇の中にそっと残りを指で押し込んだ。
「……?! ひ……っ」
指先に熱くぬるりとしたものを感じてユノは驚きの声を漏らしたのだ。
キリヤがマカロンを食べるついでにユノの指先も舐めたのだ。
驚きの声を上げたユノは、さっきまでのとろんとした瞳ではなく、さも面白そうに笑っているキリヤの青い瞳とぱちりと目が合った。
「美味しかった。ごちそうさま」
マカロンのことなのか、指のことなのか。
「は……? なっ……」
分からないように悪戯っぽく言うキリヤにユノは顔を真っ赤にして意味のない言葉を紡いだ。
そんなユノを見て楽しそうにキリヤが笑ったときだった。
「あーーーー!! あっまーい!! 甘すぎて吐きそう!!」
サランが立ち上がって叫びだした。
「サラン、甘いお菓子好きじゃなかったっけ?」
イヴァンが紫色の髪をさらりと揺らして言う。
「マカロンのことじゃないっ!! 治癒学の授業のときも授業中なのに甘くて甘くてどうしようと思ったけど、こんなのずっと見てたら『魔法動物の谷』に着く頃には僕デブになっちゃうよ!」
「太りにくい体質なんじゃなかったか?」
そう的外れに突っ込んだのはアンドレア。
「もーお坊ちゃま達はこれだから……! これ以上僕がここに居たら太っちゃってスタイル抜群のサランじゃいられなくなっちゃう! イヴァンとアンドレアのコンパートメントに戻るよっ。ハイクラスのだから超リッチなコンパートメントなんでしょ? 僕見てみたい!」
「まぁそうだね。椅子ももっとフカフカだし、汽車の中だからさすがに広いとは言い難いけどちょっとした応接室みたいにはなっているよ」
「じゃあ是非そのコンパートメントを庶民の僕に見学させてよ」
大して高級な調度品に興味もないサランだがやけくそ気味に言うと、イヴァンとアンドレアの二人を強引に立たせてコンパートメントを出ようとした。
「いや、ちょっと待ってくれサラン。ここは王宮でも学園でもないからキリヤ様の警護をしなくては」
「はぁ?! 鈍感なの?」
生真面目な顔をしてアンドレアが応えるとサランが叫んだ。
「鈍感? 何がだ」
「このままここで喧嘩するなら、紅茶を飲んで待っていてもいいかな?」
「紅茶飲むなら移動してからにして、イヴァン! 護衛ならユノがいるから大丈夫でしょ、アンドレア! ユノめちゃめちゃ強いの知ってるじゃん! 行くよっ」
サランは今度こそ二人を連れてスタンダードクラス用の狭いコンパートメントを足音荒く出て行った。
応援ありがとうございます!
59
お気に入りに追加
3,989
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる