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6章
秘密の場所への来訪者
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「ほんと、心臓に悪すぎるよ」
ユノの家に突然現れた時といい、神出鬼没の彼に振り回されている気がする。
自分に会いに来る時間があるなら少しでも休んでほしいとも思うが、今ユノの心が温かく満たされたように、彼を少しでも元気にすることができたとうぬぼれてもいいだろうか。
まだ触れられた唇が熱を持っている気がして、ふぅ、と小さく吐息を零した時だった。
かたり、と物音がした。
「キリヤ? 忘れ物でも……えっ?!」
物音に顔を上げるとそこにいたのはキリヤではなかった。
「こんなところにキリヤを呼びつけて誑かしていたんだ。図書館だったとは盲点だよ」
美しい黄金色の髪がユノの視界に入りこんだ。
「シュリ……」
「ずっと僕と一緒にいたのに、突然いなくなるから一人で受けている『治癒学発展』の教授のところにでも行っているのかと思ったら、ここでお前と会っていたなんてね」
シュリが笑うと悪意が籠った笑いでも天使が笑ったような純粋な笑顔に見える。
「僕はね、術師としての力を買われてキリヤの傍でギルラディアのドレイク宰相の動きを占っている。今回いち早くドレイク宰相の動きが怪しいと気付いたのは僕の父上だ」
シュリがコツコツと靴音を立ててユノに近づいて来る。
「平民のお前は『光の魔法使い』であるキリヤの役に立てるのか? 僕や僕の家の能力はキリヤの命を守るために大いに役立てることができる。少し人より魔法ができるくらいの平民がキリヤの周りをウロウロするな」
すぐ近くで、天使のように透き通った美しい瞳がユノを射抜いた。
あまりの美しさにユノは息を呑んだ。
だが。
「……っでも平民だって役立てることはあります」
美しすぎる瞳をじっと見返してユノは言った。
「ふん。言ってろ。平民は学園の外ではキリヤに近づくことさえも許されない。いい加減自分の立場を理解しないとまずいことになるよ、お前」
鼻で笑うようにシュリは言った。
「どういうことですか?」
ユノが眉を顰めると、シュリは美しく笑って言った。
「お前さ、北の国境にある村の出身らしいね」
コツ……と濃茶の板張りの床を鳴らしてユノに近づくと、美しい唇をユノの耳元に寄せた。
噎せ返るような薔薇の香りにユノは眩暈がした。
「ギルラディアの村と随分仲がいいらしいじゃないか。どういうつもりだ?」
「どういうつもりって、そんなのどちらの村も厳しい環境に置かれているので生きていくために協力しているだけです」
ユノはシュリから一歩距離を取り、睨みつけた。
やましいことなど、何一つ無い。
「果たして、王国の中央からはそのように見えるかな? キリヤに近づいて吸い取った情報を敵国に流している、そんな風にも僕には見えるよ」
「……スパイだって言いたいんですか?」
ユノの問いにシュリは肩を竦めた。
「僕はこの後またキリヤと王宮で一緒に仕事をしないといけなくて忙しいから、もう行くけれど、必要以上にキリヤに近づくと、そういう疑いを掛けられるということも覚えておくといい」
そう高らかに宣言すると、シュリは図書館を後にした。
ユノの家に突然現れた時といい、神出鬼没の彼に振り回されている気がする。
自分に会いに来る時間があるなら少しでも休んでほしいとも思うが、今ユノの心が温かく満たされたように、彼を少しでも元気にすることができたとうぬぼれてもいいだろうか。
まだ触れられた唇が熱を持っている気がして、ふぅ、と小さく吐息を零した時だった。
かたり、と物音がした。
「キリヤ? 忘れ物でも……えっ?!」
物音に顔を上げるとそこにいたのはキリヤではなかった。
「こんなところにキリヤを呼びつけて誑かしていたんだ。図書館だったとは盲点だよ」
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シュリが笑うと悪意が籠った笑いでも天使が笑ったような純粋な笑顔に見える。
「僕はね、術師としての力を買われてキリヤの傍でギルラディアのドレイク宰相の動きを占っている。今回いち早くドレイク宰相の動きが怪しいと気付いたのは僕の父上だ」
シュリがコツコツと靴音を立ててユノに近づいて来る。
「平民のお前は『光の魔法使い』であるキリヤの役に立てるのか? 僕や僕の家の能力はキリヤの命を守るために大いに役立てることができる。少し人より魔法ができるくらいの平民がキリヤの周りをウロウロするな」
すぐ近くで、天使のように透き通った美しい瞳がユノを射抜いた。
あまりの美しさにユノは息を呑んだ。
だが。
「……っでも平民だって役立てることはあります」
美しすぎる瞳をじっと見返してユノは言った。
「ふん。言ってろ。平民は学園の外ではキリヤに近づくことさえも許されない。いい加減自分の立場を理解しないとまずいことになるよ、お前」
鼻で笑うようにシュリは言った。
「どういうことですか?」
ユノが眉を顰めると、シュリは美しく笑って言った。
「お前さ、北の国境にある村の出身らしいね」
コツ……と濃茶の板張りの床を鳴らしてユノに近づくと、美しい唇をユノの耳元に寄せた。
噎せ返るような薔薇の香りにユノは眩暈がした。
「ギルラディアの村と随分仲がいいらしいじゃないか。どういうつもりだ?」
「どういうつもりって、そんなのどちらの村も厳しい環境に置かれているので生きていくために協力しているだけです」
ユノはシュリから一歩距離を取り、睨みつけた。
やましいことなど、何一つ無い。
「果たして、王国の中央からはそのように見えるかな? キリヤに近づいて吸い取った情報を敵国に流している、そんな風にも僕には見えるよ」
「……スパイだって言いたいんですか?」
ユノの問いにシュリは肩を竦めた。
「僕はこの後またキリヤと王宮で一緒に仕事をしないといけなくて忙しいから、もう行くけれど、必要以上にキリヤに近づくと、そういう疑いを掛けられるということも覚えておくといい」
そう高らかに宣言すると、シュリは図書館を後にした。
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