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6章

束の間の逢瀬1

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「キリヤ会長、まだ学園には戻ってないみたいだね」冬期休暇が明け学園生活が再開し、最初の『治癒学発展』の授業。
隣の席には誰もいないユノの元にやってきたサランが言った。
「うん。そうみたい」
ユノの隣のぽっかり空いた席を見ると、彼がユノの故郷までやってきたことは夢か幻だったのではないかと思ってしまう。
「きっともうすぐ戻ってこれると思うってアンドレアは言っていたけれど……」
サランの大きな瞳がユノを心配そうに見ながら言う。
「準備をしっかりすることはキリヤの為になるだろうからね。俺としては急いで帰ってこなくてもいいって思ってるよ」
大丈夫、とサランにユノは笑いかけた。
冬期休暇はギリギリまでクルリ村で過ごしたのでノースシュトレイン急行に揺られて王都に戻ったのは明日から学園が再開されるという日の前日になってからであった。
王都の駅ではいつものようにサランが出迎えてくれた。
王都の駅前に相応しい広い馬車回まで迎えに来てくれたアンドレアとその日は三人で王都で食事をしてから学園に帰った。
キリヤはかなり忙しくしているとその時もアンドレアは顔を曇らせながら言っていた。
そして翌日から学園生活が再開し、数日が経過したが生徒会室にも授業にもキリヤは現れないということは学園に戻ってきていないということだろう。
「そか。じゃ。とりあえずお昼行こう! お腹すいてたら何もできないもんね!!」
そう言ってサランがユノを励ますように言って一歩前に立って教室から出ようとした時だった。
ひらりと一枚の小さな薄青い紙が舞って、ユノのローブのポケットに滑り込んだ。
「え……?」
『言の葉送り』だ。
しかも、この色は。
ユノはすぐに小さな紙片に書かれたメッセージを確認した。
「……ごめん。サラン。お昼先に食べてて」
「ユノ?!」
サランが叫んだ時にはすでにユノは駆け出していて、サランの驚いた声は背中で受け止めた。
『治癒学発展』が開講されている大教室からユノは全速力で校内を駆け抜けた。
こげ茶色の板張りの廊下を走り大教室のある高学年棟から中庭に出ると、図書館に向かった。
放課後は課題や勉強に励む人で大いに賑わう図書館だが、昼休みに突入したばかりの時刻。
生徒たちは一斉に食堂に集中しているせいで、図書館は開いているもののひっそりとしていた。
ユノの身長よりもずっとずっと高い本棚の間をいくつも通り抜け、一階の一番奥。
図書館の裏庭に面していて、大きな本棚で隠されたようないつもの場所。
其処に走りこむと、プラチナ色に輝く美しい光が見えた。
「ユノっ」
その光がユノの目に飛び込んだ次の瞬間にはユノは慕わしくてたまらないムスクの香りに包まれていた。
「キリヤ……っ」
彼の腕の中、ぎゅうっと抱きしめられたあと、大きな掌がユノの頬に触れた。
それから火傷しそうに熱い唇がユノの唇に触れた。
触れた瞬間は優しかったが、すぐに我慢できないというように強く唇を押し当てられた。
「ユノ……っ……ユノっ……」
口づけながら狂おしく何度も何度も名前を呼ばれる。
「ん……っ」
深くなる口づけに足元が覚束なくなり、キリヤの首に回す腕に思わず力が籠る。
応える様に力強い腕がユノの腰を一層強く抱き込んだ。
彼の感触と、香り。
会いたくて、会いたくて思い続けたユノには刺激が強すぎてユノはクラクラと眩暈がするようだった。
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