平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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5章

冬の休暇~年上の幼馴染という存在と恋人~

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見送るつもりでユノも上着を着こんで二人で外に出た。
ユノの家より少し離れた雪原に馬車は止まっているらしい。
凍てつく空気の中だが、少しだけまだ甘い空気を纏ったまま歩く。
その時だった。一人の兵士が曲がり角から現れた。
「ユノ!」
驚いた声を上げる兵士。
「ニコライ! 久しぶり!」
屈強な兵士だが、ユノを見て相好を崩した。
ユノもそれはそれは嬉しそうに男のもとに駆け寄った。
「そろそろ会いに来てくれると思っていたんだが、待ちきれなくて村長のところに行く用事があったからお前の顔が見たくて家に寄ろうと思っていたんだ。会えてよかった」
「いつも結局ホリデーパーティの日まで行けなくてごめんね。今日は村長のところ?」
ごめんね、と言いながらも何でも許してくれるニコライと分かっているので会えた喜びをユノは隠しきれず笑顔を見せてしまう。
「あぁ。そうだ。ホリデーパーティの料理に使う小麦と七面鳥を分けてくれるそうだ。こっちも食料は大変だろうにありがたいことだ。彼は……ユノの学友か?」
ニコライはユノのすぐ後ろに立っているキリヤに視線を向けて尋ねた。
「うん。学校の友人が来てくれたんだ」
「どこに行っても誰にでも好かれるな、ユノは。こんなところまで彼は君を訪ねて来てくれたのか?」
そう友好的に話しながらも、明らかにユノとは違い上流階級に見えるキリヤをニコライは目を眇めて鋭い視線で眺めた。
クルリ村とギーク村の間に立ち、いくつもの修羅場を潜って二つの村を繋ぐ年上の親友は時折ユノやマルクルを守るためにこういう視線で初めて会う人を見ることがある。
「初めまして。ユノの友人のキリヤと申します」
その値踏みするような視線に気づかない、とでもいうようにキリヤは微笑んで手を差し出した。
美しい彼はそれだけでもはっとするほど絵になる。
「ニコライです。国境の警備をしています。こんな田舎では見ないような人だな」
そう言って目を光らせたニコライとキリヤは握手を交わした。
「ユノに休暇中に会えないのが寂しくて、会いに来ました」
キリヤはニコライの目を真っ直ぐに見て言った。
しばし、静寂が訪れ、二人が握手の手を解くとユノが口を開いた。
「今日子供たちに教えていたんだけど、先月一番年下のマイが発熱したときに治ニコライが癒院まで連れて行ってくれたんだって? マルクルは嵐の中だと箒の飛行が荒くなるから、子供を乗せるのに向いてなくて。こちらこそありがとう」
「たいしたことじゃないさ。食料を貰えて助かっているし、ユノが王都に行く前は、優しいお前は当たり前に村の隔てなくやってくれたことだろう」
ニコライは目尻をうんと柔らかくして蕩けそうな視線をユノに向けて言った。
「明日村のホリデーパーティが終わったら、マルクルとそっちの詰所に行くね」
ユノはいつも手放しに自分を褒めてくれる彼の言葉が擽ったくて照れくさくなって話を変えた。
「おう。ユノと夜通し話せるのを楽しみにしているから待っている」
「夜通し起きていられるかな。俺ニコライのそばに居ると一緒に寝ていたとき寝かしつけてもらっていたせいか眠くなっちゃうんだよ」
ニコライはユノの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
ニコライのそんな仕種はユノの父親を思い出させる。
両親を亡くしてユノとマルクルが夜中寝付けなくなったとクルリ村の村長から聞いたニコライは、しょっちゅう隣村から泊まりに来てはユノとマルクルと一緒に寝てくれた。
どんなに寒い夜でも温かい彼の手は今日も温かくて、ユノは飼い主に撫でられた猫にでもなった気分になって目を細めてしまう。
「ユノ」
するとキリヤがユノを呼び、肩をそっと抱くと自分の胸もとにぎゅっと引き寄せた。
「あっキリヤは馬車を待たせて居るんですよね。ニコライ、ごめん。俺達もう行かなくちゃ」
「会うと話が尽きなくなってしまうな、俺達は。キリヤさん、お待たせしてしまい申し訳ない。ユノが王都でお世話になっている学友に会えてよかった。この子は俺達のために無理をしすぎるところがあるから、どうか学園で無理して勉強しすぎることがないよう見守ってやってください。よろしくお願いします」
ニコライは深々とキリヤに頭を下げると、ユノたちが向かう方向とは逆の村の中心にある村長の家へ向かうべく行ってしまった。
頭を下げたのち、顔を上げたニコライとキリヤの瞳が瞬間ぶつかったような気がしたが、ニコライはユノに後でな、と小さく手を振り、すぐに立ち去った。

「彼はギルラディアの国境警備兵のようだったが……?」
ニコライの大きな背中を見送りながらキリヤが言った。
外は寒いけれど、キリヤが肩をぎゅっと抱いて歩いてくれるので背中も肩もぽかぽかで温かい。
鼻先をユノの髪に潜らせているのが少し恥ずかしいけれど。
「見逃してくれてありがとうございます。そうです。彼はギルラディアの兵士です。ですが、国境に面しているギルラディアのギーク村の皆とは昔から助け合って暮らしているんです。先の戦いのとき、全滅にならず、子供や老人を助けてくれたのはいつも助け合ってきた彼らだったんです。俺もさっきのニコライのお父さんに匿ってもらって生き延びました。助け合って生きてきたので本当に仲がいいんです」
「そういえばユノは故郷を復興させ、学校や治癒院を作ったら隣の村はギルラディアだが、そこの子供たちも通わせたいと話していたな」
キリヤは以前図書館でユノと語らったときのことを思い出すように言った。
「彼らはギルラディア共和国の国民ですが、シュトレイン王国への侵攻を快く思っていません。それよりもドレイク宰相にはギルラディアで続く食糧難の解決に取り組んでほしいと願っているんです。ギルラディアのドレイク宰相はシュトレインを取れば豊かになると国民に謳っていますが、豊かになるのは結局上流階級だけなんですよね。国境付近の住民は、本当に仲がいいので戦争なんて望んでいません。むしろ国交が回復すれば、貿易や旅行などで国境である両村を通る人が増えこの辺りも栄えると考えています」
「なるほど。ギルラディアの我が国への侵攻は国民全てが望んでいることではない。そういうことなんだな」
ユノの言葉にキリヤはこくりと頷いた。
「はい。しかし、ドレイク宰相の圧政は酷いですから、そう思っていることが知れたら投獄は免れないでしょう。だから、中々その声は聞こえてきづらいかと思いますが、少なくとも国境警備隊やギーク村のみんなはドレイクの政権が倒れることを願っています」
二人は雪道にサクサクと足音を付けながらごく小さな声でぎゅっと身を寄せ合って会話した。
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