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5章
冬の休暇~ユノの家1~
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「狭い……ですよね」
キリヤの部屋には入ったことはないが、噂によるとハイクラスの寮はかなり豪華なものであるらしいし、王宮のキリヤの部屋などと言ったらきっとユノには想像もつかないほどものに違いない。
こんな部屋に招き入れるのは気が引けるが、ここまで来てもらって玄関先で帰すわけにもいかなかったし、何よりユノももっと一緒に彼と居たかった。
「暖かくて居心地がいい。ユノそのものみたいな家だな」
ダイニングとリビングの機能を両方揃えている部屋には小さな暖炉とソファ、そして小さなテーブルがあるだけだが、暖炉の中にいる火の妖精が心地よい暖かさを生み出している。
「俺が建てたからですかね」
ユノは小さく笑って言った。
ここは戦火で焼失した父母と暮らした家をできる限りの記憶を辿って再現した家だ。
二人掛けの小さなソファなのは、三人で団らんするときはユノは父か母の膝に乗っていたからだ。
そんな小さなソファに二人で並ぶ。
ユノが指をさっと回すと、紅茶のポットと楓の蜜の瓶がキッチンから現れた。
小さなテーブルにカップが二つ並ぶと、そこにふわふわの湯気が立ち上る温かい紅茶が注がれる。琥珀色のお茶に楓の蜜をスプーンに掬って垂らす。スプーンでそっと混ぜるとくるくると回りながら紅茶に溶けていった。
「珈琲を淹れてもらったときも思ったが、ユノは飲み物を淹れるのがやっぱり上手だな」
キリヤは感心して言った。
「侍従魔法使いの方が俺よりずっと上手でしょう」
「侍従とは淹れ方が全然違う。おいしい」
ひと口飲んでキリヤは微笑んだ。
「よかった。ここは冷えるから冬の飲み物は温まる紅茶ばかりで、珈琲は用意がなくて」
美味しいと言われてユノはほっとした表情を見せた。
それからどうしても胸に引っかかっていたことを口にするべく、ユノは勇気を持って唇を開いた。互いの思いは確認したが、気になっていることを放っておいたままではいられない性分だったし、
「王室というのは、複数のパートナーを持つのはよくあることなんですよね?」
ユノの問いにキリヤは少し考えるような素振りを見せた後答えた。
「そうだな。跡取りの問題や政治上の繋がりとして複数の婚姻を結ぶことがある」
おそらくキリヤは誠意を持って正直に答えてくれたのであろうがユノの胸がツキりと痛んだ。
「もしかして、僕が複数のパートナーを持つのではないかと思っている?」
キリヤは俯いたユノを覗き込むようにして答えた。
「だって……現にキリヤはパートナーがすでにいるじゃないですか……」
「僕にパートナー? 先ほどユノにも僕を好きだと言ってもらったから、僕はユノがパートナーだと思っているけれど、ユノ以外にもパートナーがいると思っている?」
「違うんですか?」
「恋人はユノ以外は誰も作るつもりはないし、婚約もしていないよ。学園の生徒たちはいろいろと噂が好きだけれど、どれも噂に過ぎない」
彼はユノの瞳を見てはっきりと言いきった。
「でも、シュリはパートナーなんですよね?」
キリヤはユノの言葉を聞いてはっとしたような表情になった。
「君が引っかかっていたのは『その』パートナーか……」
キリヤは漸くユノの言っていることを理解したという表情になり、続けた。
「シュリのフィザード家がシュトレイン家の『術師』ということは知っているだろう? その中で一人の王族に一人の『術師』が宛がわれる。例えば僕の父上にはシュリの父親、王太子である兄上にはシュリの姉上と言うようにそれぞれに専属の『術師』がいる。それで僕専属の『術師』がシュリなんだ。そしてその関係を『王族と術師のパートナー』と呼ぶんだが、長いので『パートナー』と呼ぶ者が多い。王族や貴族の間ではよく知られたことだったが、そうしなければならないという法律があるわけでもなくてただの慣習だから王宮に出入りする者でなければ知らなくても不思議はない」
キリヤの言葉を聞いて、ユノは自分の勘違いを知った。
「そう、なんですか」
驚いたユノの表情を見てキリヤは続けた。
「兄上は王太子だからはすでに婚約者がいる。だけど僕は『光の魔法使い』だから、いつどこでどうなるか分からない。だから政略的な意味合いでの結婚やパートナーを作ることを強制されることはない」
それは一見キリヤに自由があるように聞こえるが、実はそうではないということにユノは気が付いて顔を曇らせた。
先の『光の魔法使い』であったキリヤの叔父、トーマが黒の魔法使いとの戦いで命を落としたことからも分かるように、光の魔法使いは自らの命と引き換えにして国を守らなければならないことがあるのだ。命の危険がある立場だから、パートナーを自由に選べるというのは何ともやるせない。
「命を落とすと決まっているわけじゃない。歴史を振り返ると、命を落とすことなく使命を果たした光の魔法使いも沢山いる。僕だって覚悟はしているけれど、使命と引き換えに命を落とすつもりなんてない」
ユノの曇った表情を見て、ユノが察したこともキリヤは気が付いた。
「僕も君も果たすべき使命をしっかり果たして……それで君と幸せになりたいし、君とならそういう未来も思い描けると思ったんだ」
キリヤの部屋には入ったことはないが、噂によるとハイクラスの寮はかなり豪華なものであるらしいし、王宮のキリヤの部屋などと言ったらきっとユノには想像もつかないほどものに違いない。
こんな部屋に招き入れるのは気が引けるが、ここまで来てもらって玄関先で帰すわけにもいかなかったし、何よりユノももっと一緒に彼と居たかった。
「暖かくて居心地がいい。ユノそのものみたいな家だな」
ダイニングとリビングの機能を両方揃えている部屋には小さな暖炉とソファ、そして小さなテーブルがあるだけだが、暖炉の中にいる火の妖精が心地よい暖かさを生み出している。
「俺が建てたからですかね」
ユノは小さく笑って言った。
ここは戦火で焼失した父母と暮らした家をできる限りの記憶を辿って再現した家だ。
二人掛けの小さなソファなのは、三人で団らんするときはユノは父か母の膝に乗っていたからだ。
そんな小さなソファに二人で並ぶ。
ユノが指をさっと回すと、紅茶のポットと楓の蜜の瓶がキッチンから現れた。
小さなテーブルにカップが二つ並ぶと、そこにふわふわの湯気が立ち上る温かい紅茶が注がれる。琥珀色のお茶に楓の蜜をスプーンに掬って垂らす。スプーンでそっと混ぜるとくるくると回りながら紅茶に溶けていった。
「珈琲を淹れてもらったときも思ったが、ユノは飲み物を淹れるのがやっぱり上手だな」
キリヤは感心して言った。
「侍従魔法使いの方が俺よりずっと上手でしょう」
「侍従とは淹れ方が全然違う。おいしい」
ひと口飲んでキリヤは微笑んだ。
「よかった。ここは冷えるから冬の飲み物は温まる紅茶ばかりで、珈琲は用意がなくて」
美味しいと言われてユノはほっとした表情を見せた。
それからどうしても胸に引っかかっていたことを口にするべく、ユノは勇気を持って唇を開いた。互いの思いは確認したが、気になっていることを放っておいたままではいられない性分だったし、
「王室というのは、複数のパートナーを持つのはよくあることなんですよね?」
ユノの問いにキリヤは少し考えるような素振りを見せた後答えた。
「そうだな。跡取りの問題や政治上の繋がりとして複数の婚姻を結ぶことがある」
おそらくキリヤは誠意を持って正直に答えてくれたのであろうがユノの胸がツキりと痛んだ。
「もしかして、僕が複数のパートナーを持つのではないかと思っている?」
キリヤは俯いたユノを覗き込むようにして答えた。
「だって……現にキリヤはパートナーがすでにいるじゃないですか……」
「僕にパートナー? 先ほどユノにも僕を好きだと言ってもらったから、僕はユノがパートナーだと思っているけれど、ユノ以外にもパートナーがいると思っている?」
「違うんですか?」
「恋人はユノ以外は誰も作るつもりはないし、婚約もしていないよ。学園の生徒たちはいろいろと噂が好きだけれど、どれも噂に過ぎない」
彼はユノの瞳を見てはっきりと言いきった。
「でも、シュリはパートナーなんですよね?」
キリヤはユノの言葉を聞いてはっとしたような表情になった。
「君が引っかかっていたのは『その』パートナーか……」
キリヤは漸くユノの言っていることを理解したという表情になり、続けた。
「シュリのフィザード家がシュトレイン家の『術師』ということは知っているだろう? その中で一人の王族に一人の『術師』が宛がわれる。例えば僕の父上にはシュリの父親、王太子である兄上にはシュリの姉上と言うようにそれぞれに専属の『術師』がいる。それで僕専属の『術師』がシュリなんだ。そしてその関係を『王族と術師のパートナー』と呼ぶんだが、長いので『パートナー』と呼ぶ者が多い。王族や貴族の間ではよく知られたことだったが、そうしなければならないという法律があるわけでもなくてただの慣習だから王宮に出入りする者でなければ知らなくても不思議はない」
キリヤの言葉を聞いて、ユノは自分の勘違いを知った。
「そう、なんですか」
驚いたユノの表情を見てキリヤは続けた。
「兄上は王太子だからはすでに婚約者がいる。だけど僕は『光の魔法使い』だから、いつどこでどうなるか分からない。だから政略的な意味合いでの結婚やパートナーを作ることを強制されることはない」
それは一見キリヤに自由があるように聞こえるが、実はそうではないということにユノは気が付いて顔を曇らせた。
先の『光の魔法使い』であったキリヤの叔父、トーマが黒の魔法使いとの戦いで命を落としたことからも分かるように、光の魔法使いは自らの命と引き換えにして国を守らなければならないことがあるのだ。命の危険がある立場だから、パートナーを自由に選べるというのは何ともやるせない。
「命を落とすと決まっているわけじゃない。歴史を振り返ると、命を落とすことなく使命を果たした光の魔法使いも沢山いる。僕だって覚悟はしているけれど、使命と引き換えに命を落とすつもりなんてない」
ユノの曇った表情を見て、ユノが察したこともキリヤは気が付いた。
「僕も君も果たすべき使命をしっかり果たして……それで君と幸せになりたいし、君とならそういう未来も思い描けると思ったんだ」
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