平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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5章

冬の休暇~二人の誓い~

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「わっ……」
ユノの体はムスクの香りに包まれて後ろから抱き上げられ宙に浮いていた。
「これで一番上に付けられるだろ」
耳元に流し込まれて、ユノの鼓膜を震わせた低い声。
「え……?」
「ほら早く」
突然抱き上げられて、動揺しながらも、優しく促すような声に従って震える手でツリーの一番上に星を付けた。
凍てつくほど寒い空気の中なのに、後ろから抱きしめるように抱えあげられて、体の中が熱くなって、湯気が出てしまいそうだった。
ユノが星を付けると、そっと優しく、降ろされた。
振り返ったら、居ないんじゃないか。
ユノがあまりに会いたくて、会いたくて、幻が現れたのではないか。
ユノは恐る恐る振り返ると、そこにはツリーの星よりも眩いプラチナ色の彼の髪と青い瞳。
「な……なんで……?」
「僕がユノの代わりに星を付けても良かったけど、ユノが自分で付けたかったんじゃないのか?」
驚いて目を瞠るユノに、キリヤはいつもの調子で話す。
「そ……そうだけどっ……いや、そうじゃなくてっ……」
「ふはっ。どっちなんだよ」
動揺するユノの様子に噴き出すように笑ってキリヤが言う。
「い……忙しいんじゃ……」
「あぁ。忙しいな。忙しいが、ユノに会いたかった」
久しぶりのキリヤは、少し顔が青白くて目の下の隈が目立っていたが、笑顔は息を呑むほど美しかった。
「な……でここが……」
ここに現れるはずがない男がいることに動揺しすぎて、ユノはうまく言葉が紡げない。
だって王都からここまで来るには、かなりの長時間汽車や馬車に揺られなければならない。
朝王都を出ても村に着くのは日が暮れた後だ。
それほどの距離なのである。
「何でここがわかったかってことか? 昔、ここで会っただろう。そのことを思い出しながら来た」
「そ……そうだけどっ……そうじゃないって……」
先ほどと同じようなことを言ったユノにキリヤはまた笑う。
静かな村の外れにキリヤの笑い声が響く。
キリヤは革の手袋をそっと外してコートのポケットに入れた。
そして凍てつく空気のせいか、それとも白い吐息がかかるほどに彼が近くにいるせいかわからないけれど、真っ赤になったユノの頬をその手でそっと撫でた。
「そうだな。僕は以前、君とは子供のころ会ったことがないと嘘を吐いた」
とても愛おしくてたまらないというように、ユノの頬に触れるキリヤ。
心臓の音がうるさくて、キリヤに聞こえてしまいそうだった。
「君に僕の魔法石を贈ったと知られたら、大変なことになると思ったんだ。嘘を吐いて悪かった。君が入学していると知って遠くからずっと君を見ていた。だから賢いとは知っていたが、僕はそもそも平民は守るべきものだと思っていた。生徒会に在籍したり、僕とかかわりを持ったりすると危ない目に遭うこともわかっていた。君がいかに賢くとも貴族が本気になったら君を消すこともできてしまう。だから君を遠ざけた方がいいと思っていた」
一息に言った後、彼は深く息を吐いた。
吐き出した吐息は震えているようで、彼が緊張しながら自分の気持ちを必死に伝えていることが分かった。
「でも君を知れば知るほど離れられなくなった。そして僕自身も命をかけて君を守ると覚悟ができたからあの時図書館で君に告白をしたんだ」
彼はそう言うと、ユノのコートのポケットの中にするりと手を滑らせた。
そして青い魔法石の付いたブローチをそっと取り出した。
王族や貴族などの位の高い魔法使いの一部は特別な魔力のこもった魔法石と言われる美しい宝石を握りしめて母親から産まれてくる。
貴重なそれを何に使うかは人それぞれだが、半分を自分自身のお守りとして、残りの半分を結婚の約束をする指輪にするものが多い。
「俺、その魔法石がすごく大切なものだってわからずに受け取っちゃって。キリヤもまだ子供だったし、その大切さがわからず俺に渡してしまったんですよね? だから、ずっとキリヤに返さなくちゃいけないと思っていました」
返そうとしたとき受け取ってもらえないから、困ったなぁと思っちゃって、と笑うユノ。
「この石の大切さは物心ついてから何度も言われていたことだから、あの時も理解していた。幼いながらわかっていて僕は君に渡したんだ」
キリヤはユノのポケットから取り出したブローチを右の掌に置き、左の指先をブローチの上でそっと回した。
ブローチは内側から光を放つように輝いたかと思うと、静かに形を変えた。
そしてやがて一つの指輪に形を変えた。
「キリヤ……っ?」
動揺するユノの手をキリヤは取ると、その指先にそっと出来上がったばかりの指輪を嵌めた。
「君は、ダンスパーティの後その場限りの終わりが見えている恋ならばいらない、と言った」
「そ……そうだけど……っこんな……」
彼の瞳と同じ青く輝く美しい石が、ユノの神経質そうな細い指先に光った。
「あの場で君に何を言っても、君には口先ばかりにしか聞こえないだろうなと思った」
そう言ってキリヤは息を静かに吐いた。
それはとても彼が緊張しているように見えた。
「学園を卒業して君と離れても、僕はこうやって君に会いに来る。ここは王都からとても遠いけれど、こんなに忙しい今でさえもこうして会いに来ることができる。絶対にここに会いに来るって、一生愛するって誓うから……っ」
そこまで言うと、凍てつく空気の中彼はユノを胸にぎゅっと抱きしめた。
指輪を返して、彼の腕から出ないといけない。
友人としてキリヤを助けたいけれど、国の王子である彼の恋人になろうというのは、こんな片田舎の平民には分不相応の望みだ。
しかもその片田舎をどうしてもどうしてもユノは捨てられない。
それなのに。
「好きだ……ユノっ」
彼のためにも、自分のためにも。
好きじゃない、と言って彼を突き放すべきなのに。
そう言って彼の力になるだけの友人でいるべきなのに。
「俺も……キリヤが好き……っ」
どうしても、拒めない。拒みたくなかった。
こんな関係長続きするはずがないとわかりきっているのに。
鼻の頭を赤くして、目の下にくっきりとした隈を作って、こんな地の果てのような村までやってきた彼の姿にすっかり絆されてしまった。
彼の背に回した腕に力を込めると、もっと強い力で抱きしめ返された。
凍てつく空気の中でも彼の腕の中は、温かかった。
いつか時が来たら、この腕の中からちゃんと出るって誓います。
それまで、少しの間だけ、どうかこの美しい彼を俺に下さいー――――

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