平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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5章

冬の休暇~故郷の幼馴染~

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サランとアンドレアに仲がいいんだか悪いんだかよくわからない見送りをされながらユノは王都の駅を出発した。
黒く磨き上げられて蒸気を吐き出しながら走る立派な汽車に半日ほど揺られると、シュトレイン王国の北部最大の都市である『北の都』に着く。
北の都はシュトレイン北部の北の起点でもある重要な都市だ。
シュトレイン王国の侵略を試みるギルラディア共和国はシュトレインの北上に位置するため、この都市をまずは狙われる。
この都市を傷つけないために、先の戦争では国境付近のクルリ村が戦場の地となった。
そんな街でもあるが、クルリ村から一番近い都市であるため、ユノにとってもなじみ深い街であった。
ユノは黒く大きな機関車から降りた。
ここより北部に向かう乗客は殆どいないため、この先へ行く汽車はない。
通常は半日ほどかけてここから箒でクルリ村へ向かうか、馬車で迎えを頼まなくてはならなかった。
「うー長かった……」
ユノはホームで腕を伸ばして深呼吸をすると、北部の冬独特の刺すほどに冷たい空気が肺に流れ込む。
収納バッグに上手に纏められたので荷物は少なかったものの、着込んだコートやマフラーでユノはモコモコになっていた。
北の都の駅の改札にあるゲートは汽車の切符を翳すと開く仕組みだ。
小さな羊皮紙の切符を翳して改札を出ると、この国の一番北の大都市なだけあって、出迎えの人が多くいた。
その中に見知った顔を見つけてユノは顔を綻ばせた。
「ユノ! おかえり!」
満面の笑みで迎えてくれたのはクルリ村に住む幼馴染の三歳年下のマルクルだった。
名前のとおりクルクルした巻き毛が可愛い弟のような幼馴染だ。
まだ十五歳なのに、村のために国境警備隊として働いている。
体は小さいが格闘技がとても得意で国境警備隊として初等部を卒業してから村のためにずっと尽くしていて、同じく戦闘孤児のマルクルはユノの弟のようなものだ。
「マルクル! ありがとう!」
ユノも笑顔で駆け寄って、二人は真っ白な駅で抱き合った。
「荷物持ちしようと思ったけど、さすがだね。上手に収納バッグに纏めているから手伝うことないや」
あはは、とマルクルは明るく笑う。
「昔は収納バッグに収められなかった荷物手一杯で帰って来てたもんねぇ」
ユノも明るいマルクルに釣られて笑う。
「そうそう。ユノ一年生の時なんてやばかったよね」
「トランク二つにボストンバッグも持ってたよね、俺。あ、そういえば警備隊の詰所俺の迎えのためにこんなに長い時間空けて大丈夫?」
マルクルが迎えに来てくれるのは嬉しかったが、クルリ村の警備隊は万年人手不足だ。
本来ならばユノは警備隊の一人として村にとって大切な人員であった。
だからユノがシュトレイン王国立魔法学園に入学するとき、村は大いに揉めた。
話し合いの結果ユノが学園で学んで村に持ち帰ってくるものは大きいと村民が期待してくれたこともあるが、一つ年下のマルクルが早いうちに警備隊に入ってくれたこともユノが入学できた大きな要因の一つでもある。
『ユノが卒業して村に帰ったら勉強を教えてくれればそれで大丈夫! 帰って来るまでユノの代わりに俺頑張るよ』
そのように言ってくれて、初等科を卒業することなく辞めてくれたまだ幼さの残るマルクルのことを思い出すと、ユノはより一層勉強を頑張ることができたのだ。
「大丈夫! ルカとニコライが見ておいてくれるから。早くユノを迎えに行っておいでって言ってくれたのも二人だし」
マルクルはニコニコと年上の二人の幼馴染の名前を出した。
「二人ともギーク村の警備隊なのに申し訳ないけど、本当にありがたい」
ユノはしみじみと言った。
「そうだね。ギルラディア共和国領の村なのにシュトレインの国境警備の手伝いをしてくれているってなんか変だけど」
駅前にマルクルが停めてある馬車まで歩きながら二人は国が違うのに兄弟のように仲がいい年上の幼馴染の話をした。
同じシュトレインの中での隣村となると、一山超えなくてはならないため、国は違うが昔から隣村と言えば国境となる一本の川を挟んですぐのギーク村のことであった。
戦場となってしまったクルリ村の子供たちや老人をこっそり匿ってくれたのもギーク村の村民だ。
厳しい北の地域という環境下にある北の村は遠くに住む国民より、近くに住む隣国の住人と助け合わなければとても生きていける場所ではなかった。
北の都の駅舎を出ると、賑わう北の都の駅には少々釣り合わないが、見慣れた古ぼけた村の幌馬車が見えた。
かなりの雪山の道を行くため、馬だけの力では村へ着くのは難しい。
そのため、雪山の上り下りは二人で交代しながら馬車に魔法を掛けながら村へ向かわなければならない。
積もり積もった話をしたり、時折うとうと眠ったりしていると、ようやく村へ着いた。
村と言っても小さく寂れた村である。
「じゃあ俺は国境警備隊の詰所に戻るね。ゆっくり会えるのは村のホリデーパーティが終わった後かな?」
村のホリデーパーティには国境警備隊は参加できないから、いつも終わるとユノは御馳走の残りを持って詰所に行くのが恒例だ。
むしろそっちの方がユノにとっても本当のホリデーパーティのようなものだった。
その小さなホリデーパーティは国境の川を超えた隣国ギルラディアの国境警備隊であるニコライとルカも合わせた四人のパーティであるということ。
この四人で過ごすパーティは先の戦争で親を亡くした心を慰めるために年上のニコライとルカが始めてくれた大切なイベントだ。
「そうだね。それまでは村の子供たちの勉強をしっかり見る約束になっているから。いつもどおり村のホリデーパーティが終わったらそっちに行くね。あ、これ王都で買ってきたお土産。ニコライとルカの分も入っているから渡しておいてもらえる?」
ユノが指先を振ると、クルリ村にはない綺麗な薄紙に丁寧に包まれた菓子がふわりと宙を舞ってマルクルの掌に収まった。
「わーい! 王都のお菓子嬉しい! ありがとう! じゃまたゆっくり話せるの楽しみにしてる」
小さな子供のように喜ぶマルクルと、隣で優しく笑うルカの乗る馬車が見えなくなるまでユノは手を振ると、半年ぶりの自宅の扉を開けた。
ユノの家は戦火で無くなってしまったが、建築魔法を習得したユノは帰省するたびにコツコツ作り続けたことや、村人たちの協力もあり、昨年再建することができたのだ。
あの頃とそっくりに建てた自分だけの小さな城。
「ただいま。父さん、母さん」
ユノは小さな声で呟いた。
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