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5章
冬の休暇~出発前~
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そして期末試験は無事に終わった。
「ユノ!! お待たせ!! 出発しようか。」
期末試験の後数日で冬期休暇に入る。
終業式の翌日はシュトレイン山を降りて各々の家に帰宅する生徒たちで寮の中は浮足立つ中、ユノ達の寮も騒がしかった。
「待って、サラン。出発前に火の精たちに魔法油を注いで挨拶するから」
第五学年のスタンダードクラス寮のエントランスにあるベンチに、帰省のための荷物を詰め込んだ収納バッグを置いて、忙しくエントランスのランタンに魔法油を注いで回るユノは後から階段を降りてきたサランにそう声を掛けた。
「そっか。しばらく寮を留守にするもんね。僕も手伝うよ」
サランもベンチ自分の収納バッグを置くと、ユノに倣って魔法油を注ぎだした。
ユノが教えたのでサランも火の精と挨拶程度のコミュニケーションが出来る。
二人でやるとあっという間に終わった。
「マルコさん、僕ら帰りまぁす!」
寮のエントランスにある小窓の奥にいて、寮の安全と風紀の乱れを防いでいる寮母のマルコにサランが声を掛けると、マルコはエントランスに出てきた。
「暫く留守にしますが火の精たちをよろしくお願いいたします」
ユノもマルコに挨拶をした。
「はいよ。いつもありがとうね。気を付けて帰るんだよ。特にユノ。あんたは家が遠いからね」
恰幅のいい初老の女性であるマルコは豪快に笑ってユノの背を叩いた。
そしてサランと二人並んで寮を出る。
すると寮の前にはすでに見慣れたと言っても過言でない、見事に美しい赤毛の馬と真紅の車体。家紋は言うまでもなく、ビスコンティ家のものだ。
「あ……」
サランは思わずと言うように声を漏らした。
「あいつ、本当にユノのことになるとマメだよねぇ」
「え? 俺? 俺だけじゃないと思うけど。あのさ……」
ユノが言葉を紡ごうとしたところで、アンドレアの侍従が歩み寄ってきた。
「ユノ様の帰省の列車は明日だそうですね? 今夜はサラン様のご実家にお泊りということでよろしいでしょうか?」
「あ……はい、そのつもりですけれど」
王都からユノが帰省するクルリ村までは列車だとほぼ丸一日かかる。
終業式の翌日早朝の汽車を予定していることが多いので、帰省するときはサランの実家で一泊させてもらうのが恒例となっている。
「ではサラン様のご実家までお送りいたします。お二人ともお乗りください」
アンドレアの侍従が恭しく言って二人を馬車の方に促した。
馬車に近づくと、アンドレアも降りて来て、ユノに手を伸ばし馬車の中にエスコートした。ユノが馬車に乗り込んだ後、アンドレアはサランにも手を貸した。
「アンドレアって見た目と違ってマメだよね」
「大したことじゃない」
アンドレアはぶっきらぼう言う。
「アンドレア。ありがとう」
ユノがそんなアンドレアに苦笑して言う。
「キリヤ様からユノのことをよくよく頼まれているからな。大変心配しておられた。サランはついでだ」
アンドレアは瞳や髪のように耳の端も赤く染めて言う。
「はぁ? わかってるよ! 別に言わなくてもいいだろ!」
サランが口を尖らせた。
「っとにお前はガキみてぇだな……」
「はぁ? ガキはどっち?」
またもや喧嘩を始めそうな二人。
「馬車で喧嘩しないの。アンドレアの侍従さんだって困っているよ。喧嘩は二人きりのときにして。ほら、二人ともキャンディ食べる?」
「食べるっ」
「……食う」
ユノは苦笑しながらセロファン紙に包まれたキャンディを仲良く声が揃った二人の手に落とした。
「ユノ!! お待たせ!! 出発しようか。」
期末試験の後数日で冬期休暇に入る。
終業式の翌日はシュトレイン山を降りて各々の家に帰宅する生徒たちで寮の中は浮足立つ中、ユノ達の寮も騒がしかった。
「待って、サラン。出発前に火の精たちに魔法油を注いで挨拶するから」
第五学年のスタンダードクラス寮のエントランスにあるベンチに、帰省のための荷物を詰め込んだ収納バッグを置いて、忙しくエントランスのランタンに魔法油を注いで回るユノは後から階段を降りてきたサランにそう声を掛けた。
「そっか。しばらく寮を留守にするもんね。僕も手伝うよ」
サランもベンチ自分の収納バッグを置くと、ユノに倣って魔法油を注ぎだした。
ユノが教えたのでサランも火の精と挨拶程度のコミュニケーションが出来る。
二人でやるとあっという間に終わった。
「マルコさん、僕ら帰りまぁす!」
寮のエントランスにある小窓の奥にいて、寮の安全と風紀の乱れを防いでいる寮母のマルコにサランが声を掛けると、マルコはエントランスに出てきた。
「暫く留守にしますが火の精たちをよろしくお願いいたします」
ユノもマルコに挨拶をした。
「はいよ。いつもありがとうね。気を付けて帰るんだよ。特にユノ。あんたは家が遠いからね」
恰幅のいい初老の女性であるマルコは豪快に笑ってユノの背を叩いた。
そしてサランと二人並んで寮を出る。
すると寮の前にはすでに見慣れたと言っても過言でない、見事に美しい赤毛の馬と真紅の車体。家紋は言うまでもなく、ビスコンティ家のものだ。
「あ……」
サランは思わずと言うように声を漏らした。
「あいつ、本当にユノのことになるとマメだよねぇ」
「え? 俺? 俺だけじゃないと思うけど。あのさ……」
ユノが言葉を紡ごうとしたところで、アンドレアの侍従が歩み寄ってきた。
「ユノ様の帰省の列車は明日だそうですね? 今夜はサラン様のご実家にお泊りということでよろしいでしょうか?」
「あ……はい、そのつもりですけれど」
王都からユノが帰省するクルリ村までは列車だとほぼ丸一日かかる。
終業式の翌日早朝の汽車を予定していることが多いので、帰省するときはサランの実家で一泊させてもらうのが恒例となっている。
「ではサラン様のご実家までお送りいたします。お二人ともお乗りください」
アンドレアの侍従が恭しく言って二人を馬車の方に促した。
馬車に近づくと、アンドレアも降りて来て、ユノに手を伸ばし馬車の中にエスコートした。ユノが馬車に乗り込んだ後、アンドレアはサランにも手を貸した。
「アンドレアって見た目と違ってマメだよね」
「大したことじゃない」
アンドレアはぶっきらぼう言う。
「アンドレア。ありがとう」
ユノがそんなアンドレアに苦笑して言う。
「キリヤ様からユノのことをよくよく頼まれているからな。大変心配しておられた。サランはついでだ」
アンドレアは瞳や髪のように耳の端も赤く染めて言う。
「はぁ? わかってるよ! 別に言わなくてもいいだろ!」
サランが口を尖らせた。
「っとにお前はガキみてぇだな……」
「はぁ? ガキはどっち?」
またもや喧嘩を始めそうな二人。
「馬車で喧嘩しないの。アンドレアの侍従さんだって困っているよ。喧嘩は二人きりのときにして。ほら、二人ともキャンディ食べる?」
「食べるっ」
「……食う」
ユノは苦笑しながらセロファン紙に包まれたキャンディを仲良く声が揃った二人の手に落とした。
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