平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

ゆなな

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5章

キリヤのために

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交流会が終わると、季節は秋から冬へとゆっくりと移ろい始める。
十二月に入ればすぐに定期試験があり、それが終わると一か月ほどの冬期休暇となる。
生徒たちはホリデーシーズンに合わせたこの休暇を心待ちにしているが、その前の試験勉強に追われていた。
「はぁ。楽しい休暇の前に試験なんてどうしてこの世に存在するんだろう。僕昨日の夜なんて、インク瓶の中で溺れる夢を見たからね……」
授業を終え、寮までの道のりをサランとユノの二人で歩いているとサランが大きなため息を吐きながらそのことを嘆いた。
箒で飛んで帰ればすぐだけれど、学園から寮までの銀杏の並木道を歩くのはいい気分転換になるため二人は並んで寮までの道のりを歩いていた。
道は銀杏の落ち葉で、まるで黄色い絨毯を敷いたようになっていた。
それをサランが軽く蹴り上げると、黄色い落ち葉はふわりと舞った。
「そんなこと言ってるけれど、結構サラン勉強頑張ってるよね」
「うん。まぁそんなんだけど……でも試験近づいてきたー!って雰囲気やっぱ苦手。ま、試験前だとユノの図書館のお手伝いも生徒会の仕事もなくなるから一緒に寮に帰れるのは嬉しいんだけれどね」
そう言ってくれたサランにユノは一緒に帰れて俺も嬉しいよ、と返した。
今は試験前で、奨学金で学園に通っているユノは何を置いてでも勉強に打ち込まなければならない時期だ。
それなのに。
『ユノを諦めない』
そう言った男は交流会のダンスパーティの後学園から忽然と姿を消している。
そのせいで頭の中は彼のことでいっぱいだった。
「……そういえば、隣国のギルラディアで大規模な軍事演習がまた行われたらしいね。十四世が崩御された後もドレイク宰相の封印の魔法が解けていないようだったから安心していたのに」
黄色い銀杏と晴れ渡った青のコントラストが美しい、穏やかな晩秋の午後と似つかわしくない不穏なことをサランが口にした。
「そうみたいだね……まさか戴冠式が魔法が解けるきっかけになるなんて……」
ユノは気が重くなるその話に頷いた。
生徒会室でもその話でもちきりだ。
喧嘩をしながらも時折アンドレアはサランのところにふらりと現れているようだったし、ユノが拾った子猫のチビの面倒は二人でみているようだった。
きっとサランもアンドレアから聞いたのだろう。
「会長もそれが理由で最近城に戻ってるんでしょ?」
サランがユノに尋ねた。
「……多分そうなんだろうけど、俺もわからないなぁ。ただどんな時でもキリヤは学業を疎かにしなかったから全く来れないと言うのは相当大変なことが起こっているんだろうね」
ユノが自身の履き古した靴の先を見ながら重苦しく言うと、サランはユノを覗き込んだ。
「会長はユノにも言っていないの? アンドレアも詳しいことは聞いていないって。学園が冬期休暇の時に騎士団に戻れば情報が聞けるかもしれないけれど、交流会の後ギルラディアの動きが怪しいって言ってシュリと城に帰ってからはアンドレアも連絡が取れていないらしい」
サランの言うとおり交流会の後アンドレアもキリヤに会えていないと生徒会室で心配していた。
シュリのフィザード家と国の正式な『術師』を争っている家系であるイヴァンはアンドレア以上に国の中央部からの情報はないそうだが、彼の占術からドレイク宰相に先の『光の魔法使い』が掛けたはずの『封印の魔法』が解けてしまったことをユノ達は聞いていた。
「キリヤからは何も聞いてないんだ」
『言の葉送り』は届いているが、時折『言の葉送り』は事故を起こしてしまうことがあるので、そこには政治的なことは書かれてはいなかった。
『学園に戻れないが元気にしている。君は変わりないだろうか。君に会えなくて寂しい』
万一他人に見られたときのことを考えあえて名前は書かれていない『言の葉送り』の紙は、ローブのポケットに、青い魔法石のブローチと共に入れてあった。
サランと話しながら、ユノは心を落ち着かせるようにポケットに手を入れて、それらに触れた。
先日イヴァンの『占術』が当たっていると裏付けるギルラディア共和国の軍事演習記事が新聞に載って以来、ユノに押し寄せる不安をなだめるように。
「会長はただの王族ではなく、『光の魔法使い』の継承者だから、城に帰った理由を考えると心配だよね」
サランがユノの気持ちを察するように言って、そっとユノの肩を励ますようにポンポンと叩いた。
親友の温かい気遣いに、気持ちが少し和らぐ。
隣国ギルラディア共和国はかつて王国であったが、王を殺害し宰相となったドレイクが治めるようになった国で、十年前にこのシュトレイン王国を侵略しようと試みている。
そこで、黒魔法を使うドレイクに対抗し、活躍したのが『光の魔法使い』であるトーマ・シュトレイン、キリヤの父である国王シュトレイン十五世の弟でキリヤの叔父に当たる人物である。
そして現国王シュトレイン十五世とこの国をドレイクから守ることと引き換えに、トーマは命を落としている。
「トーマ殿下がいらっしゃらないから、『光の魔法使い』は会長だけだもんね。ギルラディア共和国が不穏な動きをすると、動かなくちゃいけなくて待っているユノはしんどいね」
サランは足元の銀杏の葉を蹴り上げながら言った。
これまで連綿と続いているシュトレイン家次男の『光の魔法使い』の継承者だが、トーマ・シュトレインのように黒魔法を使う魔法使いから国や王位継承者を守る代わりに、若くして命を落とす者が多いのだ。
もちろん全ての継承者が命を落としているわけではない。
だが、先の戦いで封じられた魔法が解けたドレイク宰相が、密かにまたシュトレインを手に入れるべく暗躍していると聞くと、とても心穏やかではいられなかった。
「世の中の動きが不穏なら、なおさら有事の時には何か役立てるように魔法の勉強頑張らないといけない……」

ただ彼の安全を祈り待っているだけなんて、どうしてもできない。
彼の命を守るために調べること、役立てることが必ずあるはずだ。
サランに、というより自分に言い聞かせるようにユノは言って、寮への道のりを急いだ。
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